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世界17ヵ国で翻訳・出版の話題のバンド・デシネ『LA BOMBE 原爆』著者インタビュー【前篇】——広島への原爆投下までを克明に描く

記事:平凡社

1945年8月6日、広島に原子爆弾が投下された。原爆ドーム(当時は広島県産業奨励館)が激しく燃え上がる。
1945年8月6日、広島に原子爆弾が投下された。原爆ドーム(当時は広島県産業奨励館)が激しく燃え上がる。

『LA BOMBE 原爆』(上下巻、脚本=ディディエ・アルカント、L.-F.ボレ、絵=ドゥニ・ロディエ、翻訳=大西愛子・平凡社)
『LA BOMBE 原爆』(上下巻、脚本=ディディエ・アルカント、L.-F.ボレ、絵=ドゥニ・ロディエ、翻訳=大西愛子・平凡社)

日本で刊行されるという意味

写真左より、脚本を担当したディディエ・アルカント、L.-F.ボレ、絵を担当したドゥニ・ロディエ。
ボレの写真のみ© Fab Jouss
写真左より、脚本を担当したディディエ・アルカント、L.-F.ボレ、絵を担当したドゥニ・ロディエ。 ボレの写真のみ© Fab Jouss

——この7月、日本で『LA BOMBE 原爆』(上下巻)が刊行されます。日本は世界で唯一の被爆国です。日本で刊行されるにあたり、現在、どのようなお気持ちでしょうか。

ディディエ・アルカント(以下、アルカント):われわれのバンド・デシネが日本で出版されることをとても嬉しく、そして大変誇りに思います。というのも、今から45年前、ある日本の少年との出会いと約束がこの企画のきっかけになったからです。ですから、日本で刊行されるのはとても重要なことでした。しかし、私の個人的な理由だけではありません。「原爆」をテーマにしていますので、日本のみなさんに読んでいただくのは名誉なことで、われわれの仕事が認められたという嬉しい気持ちです。

——この本は、原爆投下以前の科学者や政治家、軍人たちの言動に焦点をあてている点が非常に新鮮に思えました。ナチス・ドイツによる原爆の開発を恐れ、アメリカでも早く開発をすべきだと前のめりになりつつも、原爆の危険性などを考え、投下の阻止に奔走するなど、原爆投下以前の様子が克明に描かれています。

アルカント:日本の皆さんは『はだしのゲン』という漫画を読まれていると耳にしました。ですから、広島と長崎でどれほどの悲劇が繰り広げられたのかはよくご存じだと思います。その一方で、原爆が投下される前のことについては、あまり知られていないような気がします。広島と長崎で起きた悲劇を二度と繰り返さないためには、誰がどのような目的で原爆を作ったのかを知ることも大事なのではないでしょうか。

 ただ、投下に至る一連の経緯を本のテーマにするということは非常にセンシティブなことでした。もしかすると、日本の読者から厳しい声が寄せられるかもしれません。その一方で、この本が日本でどのように受け止められるのかを知りたいという想いもあります。

 偶然にも、日本で刊行されるのとほぼ同じ時期にアメリカでもわれわれの本が発売されることになりました。日本とアメリカという、20世紀の世界の歴史における重要な役割を負う2つの国で刊行されるということは非常に喜ばしいことです。原子爆弾は、アメリカと日本においてまったく異なるものとして受け止められています。ですから、この本が両国においてより広い視野をもたらす一助となればと思うのです。

 再び話が個人的なことになって恐縮ですが、この本のための取材で広島を訪れたのですが、その時に案内してくださったガイドさんや日本の友人たちにも読んでもらえると思うと嬉しいです。そのガイドさんのお母さんは原爆投下前に広島に住んでおり、さまざまなアドバイスをいただいたのです。ガイドさんは、「いつかあなたがたの本が日本語になって、母に読んでもらえたらなあ!」と話していました。そのお母さんのもとにわれわれの本が届くことを思うと、日本での刊行は実に嬉しいことであると改めて感じています。

デュニ・ロディエ:ようやく日本での出版を実現することができ、とても光栄に思います。私たちの目的は、この悲劇に至る歴史的な出来事を、可能な限り史実に描くこと、この本に登場するさまざまな人物をうまく描き分けること、でした。そして何よりも、本という形に残るものにすることによって、われわれ人類が記憶すべき出来事を後世に託すという義務を果たすことでした。

1942年、アメリカのシカゴ大学においてウランの制御実験に成功した
1942年、アメリカのシカゴ大学においてウランの制御実験に成功した

世界中からの反響に驚く

——世界17カ国で翻訳され、大きな反響を呼んでいます。この夏、実際、日米でほぼ同じ時期に刊行されるというのも話題になりそうです。ここまで大きな反響があると予想されておりましたか。またそれらの反応に対してどうお考えでしょうか。

アルカント:正直言って、こんなに興味を持ってもらえるとは思っていませんでした。一般的にバンド・デシネはあまり翻訳されないことが多いのです。私はこれまでに約60冊のバンド・デシネを出版していますが、そのうちの約半分はオランダ語(*著者の母国のベルギーの第二言語)には翻訳されておりますが、他の言語に翻訳された本は10冊ほどしかありません。たとえ翻訳されたとしても、せいぜい1カ国か2カ国、という具合でした。その一方、『LA BOMBE 原爆』は17カ国語に翻訳されています。

 仕事への真摯な姿勢が評価され、われわれ3人の母国であるそれぞれの国(ベルギー、フランス、カナダ)、韓国、ポルトガルの5カ国で名誉ある賞をいただくことができました。またブリュッセルにあるNATO本部で開催された核抑止に関する円卓会議にも招待されるということもありました。そして世界中の読者から本の感想をいただきますが、どれも大変味深い内容です。われわれの本を手にした人たちがこの物語に同じような感情を抱いているということを知り、人類は共通の運命を共有しているのだと思いました。

インタビュー・後篇に続く

【後篇はこちらから】世界17ヵ国で翻訳・出版の話題のバンド・デシネ『LA BOMBE 原爆』著者インタビュー【後篇】——なぜ人類史上最悪の兵器が生まれたのか

[インタビュー・文=平井瑛子(平凡社編集部)]

ユダヤ人科学者、レオ・シラードがアインシュタインのもとを訪問し、アメリカによる原爆開発を訴えるシーン
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アメリカによる「マンハッタン計画」を主導したキーパーソン、軍人のレスリー・グローブスと理論物理学者のオッペンハイマーも登場
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ドイツの原爆製造を阻止するために、原爆製造に必要な重水の運搬を阻止した爆破事件も描かれている。こうした事件があったことはあまり知られていない
ドイツの原爆製造を阻止するために、原爆製造に必要な重水の運搬を阻止した爆破事件も描かれている。こうした事件があったことはあまり知られていない

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