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押切蓮介さん「おののけ!くわいだん部」インタビュー 怪談マニアのこじれた青春を描く、異色のホラー&コメディー

怪談マニアのいいところも悪いところも

――『おののけ!くわいだん部』は、とある高校の「怪談部」を舞台にした青春ホラー&コメディー作品です。怪談専門誌「幽」で連載がスタートし、現在は後継誌の「怪と幽」に連載されていますが、執筆の経緯について教えていただけますか?

 前々から怪談を追求する若者の話は描きたいと思っていたんです。「天下一武道会」の怪談版みたいものがある世界で、全国の怪談猛者が激しいバトルをくり広げるという話は面白いんじゃないかなと。それで分かりやすく高校の「怪談部」という設定を作ったんです。思いついた当時はまったくのフィクションでしたが、最近はネットで怪談語りをする人が増えているので、まんざら嘘でもなくなりましたよね。

――押切さんご自身も怪談好きですよね。先日もYouTubeで怪談配信をされていましたが、怪談はいつ頃からお好きだったのですか。

 もう相当前からですね。20代の頃からいろんな怪談ライブ、イベントに足を運んでいました。有名な作家さんのイベントから素人の小規模な怪談会まで、数え切れないほど観に行きましたし、自分でイベントを開催したこともあります。

 これは僕の偏見ですけど、怪談を語る人って大抵性格がこじれていると思います。あくまで偏見です(笑)。逆に誰からも愛される優しい人が、死ぬほど怖い話をできるかといえば、できないと思うんですよね。今は違うかもしれませんが、僕が足繁くイベントに通っていた頃は、かなり癖の多い出演者が多かった。狭い世界で揉めることもある(笑)。あの個性がバチバチぶつかり合っている感じは、マンガの題材にも向いているなあと思います。

――2013年まで「幽」に連載されていた『暗い廊下と後ろの玄関』も、押切さんの怪談マニアぶりが表れたホラー短編集でした。

 「幽」は怪談雑誌ですし、あの頃はちゃんと怖い読み切りを描こうと思っていました。ただ途中で怪談が嫌いになってしまった時期があって、怖い話を描いていたはずなのに、後半から怪談否定のマンガになっているんです。心霊スポットに行く人や、怪談会に集まるような人たちを散々皮肉っていますから。あれには担当さんも内心困っていたんじゃないですか(笑)。

――怪談嫌いになったきっかけは何だったのですか。

 何でもかんでもお化けのせいにしたがる人たちに、嫌悪感を抱くようになったんです。誰かが自殺したとか病気になったという話を、一部の怪談マニアは心霊現象と絡めて嬉しそうに話すじゃないですか。それは人間的にどうなんだろうと。それで一時、怪談の世界から気持ちが離れたことがありました。でも今はまた復活していますよ。当時どうしてあんなに嫌だったんだろうというくらい、最近また怪談熱が高まっていて、YouTubeで毎日聞いています(笑)。

 『くわいだん部』では怪談マニアのいいところも悪いところも、両方描きたいなと思っています。『暗い廊下と後ろの玄関』の頃と比べて、どこか吹っ切れたようなところはありますね。

「白い服の女」なんて怖くない

――聞き手を恐怖のどん底に叩き落とすような、刺激の強い「現代怪談」を理想とするマコトと、昔ながらの古典怪談を愛好する葉介。主人公2人のキャラと怪談観が対照的なのが面白いですね。

 僕もマコトと同じで現代怪談派なんですが、部員2人が対立した方がマンガとしては面白いので、葉介は古典怪談派ということにしています。起承転結のはっきりした古典怪談は、刺激を求める怪談マニアから低く見られがちなので、2巻収録分(「怪と幽」8号掲載)ではあえて葉介が古典怪談で聞き手を圧倒するという場面も作ってみました。

 ところで連載中は怪談部の2人の名前をまったく決めていなかったんですよ。作中には出てこないのでいいかと思って(笑)。単行本にするにあたって、慌てて決めました。

――怪談マニアのマコトは、葉介の語る怪談によくツッコミを入れます。「白い服の女の霊はありきたり」「擬音やいかにもな口調は逆効果」などの鋭いツッコミは、怪談演出の本質を突いていますね。

