「被害者」をやめる方法 痛みを力に変える12のステップ
記事:白水社
記事:白水社
チャバック・テクニックの出発点はシンプルです。あらゆる物語のキャラクターは、愛、力、赦し、復讐──何かを「勝ち取ろう」としています。だから俳優の仕事は、感情に浸ることではなく、その感情を使って目的に向かって戦うことだ、というのです。本書はその方法を、12の具体的なツール(ステップ)に分解して提示します。
12のツールを貫いているのは、「障害は受け入れるためのものではなく、英雄的に克服するためのものだ」という思想です。そしてこの思想は、机上の理論ではありません。著者チャバック自身が、自らの過酷な生い立ちと格闘するなかから紡ぎ出したものなのです。本書の「はじめに」から、その原点を引きましょう。
このテクニックは、私自身の個人的なトラウマを理解し、克服すること、そしてそれが演技と私生活の両方にどのような影響を与えたかを探求することから生まれました。私は、距離があり、機能不全で、ワーカホリックの父親(良い人でしたが、感情的には疎遠でした)と、肉体的な暴力と感情的な虐待を繰り返す母親の元で育ちました。私の母親は正式に診断されたことはありませんでしたが、精神科医である私の兄ジョー・ゴットフリードは、彼女の行動を説明するなら「社会不安障害、自己愛的で芝居がかった性格傾向を持つ混合性パーソナリティ障害、そして複雑性PTSD」だろうと言っています。複雑性PTSDは、彼女自身の深刻な子供時代のトラウマから来ていると推測されます(私たちの母は、10代前半に親族から性的虐待を受け、それを両親に伝えた際に殴られ、責められました)。彼女はまた重度の溜め込み症でもあったため、私と6人の兄弟姉妹は、もはや何の役にも立たなくなったカビの生えたガラクタの山の間に住み着いたネズミたちと家を共にしていました。
彼女の虐待と、私を守ってくれる父親の不在の結果として、私はあらゆる種類の自己嫌悪と自己破壊的な性質を発達させました。大人になり、女優となった私は、子供時代や思春期の恐怖の中にどっぷりと浸かっていました。どんな俳優も切望するように、私は自分自身の感情的な痛みと真に繫がっていたのです。
しかし、私は疑問を抱き始めました。「これらすべてを感じて、一体何になるというのか? 過去の感情は、俳優としての私の演技をどのように形作っているのか?」と。現役の女優として、私はあまりにも多くの俳優たちが、深く苦痛に満ちた感情を「正直に」掘り起こしながらも、その演技が自己満足に陥っているのを目にしました。深く、深遠な感情を持っていることが、必ずしも私を、深遠な俳優にするわけではないことに気づいたのです。自分の痛みを甘やかすこと(人生においても舞台上においても)は、ほとんど逆の効果を生んでしまうことがわかりました。それは自己中心的で自己憐憫に満ち、弱々しく映ってしまいます。それこそが「被害者」の主な特徴なのです。俳優が下す選択として、それは決して魅力的なものではありません。
私は、自分が受け継いだ感情の遺産を、自分の演技の中でより良く、より効果的に活用する方法を調査し始めました。成功した人々の人生を調べたとき、彼らは肉体的・感情的なトラウマを、自己満足的な苦しみのためではなく、偉業を成し遂げるための「刺激」として使い、自らを駆り立てているように見えました。私は、まったく同じ方式を俳優とそのワークへのアプローチにも適用できるのではないかと考えました。私たちの時代の偉大な俳優を観察すると、彼らのパフォーマンスには、逆境を克服しようとする同じ感情的な衝動があり、実際、それらの障害を使って目的を達成し、勝利を必然のものにしているのが見えました。偉大な俳優は、自身のパフォーマンスの中で、偉大な人々の行動や本質を本能的に鏡のように映し出していたのです。
私は、このプロセスを反映し、導くためのシステムを築きあげる必要がありました。リアルでダイナミックな人間の行動を再現するシステムです。ひとたび「恐れを知らぬ選択」を下すことを覚悟した俳優が、自らの痛みを使ってキャラクターの目的を勝ち取れるよう、彼らを導き、力を与えるシステムです。このシステムは、俳優がリスクの高い選択ができるようにする手法も提供します。その選択の結果、俳優は、ルールを破ったり、新しいルールを作ったりすることで、並外れた演技とキャラクターを産み出すことができるようになるのです。つまり被害者ではなく、感情的に「ヒーロー」であるキャラクターを創り出すシステムです。
本書「はじめに」より
溜め込み症の母が築いたガラクタの山、そこに住み着いたネズミと共に過ごした子供時代──ここに描かれる光景に、既視感を覚える読者もいらっしゃるかもしれません。支配的な親のもとで魂を削られながら育つということは、国も時代も超えて、こんなにも似た風景をかたちづくるのです。チャバックはその風景の中から生き延びただけでなく、痛みを力に変えるシステムを築き上げ、世界中の俳優たちに手渡してきました。
この思想がもっとも鮮烈なかたちをとるのが、本書の第16章で語られる「エナジー・キル」です。
殺人者の役を演じるとき、俳優は誰かを実際に殺すわけにはいきません。そこでチャバックは発想を反転させます。「殺す」対象を、人ではなく、自分の人生に破壊と痛みをもたらしてきた「エネルギー源」として捉え直すのです。たとえば、おまえはバカで醜くて絶対に成功しないと言い続けてきた母親の「声」。自分を見捨てた親への、「自分には価値がなかったのだ」という内面化された信念。それらを心の中で「殺す」ことで、自己破壊へと駆り立て続けてきた呪縛を断ち、前に進む──エナジー・キルとは、演技のテクニックであると同時に、トキシックな関係性に囚われた人間が、被害者の座から降りて自分の人生を取り戻すための、きわめて実践的な方法でもあるのです。
本書の刊行を記念して本屋B&B(東京・下北沢)で開催されたトークイベントでは、この「エナジー・キル」がトキシックな関係性を生き延びるうえでいかに有効か、具体的なエピソードを交えて語られました。アーカイブ動画が販売中ですので、本書とあわせてぜひご覧ください。
▶トークイベント:イヴァナ・チャバック×玄理「ハリウッドの伝説 × 世界へ挑み続ける女優」『新版 イヴァナ・チャバックの演技術』(白水社)刊行記念【アーカイブ動画視聴】(販売中)
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