『コロナ禍、誰が何を伝えたか』 次のパンデミックに備えるためのサイエンスコミュニケーション
記事:東京化学同人
記事:東京化学同人
新型コロナウイルス感染症は2023年5月8日に5類感染症に移行されて以後、関連報道がすっかり影を潜めてしまった。感染防止対策にあたった当事者の証言を集めた関連図書も、ほぼ出尽くした感がある。しかし、感染規模は縮小したものの、感染者がゼロになったわけではなく、後遺症ロングコロナ(Long Covid)に悩まされている人も大勢いる。それなのに政府は、総括もしないまま、すべてが終わったかのように幕を引いてしまった。感染症の専門家は、同程度、あるいはそれ以上の規模のパンデミックは、遠からず再び出現すると警告している。だとしたらわれわれは、新型コロナウイルス感染症で得た教訓をもとに、来たる災疫に備えねばならない。
2020年に始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、病原体の正体や治療法、感染制御のための行動制限、ワクチンの効果や副反応などをめぐってさまざまな情報が錯綜し、社会の混乱や分断も生じた。正解が一つに決まらない科学的な問題について、専門家と市民とを適切につなぐサイエンスコミュニケーションの観点からも、検証すべき多くの課題が残された。こうした認識のもと、これらの科学情報が誰から発せられ、どのようなルートで社会に共有されたかに着目し、情報の「源流」から河口に至る過程の最前線で奮闘した専門家たちへのインタビューを実施した。
インタビューに登場するのは、コロナ報道を担当した民放のテレビ記者▽テレビやSNSを通して積極的に情報発信した臨床医▽ネット上の誤情報を監視するファクトチェック団体の仕掛け人▽新聞社の科学担当記者▽コロナに関する専門家会議の世話人▽ウイルス学者、感染症学者――など8人。
コロナ禍をそれぞれの立場から振り返るなかで、自然災害と感染症パンデミックの性格の違い、専門家とメディアの信頼関係のあり方、報道態勢の継承維持の難しさ、リスクに備える準備のあり方、サイエンスコミュニケーションをめぐる人材育成の課題などが浮かび上がってきた。
同じ厄災であっても、立場によってその見え方は大きく異なる。科学的正しさだけでは十分に伝わらない時代において、社会に情報を届けるとはどういうことなのか。次のパンデミックで同じ混乱を繰り返さないために、コロナ禍の情報発信に携わった専門家たちの証言を通してその教訓をあらためて問い直す。
はじめに
1.テレビ報道はどう立ち向かったか——放送記者 庭野めぐみ
2.臨床医のテレビ奮戦記——臨床医 松本哲哉
3.ソーシャルメディアの顔になる——臨床医 忽那賢志
4.情報空間のファクトチェック——ファクトチェック・イニシアティブ 藤村厚夫
5.新聞はどう立ち向かったか——科学記者 田中泰義
6.専門家会議の情報発信——医療社会学者 武藤香織
7.ウイルス研究の最前線から——ウイルス学者 河岡義裕
8.専門家はどう立ち向かったか——感染症学者 押谷 仁
9.パンデミック時のサイエンスコミュニケーション——野口範子、桝太一、元村有希子、渡辺政隆