 マコトのツッコミは僕の怪談観に近いですね。怪談を聞いていると、白い服の女がしょっちゅう出てくるんですよ。想像しやすいから怖いのかもしれませんけど、僕のような〝S級の怪談聞き〟からすると(笑)、イロハのイのレベルの話なんですよ。コスプレの世界にたとえると、現代のアニメキャラじゃなくて、ナースやスチュワーデスの格好をするような感じ。それもコスプレに違いないけど、ちょっと安易すぎないですかと。分かりやすいし、一定の需要があることも分かるんですけどね。

――そのあたりのマニアと一般人の感覚のズレが、絶妙なギャグとして描かれています。

 怪談を聞き慣れていない人からすると、白い服の女が近づいてくるだけで怖い。それは間違っていないし、むしろ正解なんですよ。こっちの好みが先鋭化しすぎているだけで。聞いた話ですが、映画のエキストラの仕事をしていると、映像作品を素直に楽しめなくなるそうです。背後を横切っているエキストラに注目してしまって、物語に没頭できなくなるらしいんです。その感覚に近いのかもしれません。

怪談バトルは料理対決に似ている

――第1巻の後半では、いよいよ全国高校怪談選手権が始まりました。京極高校、加門高校、荒俣高校など全国の怪談強豪校が一堂に会して、怪談バトルをくり広げるという熱い展開です。

 もう少し早めに始められたらよかったんですが、当初はページ数が少ないこともあって、なかなか「さあ大会だ!」というノリに持っていけなくて。途中から掲載誌が「怪と幽」に変わって、ページ数が16ページに増えたので、やっとストーリーを動かしやすくなりました。それで1巻の後半から大会に向けて、徐々に盛り上げていったという感じです。ここが一番描きたかった部分なので、今は描いていてすごく楽しいです。

――ちなみに怪談大会ではどうやって勝敗を決するんですか。

 怪談の内容や精度、語り口などの判断基準から、総合的に勝ち負けを決めている感じです。怪談って同じネタであっても、語り手の技術によって怖さに差が出てくるものだと思うんですよ。どんなすごいネタであっても、語り方が下手だとまったく怖くなくなりますし。素材は同じでも、調理法によって全然違う味になっていく。だから怪談バトルは、料理勝負みたいなところがありますよね。

――作中の怪談語りのシーンの描写もいいですよね。語りの臨場感が伝わってくるようです。

 怪談はマンガとして見せるのが難しいですね。長々とあらすじをなぞっても退屈ですし、丸々再現シーンで描くのもどうかという思いもあって、いろんな見せ方を工夫しながら描いています。怪談シーンをどうやって演出するかは、これから選手権を描いていくにあたっての課題ですね。

――マコトがなぜここまで怪談にこだわるのかも気になります。彼女の背景が明かされることはあるのでしょうか。

 大まかな設定は考えています。ただあまり悲惨な過去を背負わせて、物語が重くなってもいけないので、描くとしてもほのめかす程度かもしれません。

怪談を聞けば心身が整う

――「怪と幽」の連載ではすでに全国高校怪談選手権がスタートし、波瀾万丈のストーリーが展開しています。この先しばらくは選手権編が続きそうですね。

 選手権を最後まで描いたら終わりじゃないでしょうか。途中でものすごく人気が出たら考え直しますが(笑)、今のところ選手権の結末を描いて3巻くらいで完結させようかなと考えています。まあ売れるかどうかは別にしても、最後までやりきりたいですね。怪談バトルはこんなに熱いんだぞ、ということを知ってもらえるような話になると思います。

――押切さんご自身は怪談のどこに魅力を感じているんですか。

 恐怖心を味わいたいというのは人間の本能みたいなものじゃないですか。ジェットコースターに乗りたい、お化け屋敷に入りたいというのと同じで、怪談で恐怖を味わうのも一種の快感なんですよ。特に怪談は背後からじわーっと得体の知れないものが迫ってくるような感覚があって、あの感覚はジェットコースターでは味わえない。僕にとっては心地よさなんです。体にもいい気がする(笑)。

 以前、怪談を聞けば自律神経が整うという説を聞いたことがあって、本当か嘘か知りませんが、割と鵜呑みにしていますね。トイレにも行けない、夜道も歩けないというような怪談を、もっともっと聞きたいと常日頃から思っています。