教育とは、いのちを育み、自ら育とうとする力を支援する営み
記事:朝倉書店

記事:朝倉書店
「いのちを育む」ときいて、あなたが思い浮かべたことは何だろうか? ここで、あえて「いのちを育む」と表現する理由は2つある。
第一に、家庭や学校、地域などさまざまな場所において、多様な内容についての教育が行われているが、そのすべてに共通し、忘れてはならないのは、そもそも教育とは、「いのちを育み、自ら育とうとする力を支援する営み」ということである。家庭での子育ても、学校での授業も、社会教育施設での学びも、いのちを育み、育っていくことにつながっていく。このように考えると、第二に、「いのちを育む」とは、自分以外の誰かの手による行為だけではなく、自分が自分のいのちを育むという意味を持つようになる。「家庭でのしつけは基本的生活習慣を獲得し、社会のなかで他者とともに生きていくのに必要な素地を得るため」「学校での授業は社会のなかで自立して生きていくうえで必要となる知識を修得するため」「社会教育施設での学びは人生をより豊かにするため」…と考えることができ、教育は誰かの(役に立つ)ためだけではなく、「自分のため」ともいえる。
そこで本章では「いのちは誰のものか」について問い、「なぜ学ぶことが大切なのか?」について詳しく言及する。
出生以前から備わっている「育つための力」をもとに、育ち、学び、生きていくためには、「自ら育とうとする力」を開花させていく必要がある。その際に何より大切なことは、「いかなるときでも、どのような自分であっても、変わらずに愛されること」である。
いかなるときでも、どのような自分であっても、変わらずに愛されることにより、自分という存在がこんなにも大切にされ、愛されていることを、身をもって知る経験となる。それゆえ、自分で自分のことを大切にして、愛することにもつながっていく。そして、自分以外の誰かを大切に思い、いかなるときでも、変わらずに愛することを覚えていくことにつながる。
本書では、「教育」を学ぶあなたに向けて20のストーリーを紡いでいく。どのストーリーにも著者自身の人生や教育への思いがあふれている。一人一人のオリジナルストーリーがあると同時に、あなたの考えや価値観、人生とつながるように感じる部分もあるのではないだろうか。
あるひとのストーリーが他のひとのストーリーと交わるとき、そこに新たな対話と気づきが生まれる。とくに教育に関するストーリーは多様であるからこそ尊い。あなたのストーリーと交わることで生まれる、新たなストーリーを楽しみにしつつ、本書の概要を紹介する。まず幼稚園での実践から、小学校に入学する以前より、遊びを通して学んでいることを知ってほしい(コラム1)。次に、すべての教育の礎となる家庭について考える(第2章)とともに、里親支援(コラム2)に着目しながら、現代社会における多様な家族のあり方と、おとなを支えることがどのように子どもの育ちに還元されるのかについて問う。
続いて、学びの場を「学校」に移し、障害児をはじめ多様な背景を持つ子どもたちが出会い、教室で学び合うことについて具体的に紹介する(第3章&コラム3)。また、教室での学びは教師が主導するものだけではなく、生徒との相互のやりとりによって深まること(第4章)や学校にかかわるひととの協働により、深い学びが実現されること(コラム4)をみていく。さらに教員免許を取得し、教壇に立つことがゴールではなく、教師になって以降も、同僚とともに学び合うことで成長し、それが教育にいかされていくことについて考えたい(第5章&コラム5)。そのうえで、過去の出来事から学び、いまにいかすこと(第6章)と、多様な経験によって伝えること(コラム6)の重要性を確認する。
さらに、教育が学校だけでなく、そのひとに応じた「とき」に、さまざまな「場」において、多様に展開されること(第7章&コラム7)により、それが新たな学びとなり、可能性をひらくこと(第8章)、地域のなかに居場所(コラム8)や豊かな文化財と学びの場が保障されることで(第9章)、人生の可能性をひろげられることについて、不登校児への支援(コラム9)も通して伝えたい。最後に、海外の教育や状況と照らし合わせながら、日本の教育(第10章)と難民(コラム10)について取り上げる。
