「不登校だと勉強についていけず進学できない」は間違いである理由――『不登校のあの子に起きていること』より
記事:筑摩書房
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ここでは、不登校の子どもと親にとって重大な関心事である「勉強」について、どうするべきか考えましょう。
先ほど紹介したように、不登校の子どもの不安の種のひとつが勉強です。どの子どもだって、本当は勉強が大切であることはわかっていますし、勉強をしないと高校進学など将来に悪影響があることもわかっています。
でもいざ再登校・教室復帰を果たしたとしても、勉強をしていないと、授業がまったく理解できません。理解のできない授業を延々と聞かされているのは苦痛しかありませんし、勉強ができないとクラスメイトからバカにされるかもしれません。
とはいえ、勉強の不安をあおれば不登校の子どもが学校に行って授業を受けられるようになるかというと、そういうわけにはいきません。勉強が大切なのはわかっていても、学校に行けない、授業を受けられないから苦しいのです。
ただこれは不登校に限った話ではなく、学校に行っている子どもでも、勉強の問題を抱えている場合はよくあります。今の学年以前の学習内容が身についていない、思ったようにテストで点数が取れない、宿題が間に合わないなど、勉強にまつわる問題はさまざまです。これらの問題が後々に不登校につながる可能性もあるでしょう。
ですが、この問題は、学校の授業や出される課題や宿題のほとんどが、個人の能力や特性、学習の習熟状況などを無視して、全員に同じものが出されていることに起因しています。勉強が得意な子どもも苦手な子どもも、同じ時間に同じ教室で授業を受けさせられます(最近は、習熟度別のクラスが設定されているところもありますが)。このような場合、勉強が苦手な子どもに合わせれば、勉強が得意な子どもは退屈しますし、勉強が得意な子どもに合わせれば、苦手な子どもはついていけません。ちょうど中間のレベルにできればいいですが、そう簡単ではありません。授業の方法についても、近年は調べ学習やグループワークなどが活用されていますが、このような学習方法が苦手な子どももいます。学習する環境として、学校は必ずしもベストではないのです。
不登校になるということは、この「みんな同じ勉強を強いる学校」という学習環境から離れられるということです。であるならば、いっそ勉強も学校以外のところで行えばよいという考え方が広まっています。塾や家庭教師は以前からも活用されており、現在はオンラインの学習環境も整ってきたので、家に来てもらわなくても家庭教師に勉強を教えてもらうことができます。親や家族が子どもに寄り添って学習を行っていくホームエデュケーション(ホームスクーリング)も少しずつ広まっており、ホームエデュケーションを支援したり情報提供したりしてくれる団体も増えてきました。YouTubeなどで探せば、授業や実験をしている動画をみることができるでしょう。動画には字幕や効果音など、子どもの興味を引き、理解を深めるようなさまざまな工夫がされていますし、繰り返しみることができます。疑問や知りたいことなどがある時は、ChatGPTのような生成AIに尋ねてみれば、答えてくれたり、参考になるサイトなどを紹介してくれたりします(常に正しいものを答えてくれるわけではないので要注意です)。
このような家庭での学習は、子どものペースでできます。学校では一コマ四五分や五〇分ですが、子どもに合わせて三〇分などで区切ることもできます。もちろん前の学年の勉強のやり直しもできます。周りと比較されることもなく、わからないからといってバカにされることもありません。文部科学省も一定の条件のもと、不登校の子どもが学校外で行った学習を学校の成績に反映することを求める通知を出しています。
もはや勉強は学校でするものとは言えなくなってきているのです。
このような学校以外での学びの充実には、もうひとつ別の効果があります。それは、いつでも必要なときに学べるということです。
子どもが不登校になったときに、とにかく勉強させようと苦心する親がいます。ですが、ほとんどの場合、親の苦心の割に、子どもは勉強しません。お小遣いで釣ったり、ゲームを条件にしたりするなど、あれこれ子どもと取引きをすれば最初は勉強するかもしれませが、それほど長続きしません。
ではどうして子どもは勉強してくれないのかというと、勉強をする必要がないからです。日本の小学校や中学校の場合、勉強ができなくても、進級できますし、卒業もできます。定期テストを受けない場合、テスト勉強もしません。そもそも不登校でない子どもたちも、勉強そのもの(学ぶこと)を楽しんでいる子どもは、ほんの一握りで、多くの子どもは、テストでいい点数を取りたいから、いい(偏差値の高い、評判のいい)高校に行きたいから、ほめられたいから、怒られたくないからといった理由で勉強しています(これを外発的動機づけと言います)。しかし、不登校の子どもの場合、これら外発的動機づけもないため、勉強はしません。
ところが、中学三年生になると、不登校でも「やっぱり少しはやらないとな」と、ちょっとずつ勉強し始める子がいます。それは、目の前に高校進学があるからです。結局、何らかの必要性があれば、勉強しはじめるのです。これは不登校であろうとなかろうと同じであり、大人であっても必要がなければ勉強しません。
また、多くの人が思い込んでいることとして、ある学年の学習内容は一年間かけて学ぶものであるから、三年間不登校で勉強していなかったら、取り戻すまでに三年かかるというものがあります。ですが、そんなことはありません。中学三年生の子どもがこれまでの勉強をやり直すとしたら、はっきり言って、小学校六年間の学習は三か月から半年で学べますし、中学校三年間の学習も一年程度で学べます。実際には、学校で学ぶ期間よりもはるかに短い期間で同じ知識を身につけることができるのです。
しかも、本書の七章で紹介する通信制高校やチャレンジスクールのような、不登校の子どもを積極的に受け入れている高校に行くのであれば、小学校六年間、中学校三年間の学習内容をすべて習得していることは求めていませんし、公立の全日制高校でも全部習得している必要があるかというと、そんなことはありません。
結局、勉強をするのは子ども自身ですから、周りがどんなに叫んでも本人が勉強をする気にならないと、勉強してくれません(なんなら叫べば叫ぶほど、やってくれません)。であるならば、勉強についてはあまり焦らずに後回しにして、やる気が出るのを待っている方がよいと思います(多少の刺激を与える程度はいいですが)。
第一章 三四万人という数字の背景 ── 不登校の現状
第二章 学校に行かないのもつらい ── 子どもの気持ち
第三章 軽視されている保護者の孤立 ── 親の気持ち
第四章 ゲームと寝坊のスパイラル ── 家庭での対応方法
第五章 先生も不登校のプロじゃない ── 学校との相談・交渉
第六章 不登校ビジネスに要注意 ── 適切な居場所探し
第七章 不登校は「お先真っ暗」なのか ── その後の進路