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バッハのオルガン音楽の魅力:聖霊降臨(ペンテコステ)の壮大なコラール「おいでください、主なる神、聖霊よ」を徹底解説

記事:朝倉書店

 『J. S. バッハのオルガン音楽 全曲解説』(朝倉書店)は、バッハが作曲したパイプオルガン曲(約310曲)をすべて網羅し、作品番号(BWV)順に並べ、1曲1曲を個別に解説した「事典」のような1冊。

 ここでは、聖霊降臨(ペンテコステ)の壮大なコラール「おいでください、主なる神、聖霊よ BWV 651」の解説を抜粋してご紹介します。

 ※どんな曲? →音楽配信サイト・動画視聴サイトなどで “BWV 651” で検索!

 ※どんな譜面? →国際楽譜図書館プロジェクトIMSLP

BWV 651
Komm, Heiliger Geist, Herre Gott (‘Leipzig Choräle’)
おいでください、主なる神、聖霊よ (ライプツィヒ・コラール)

【資料】
 C. F. ペンツェル、J. C. オーライ、J. P. キルンベルガーとJ. C. キッテルによるもしくは由来による筆写譜。

【楽譜】
 2段譜、P 271の表題は「J. J ...... による幻想曲」(イエスよお助けください ‘Jesu juva’)、「ペダルに定旋律canto fermo in pedal」(のちに表題に加えられた?)、「オルガノ・プレノでin organo pleno」。

【歌詞】
  歌詞は3節あり、聖霊降臨祭のアンティフォン (交唱)《聖霊よ、おいでください Veni sancta spiritus》の宗教改革以前の翻訳にルターによる2節が加えられ (エアフルト、1524年)、聖霊降臨節の3日間の主な賛歌となった。

Komm, heiliger Geist, Herre Gott, /おいでください、主なる神、聖霊よ、
erfüll mit deiner Gnaden Gut /あなたの恵みの善で満たしてください、
deiner Gläubigen Herz, Muth und Sinn, /あなたの信者たちの心と勇気と精神を。
dein brünstig Lieb entzünd in ihn’. /彼らのなかにあなたの熱烈な愛を灯してください。
O Herr, durch deines Lichtes Glanz /主よ、あなたの光の輝きによって
zu dem Glauben versammlet hast /あなたは信仰へと集められました、
das Volk aus aller Welt Zungen. /全世界の民を。
Das sei dir, Herr, zu Lob gesungen. /主よ、それがあなたへの賛美の歌となりますように。
Halleluja, Halleluja. /ハレルヤ、ハレルヤ。

 第2節は虚偽の教えからの保護を、第3節は忠実な信者を維持する意気込みを求める。

【旋律】
 旋律は歌詞とともに出版されたが、より古く、おそらく《聖霊よ、来たりたまえ Adeste, sancte spiritus》と関連している。後の草稿では異なる「ハレルヤ」がBWV 651と652 (他にはBWV 226、譜例171のように) にある。聖霊降臨のカンタータ第59番 (1723/24年)、第175番 (1725年) と第172番 (1714年、改作された) に使用され、《オルガン小曲集》に表題のみが記載されている。

 これは、J. S. バッハの「~による幻想曲」という題名が確実に出ている唯一の例であり (BWV 695、 713、 735については未確認)、他の主題とは対照的に、コラールに基づく長い幻想曲として、シャイトの《タブラトゥーラ・ノーヴァ》での使用を思い出させる。巨大で持続的な幻想曲で、音楽的にも教義的にも、《クラヴィーア練習曲集第3部》の前奏曲と同じくらい壮大である。この編曲は聖霊降臨祭への応答であることが容易に理解できる。

  すると突然、激しい風が吹き荒れるような音が天から聞こえてきて、それが彼らが座っていた家中に響き渡った。(使徒言行録2:2)

 この作品は、コラールを2つのレベルでパラフレーズした、勢いよく流れる主題 (譜例172)が、その内部でのくり返し (55~86小節= 12~43小節)、そして新しい主題(「ハレルヤ」、89小節目) により、見事に統一されている。まさに一連の旋律が冒頭の主題を紡ぎ出し、25小節目で新しい旋律を生み出して、忠実な信仰者たちの心を燃え上がらせる。