さあ、本書を道しるべに、教育について学んでいこう! あなたと教育について考えることを楽しみにしている。
第 1 章 教育とは,いのちを育み,自ら育とうとする力を支援する営みです
1.1 「いのちを育む」とは
1.2 「育つための力」から「自ら育とうとする力」へ
1.3 いかなるときでも,どのような自分であっても,変わらずに愛されること
1.4 「教育」を学ぶあなたに贈る20のストーリー
コラム 1 小学校以上とは異なる方法ですが,就学前にも教育は行われています
第 2 章 教育の礎である家庭について問いたいと思います
2.1 教育の礎となる家庭とは
2.2 子どもの思いを受け止める
2.3 ひととして生きていくための力
コラム 2 「子どものため」には,おとなを支えることから始めたい
第 3 章 教室は多様な子どもたちによる学びの宝庫です
3.1 多様な子どもたちがともに学ぶインクルーシブ教育
3.2 対話による思考の深まり
3.3 子どもたちの言葉が重なり合う授業
3.4 学びの契機となるコミュニケーションのズレ
3.5 教師の即興的な対応
3.6 多様性を楽しむインクルーシブ教育
コラム 3 子どもたちの言葉や考えが響き合う授業に取り組んでいます
第 4 章 豊かな学びは,教師とともに良き学び手によってつくられます
4.1 情動に満ちあふれた教師の仕事,教えるという営み
4.2 挑戦的集中と成長発達のチャンス―フロー体験―
4.3 授業における教師と子どもたちのフロー体験
4.4 授業における豊かな対話と子どもたちの学ぶ姿
4.5 即興の対話が生みだす教師と子どもたちの挑戦的集中
4.6 豊かな学びは,教師とともに良き学び手によってつくられる
コラム 4 主体的対話的で深い学びをともにつくっています
第 5 章 教師になることは,ゴールではなく,新たな学びのスタートです
5.1 授業における教師の学び
5.2 授業研究会における教師の学びの様子
5.3 授業研究会を通して学ぶために
コラム 5 子どもたちとともにあるために学び続ける人でありたいと思います
第 6 章 過去から学び,今にいかすことも,教育の大切な役目です
6.1 国際比較のなかでの日本の教師
6.2 日本における教育の近代化と教師像の変化
6.3 教師像の問い直し
6.4 池袋児童の村小学校における教師の探求
6.5 教育において「過去に学ぶ」とは?
コラム 6 企業経験があるからこそ,伝えられる教育もあります
第 7 章 教育は,学校だけで起きているのではなく,子ども以外も対象です
7.1 生涯にわたる学びの支援
7.2 社会教育施設とは
7.3 おとなも学ぶということ
7.4 ボランティア活動を通した学び
7.5 学習環境をともにつくりあげる存在としての学習者
7.6 多様な学習機会の創造に向けて
コラム 7 シャチとの信頼関係の秘訣は,人間の教育について学んだなかにありました
第 8 章 いつでも学び直せることも,新たなつながりを生むことも,教育の魅力です
8.1 学びたいときに学べる(学び直せる)
8.2 共生社会の実現のために教育は何ができるか
コラム 8 子どもにもおとなにも,地域のなかに安心できる居場所が必要です
第 9 章 図書館では,出会いと可能性がひらかれています
9.1 図書館という場
9.2 図書館という学びの場を創る
コラム 9 学校以外にも,あなたの良さをいかせる場所があります
第 10 章 日本の教育を世界へ発信し,世界から日本の教育を見つめ直すことも大事です
10.1 フィールドに飛び込んでみて
10.2 教育は海を渡る
10.3 21 世紀は国際学力調査の時代
10.4 コロナと比較教育学―共同編集の時代へ―
コラム 10 教育によって,明日へとつながる希望を届けたい
索 引