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「若者の本離れ」は幻想だった! Z世代の読書事情に迫る

記事:平凡社

若者はどんな本を選んでいるのか
若者はどんな本を選んでいるのか

2023年6月15日刊、平凡社新書『「若者の読書離れ」というウソ』(飯田一史著)
2023年6月15日刊、平凡社新書『「若者の読書離れ」というウソ』(飯田一史著)

 この本は、10代、とくに中高生の読書を扱う。おそらく書名に興味を引かれて手に取られた方が大半だと思うが、サブタイトルの「中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか」を扱っている。

 もちろんメインタイトルに偽りのない内容を扱っている。けれども、それにとどまらず、いわゆるZ世代が好むものについて知りたいというマーケティング的な動機から手に取ってくださった方にも、日々「どうやったら本を読んでもらえるんだろう」と思案している保護者や教育関係者、司書、あるいは出版関係者にも、気づきのあるものをめざして書いた。読者のみなさんが10代だったころとの類似点と相違点を知ることによって、大人が若者を理解し、いいコミュニケーションが生まれるきっかけになればと願っている。

「今の若者が読んでいる本」を本当に知っているのか

 教育関係者やメディアは「若者の本離れが進んでいる」「歯ごたえのある文学を読まなくなった」としばしば語る。ではみなさんは、若い人たちの読書の「実態」をどのくらいご存じだろうか。統計的に見ると月に平均何冊本を読んでいるのか。どんな本を読んでいるのか。あるいは、昔は本当にたくさん本を読んでいたのか。

 おそらくほとんどの方は、断片的な情報しか知らないだろう。「ドラマやアニメになった作品の原作小説を読んでいる」とか「ライトノベル(ラノベ)が好き」とか「森絵都さんや重松清さんが書くような、YA(ヤングアダルト)向けの小説を読んでいるんでしょう」とか。そして「もっとこういう本を読むべきだ」とも思っているかもしれない。

 しかし、現状がどんなもので、いったいどんな中身のものが好きなのかがわからないのに「こういうものを、このくらい読むべき」と子ども・若者に押しつけたところで、彼ら/彼女たちは喜んで受け入れるだろうか。自分に置き換えて考えてみてほしい。たとえば、仕事が多忙をきわめて食事を取るヒマもなくストレス過多になっている人が、健康診断で悪い結果が出てしまい、「もっとバランスのいい食事と運動を心がけ、休みをしっかり取ってください」と頭ごなしに医者に言われたら? 「それができる環境にいたら苦労しない」と思い、素直に言葉を受け入れることはないだろう。

「ラノベ=中高生向け」はもはや成り立っていない

 本書で詳しく書いていくが、子ども・若者の読書に関しては誤ったイメージが蔓延している。まず、「子どもの本離れ」は進んでいない。小中学生の書籍の読書に関しては2000年代以降、不読率・平均読書冊数ともにV字回復している。一方で文庫ライトノベル市場は2013年以降の約10年で半減以下となり、学校読書調査で中高生の「読んだ本」上位にあがるラノベのタイトル数も減少した。「ラノベ=中高生向け」という前提はもはや成り立っていない。また「YA」と名の付く出版レーベルから刊行された小説は、ラノベ以上に学校読書調査上で読んだ本の上位にはほとんどあがっていない。各出版社のYA専門レーベルの刊行点数は全盛期に比べると減少しており、書店に「児童書棚」はあっても「YA棚」はないところのほうが多い。

 だがこうした実態に基づかない古いイメージは、なかなか消えない。

 筆者は、子ども・若者の読書をめぐる論評や施策について二つ問題があると考えている。

 ひとつは今言ったように、実態ではなく「たぶんこうなんだろう」というイメージ”に基づいた提言がなされていること。

 もうひとつは、現状を把握し、当事者たちの気持ちに寄り添うことからではなく、大人が考えた「こうあるべき」「こうするべき」という“べき論”や打ち手”(施策)、あるいは良いか悪いかといった評価”の話から入ってしまいがち――もっと言えば、「最近の若者はダメになっている」という若者劣化論を大人が語って溜飲を下げることになりがちな点だ。

 実は、中高生向けの読書案内・ブックガイドや読書コミュニティづくりに関する本はあっても、10代、とくに中高生の読書の「実態」をテーマにした本はほぼ存在しない。もちろん、そうした読書案内等にも価値はある。だが一般論として言えば、まず相手を理解しないことには、がんばって提案しても善意の「押し売り」になりかねない。

 10代は人生のなかでも多感な時期である。思春期に触れたものの記憶は、のちのちまで残る鮮烈なものとなる。けれども最近の若い人たちが、その時期にいったいどんなものを好んで読んでいるのかを書いた本は、これまで存在しなかった。本書はその最初のものとなることをめざして書かれている。

『「若者の読書離れ」というウソ』目次

はじめに
第一章 10代の読書に関する調査
第二章 読まれる本の「三大ニーズ」と「四つの型」
第三章 カテゴリー、ジャンル別に見た中高生が読む本
第四章 10代の読書はこれからどうなるのか
あとがき

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