子どもに高学歴を手に入れさせる方法!?――『2025年大学入試大改革』でつかむ! 大学入試の最新トレンドとは!?
記事:平凡社
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保護者にとって、子育てのゴールは「少しでも難易度の高い大学に合格させること」ではない。それはあくまで通過点に過ぎない。言うまでもなく、大学入試の結果はどうあれ、社会に出て自立できる子ども、自分の頭で考え、判断し、周りと協調しながら行動したり、自分の考えをきちんと表現できる子どもに育てることがゴールだ。
とはいえ、大学進学率が5割をゆうに超える今、保護者からすれば、「子どもがどの大学に進学するか」は大きな山だ。箱根駅伝にたとえれば、最終10区での目標が自立とすれば、大学入試は上りの5区のようなものだ。ただそのルートは、箱根駅伝とは違い、いくつも用意されている。子どもの中で受験したい大学が見えてきた段階で、親子一緒に、どのルートを走るのがベストかを検討することをおすすめしたい。
いくつかルートを挙げてみよう。
◇志望する大学に入学するまでのルート
○一般入試で受験=通常の入試パターン。大学の難易度に見合う学力が問われるが、強化方法が従来通りのため対策が立てやすい。その反面、予備校代のほか、複数の大学を受験するための受験料や旅費がかさむ
○指定校推薦入試で受験=高校での高い評定平均値が必要。早慶などの場合、校内選考が熾烈。出願すればほぼ合格できるが、他大学との併願はできない。国立大学にはこの制度がない
○学校推薦型選抜入試で受験=同じく高校での高い評定平均値、課外活動での実績が重視される。学校長から推薦される形だが、人気の大学・学部では高い競争率になるため「出願=ほぼ合格」とはいかない
○総合型選抜入試(自己推薦含む)で受験=「一芸入試」と呼ばれた時代とは異なり、小論文やグループディスカッションなどで学力を測るため、一般入試とは別の対策が必須。ただ、ランクが上の大学に合格する下剋上は起こしやすい
○帰国生入試で受験=海外留学期間が大学側の条件に合致しているかを確認する必要がある。高い語学力が求められるほか、高校時代、日本の教育を受けていないため、国語や地理・歴史などの自己学習が必要になる
○付属校からの進学=ほぼ全員、系列の大学に進学できる高校と、数割程度しか進学できない高校があるため、進学条件を確認しておく必要がある。ほぼ全員が進学できる場合でも、人気学部へは成績上位者しか進めない
以上、6つのルートでメリットとデメリットをまとめてみたが、一発勝負の一般入試を除けば、どのルートもある種の曖昧さを含んでいるので注意しておきたい。
指定校推薦の場合、地域のトップ校や準トップ校には、早慶上智やMARCH、関関同立クラスの推薦枠があるが、推薦枠がない高校は、中堅以下の私立大学の中から出願先を選ばなければならなくなる。
高校生の中には、「後伸び」(高校入学後、学力がアップ)する子どもも大勢いるため、焦って指定校推薦枠に飛びつき、中堅以下の大学で妥協してしまうと、先々、後悔することになるかもしれない。
また、指定校推薦入試や学校推薦型選抜入試の場合、評定平均値が同じ子どもが一枠を争うような場合、どうしても学校受けが良い子が有利になったり、いまだに地元の名士の子女が優先されたりする事例も存在するので留意しておこう。
率直に言えば、付属校から系列の大学に進学することは、オリンピックなどで言う「銅メダル」狙いと同義だと思っている。確実にメダルを狙える点ではプラスだが、それ以上の「金メダル」や「銀メダル」を諦めなければならないデメリットも存在する。
「中高一貫の6年間で考え方が変わり、学力も伴ってきたので、本当は〇〇大学に進みたいのだけど、系列の大学に進んだほうが確実で楽」
という気持ちに傾いてしまうと、誤った選択をしてしまうリスクもはらむ。
たとえば、系列の大学に医歯薬系の学部がない、音楽系の学部がない、あるいは、系列の大学よりも難易度の高い他の私立大学や国公立大学に進学したいと考えるようになったケースなどがこれにあたる。
大学付属校の場合、もう一つリスクが存在する。大学付属校の中で系列の大学への進学を前提にしている高校の場合、指定校推薦入試はさておき、学校推薦型選抜入試や総合型選抜入試で他の私立大学を受験しようとすると、
「学校側としては一校しか書類は作りませんよ」
「他大学を受けるということは、系列の大学への推薦は辞退すると考えていいですね?」
などと、平たく言えば「いい顔」をしてもらえないのだ。
