急変化する入試に対応するための方法論――山内太地『偏差値45からの大学の選び方』
記事:筑摩書房
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「日本の大学をすべて見学した」著者の会心の一冊と言える。
還暦をまわった私の人生経験からして、選ぶのが最も難しいのは、「大学」「就職」「結婚」そして「老後の生き方」である。すべてが自分の一存では決められないし、ましてや第一志望の道を歩めるケースはまれだ。万が一、第一志望の道を歩めたとしても、その先は山あり谷あり、必ずしもいい未来が待っているわけではない。人生の大きな決断ほど、「正解のない問い」そのものであり、決めるのは簡単ではない。でも決断からは逃れられない。そんな人生の大きな決断において、多くの人の最初の関門が「大学」である。「大学」の中には「大学選び」と「大学受験」の二つの要素が含まれる。
「大学選び」を考える場合、その後の人生を視野に入れざるを得ず、社会に出た時にどんな世の中になっているのか、といった外的要因を考察しなければならない。それとともに、自分は一体全体どんな特性があって、何がしたいのかといった自己と向きあう必要がある。昨今の「大学受験」は保護者の世代とはまったく状況が異なる。現在の受験生の保護者は第二次ベビーブーム世代が多いが、その時代は最も大学入試が厳しく、「一浪は当たり前」の時代であった。それから30年あまりが過ぎ、大学は「選ばなければほぼ全入」の状況である。入学選抜も私立大学では一般受験の割合が近年ついに半分を割り、年内入試と呼ばれる「学校推薦型選抜」や「総合型(旧AO)選抜」が主流となってきている。
高校はこのような状況に十分対応できているのか、というと、そうとも言えないというのが長年教育現場にいる自分自身の率直な感想である。進路を担当している教員はベテラン教員が多いのだが、保護者と同世代であり、「大学」を取り巻く急激な状況変化に十分な対応が出来ているとは正直言いがたい。
特に21世紀になって以来の社会の変化は激しく、大学の多様な学部学科の存在に理解が追いついていない。「国公立」「早慶上理」「GMARCH」「関関同立」「日東専駒」……といった偏差値イメージの輪切りくらいでしか「大学選び」の情報を持ち得ていないのだ。入学選抜方法も、高校のレベルによって、「一般選抜」と「学校推薦」、あるいは「学校推薦」と「総合型選抜」といったタイプに二分されており、特に前者の高校の場合は年内入試の増加に対応するために、教育内容の再編を検討せざるを得ない状況に追い込まれている。
本書は、著者が日本のすべての大学を見学して得た情報を、あくまでも「自分が高校生だったら」という視点で優しく伝え、そして時には読者を揺さぶる本質的な問いかけをしている。
多くの受験生が第一志望の大学に行けないとするならば、第二志望をどのように選ぶのか、その情報がふんだんに提供されている。一例をあげると、
・「数学ができないなら理系は無理」といった高校の進路指導のやり方を補う大学の選び方
・国公立大の受験チャンスの積極的な活用方法
・偏差値にとらわれない私立大の選び方
・学校の先生や保護者の説得の仕方
・オープンキャンパスの活用法
・面接で人と差をつける方法
などなど、高校は持ち得ない情報や方法論が本書では存分に紹介されている。もちろん、方法論に飛びつくことが特効薬とは言えない。しかし、偏差値という指標にとらわれることのない、受験生一人ひとりにたいへん有用かつオリジナルな進路選択のアドバイスであると言えるだろう。
最後に勇気づけられるのは、「やりたいことがわからないで悩んでいる」読者に「やりたいこと探し」ではなく、「世の中を見渡して困っている人」を探したら良いという筆者の言葉である。愛あるメッセージが伝わってきてほっとした気持ちになった。受験生と保護者に是非読んでいただきたい。