 もちろん、冒頭のプレノのペダルの持続低音は、演奏者にトッカータヘ長調を思い出させる。とりわけ (J. S. バッハのヘ長調ではよくあることだが)、冒頭の旋律がどちらもesに向かっているためである。ペダルにコラール旋律のある他の編曲では、ペダルがこのような始まりかたをするものはない。13小節目の持続低音point d’orgue の「属調の応答」は短く、コラール旋律のフレーズの最後の音として機能している。このコラール旋律の強力な主調・属調の牽引力は、1小節目以降、34 小節目以降とそれらのくり返しで巧みな処理が必要である。そしてここには和声的に高度な離れ業tour de forceを示す何かがある。コラール旋律の後のペダルの最後の数小節は、コーダ風の性質をBWV 655と733の終結部と完全に共有している。

 力があふれ、歓喜する16分音符は (BWV 655とは異なり) 一瞬たりとも止まることなく、最後の和音まで駆け抜ける。動き続ける技法はBWV 651aにもあるが、長いほうのこのバージョンでは自然に「疾走する風」をより多く生み出し、もう1つの聖霊降臨節の作品、BWV 667 (第2節) に匹敵する。「地球上のすべての言語」がこの絶え間ない響きの滝に参加しているかもしれないが、別の成熟したへ長調の作品、《平均律クラヴィーア曲集第2巻》前奏曲第11番にも同様の効果がみられる。

 間奏部はさまざまな調と重要なアポッジャトゥーラの主題 (25小節目) を提供し、ペダルのA音上の歌詞4行目の終わり (44小節目) は新しい転調の機会を与えている。BWV 651の新しい素材が円熟したライプツィヒ時代に属するという徴候、その半音階と《フーガの技法》のコントラプンクトゥスIVの61~80小節目との類似性、単純な反復進行と56~57小節目での声部数の縮小(BWV 544と547の中間のパッセージ参照)、巧妙なモチーフの使いかた (譜例172のモチーフbの同じフレーズが87~88小節目と102~103小節目にあり、これは《クラヴィーア練習曲集第3部》によくみられる)、そして最後の積み重ねかたである (コラール旋律とハレルヤと26小節目からのモチーフ。《カノン風変奏曲》と比較されたい)。

 BWV 651と651aの原資料は、「バッハはつねに長くなり、決して短くなることはなかった」という現代の理論を裏付けている。それでもなお、BWV 651の長大な長さが「コラール旋律の構造と作品の長さがそれぞれ互いに適切に比例する」(Breig 1986c p. 118) というひな型を生み出していることが真実であるとするなら、作曲者はその適切な比例を、もっと早く思いつかなかったのだろうか。

『J. S. バッハのオルガン音楽 全曲解説』朝倉書店
『J. S. バッハのオルガン音楽 全曲解説』朝倉書店

目次
■第I部 自由作品
1. 教会カンタータ131より BWV 131a
2. 6つのソナタ BWV 525~530
3. 前奏曲とフーガ BWV 531~552
4. 8つの小前奏曲とフーガ BWV 553~560
5. その他の個別の作品 BWV 561~591
6. 協奏曲など BWV 592~598

■第II部 コラール作品
7. オルガン小曲集 BWV 599~644
8. シュープラー・コラール集 BWV 645~650
9. 旧称「18のコラール」(いわゆるライプツィヒ・コラールとそのヴァイマル版)  BWV 651~668
10. クラヴィーア練習曲集第3部のオルガン・コラール BWV 669~689
11. 旧称「キルンベルガー・コレクション」のオルガン・コラール BWV 690~713
12. 種々のオルガン・コラール BWV 714~765
13. コラール変奏曲 (パルティータ)  BWV 766~771
14. 4つのデュエット (クラヴィーア練習曲集第3部より)  BWV 802~805
15. 種々の小品 BWV 943---1085
16. ノイマイスター・コラール集のオルガン・コラール BWV 1090~1120
17. さらなる作品 (一部は出所不明)
[監訳者注記] BWV 1128

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