子どもが通う大学付属の中高一貫校から系列の大学への進学率が高い場合、同様の問題に直面する可能性が高いので、早めに確認しておきたい。もっとも、近頃では、大学付属校の中にも、他大学への進学に寛容な高校、あるいは、むしろ積極的に後押ししている高校も増加している。
◇他大学への進学が容易な大学付属校
○大学への内部進学資格を留保したまま、他大学受験ができる高校
首都圏では、明治、中央、法政、学習院、成蹊、明治学院、日本女子、大妻女子、共立女子の付属校など。関西圏では、関西、同志社、立命館、甲南の付属校など。「系列の大学にない学部であれば」「2大学2学部まで」、もしくは「高校3年の12月までに結果が分かる総合型選抜入試や学校推薦型選抜入試であれば許可する」といった条件つきの学校が増加
このほか、中堅の日東駒専クラスの付属校の中にも、日大二高や専大松戸高など、他大学への進学率が内部進学を上回っている高校は多い。早稲田高や早稲田佐賀高など早稲田系列の高校でさえ、東京大学や京都大学など他大学への進学に力を入れている。
私立の中高一貫校は、難関大学や有名大学への「進学実績」を中学受験層にアピールしようとするところと、系列の大学に進学させようとするところに二極化している。「外へ出る」というなら、子どもが通っている付属校がどちらのタイプかを把握し、ギリギリまで二股をかけたうえで判断するのが上策と言えそうだ
東京大学、早稲田大学、それに慶應義塾大学の地域別合格者を見ると、年々、首都圏1都3県(東京・神奈川・埼玉・千葉)の割合が増加傾向にあることが分かる。このうち、東京大学では6割前後、早慶ではともに7割程度が1都3県の高校出身者で占められている。首都圏の私立の中高一貫校のほうが地方の公立高に比べ受験用のカリキュラムがしっかりしていること、塾や予備校が豊富で対策を立てやすいこと、そして、「上がる物価、上がらない賃金」が続き、そこに新型コロナウイルスの感染拡大も生じ、地元志向が強まったことなどが背景にある。
これは、全国から多様な人材を集めたい大学側にとって意に沿わない傾向だ。そのため、一般入試以外の部分で、地方出身者の割合を増やそうとしている。そこに、受験生やその保護者にとっては合格できるチャンスがあるのだ。早稲田大学社会科学部の総合型選抜入試、「全国自己推薦入試」では、わざわざ「全国」という部分を強調している。評定平均「4.0」以上で、学校外での諸活動や資格などでアピールできる高校生が出願することができる入試で、全国を7つのブロックに分け、各地域ブロックから五名程度の合格者を出す方式となっている。
また、法学部、文化構想学部、文学部、商学部、それに人間科学部やスポーツ科学部で実施している「地域探究・貢献入試」では、文字どおり「地域」がキーワードになっている。9月上旬に出願をする一次選考の提出書類では、地域の課題として感じていることについてのレポートを課している。大学独自の二次選考や大学入学共通テストも課すので、相応の学力は不可欠だが、地方の高校生にとっては有利になる入試制度だ。
慶應義塾大学法学部で実施されている総合型選抜入試、「FIT入試」でも、地方の高校生を採りたいという意欲がうかがえる。この入試は、出願時に成績不要のA方式と「4.0」以上の評定平均が求められるB方式との二種類があり併願もできるのだが、このうちB方式は、全国を七つのブロックに分けて選考している。B方式での募集人数は、法律学科と政治学科を合わせ80人程度なので、各ブロックから10人前後を合格させる計算になる。必ずしも首都圏の高校生が不利で地方の高校生が有利とは言えないのだが、1都3県以外の高校生で「慶應の法学部で学びたい」という強い意思を表現できれば有利に働くことは間違いない。
前述した東京大学の推薦入試でも、複数の合格者を出した高校(2023年度入試)を見ると、東京の都立小石川中等教育学校や早稲田高、千葉の県立千葉高など首都圏の進学校が並んでいるが、八戸高、秋田高、金沢泉丘高といった地方の公立進学校の名前も数多く見られる。
京都大学の特色入試も同様に、仙台二高、福井の藤島高、岡山朝日高など、関西圏以外の公立進学校が名を連ねているので、地方在住の高校生や保護者の皆さんは、条件が合うようであれば、これらの国立と私立を代表する難関大学に臆することなく挑戦してほしい。
構成/平井瑛子(平凡社)
はじめに
第一章 大学入試改革で問われる学力
第二章 共通テストで問われる新たな学力
第三章 難関を目指すなら総合型選抜入試
第四章 高学歴を手に入れさせる方法
第五章 家庭力で差がつく大学入試
第六章 親が変われば子どもは変わる
おわりに