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「オンリー・トーク」一穂ミチさん×志村貴子さん対談 漫才の先輩、後輩の恋をBL漫画に 感情のニュアンス、絶妙に表現

『オンリー・トーク』 ©一穂ミチ・志村貴子/祥伝社 on BLUE COMICS

「お笑い」を描く難しさ乗り越え

――雑誌での対談をきっかけに『オンリー・トーク』は生まれたそうですね。

一穂ミチ(以下、一穂) 対談の流れで、志村さんの担当編集さんが「おふたりで漫画を作っては?」という感じで出た話だったので、まさか実現の可能性があるとは私は思ってなかったんです。でも、担当編集さんが虎視眈々とタイミングを窺っていてくれて(笑)。プロットをこちらで固めて志村先生にお渡しするという形で連載スタートを迎えることができました。

――本作は、一穂さんも志村さんも好きだという「お笑い」の世界を舞台にしています。好きなものをテーマに描くのは、かえって難しかったりプレッシャーを感じたりしませんでしたか。

志村貴子(以下、志村) 私は初めて原作ありの漫画を描くということもあり、プレッシャーは大きかったですね。「お笑い」を描く難しさなど難しいことだらけで、名乗りをあげてしまった己の軽率さを後悔しました。

一穂 私も大阪出身ということもあり、プレッシャーはすごくありましたね。やっぱりお笑いの世界を描くなら、ネタっぽい掛け合いの部分もお見せしなければいけないので、そこはどうしようかなと悩む部分ももちろんありました。でも、お笑いの舞台に漂う独特な空気感や熱気を絵で見てみたいという気持ちが強かったんですよね。私は漫才師が衣装のスーツを着てマイクの前に立っている姿が一番かっこいいと思っているんです。あの舞台上の芸人がまとっている雰囲気みたいなものを小説で十全に表すのは、私の腕ではちょっと難しいので、今回志村先生に漫画にしていただけてよかったなと思っています。

『オンリー・トーク』第1話より ©一穂ミチ・志村貴子/祥伝社 on BLUE COMICS

――漫才の掛け合いや業界の裏側の描写がとてもリアルです。事前に取材などされたのでしょうか。

一穂 1度、資料写真の撮影を兼ねて劇場に足を運びましたが、この作品を書くために特別にしたことはないんですよ。ふだんから芸人さんのYouTubeを見たりラジオを聞いていたりすると、テレビや舞台では見えない裏側の部分をポロッとしゃべってくださるんですよね。それこそYouTubeだと楽屋もよく出てくるので、「ああ、こういう雰囲気なんだ」って。自分自身がお笑いを浴びるように見てつかんだ雰囲気そのままを描いたという感じです。なので、リアリティに関しては、正直自信はないんですけれど、リアルだと感じていただけたのならよかったです。

志村 一穂さんから「資料にどうぞ」とお笑いの舞台袖の写真を送っていただいたり、「飯田のスーツの雰囲気はこのコンビのイメージです」と具体的にイメージを共有していただいたりしたので、ものすごく参考になりました。私がゼロから描いていたら絶対こうはならなかっただろうなという細かい部分まで考えていただけたので、本当に一穂さんの原作あってのものです。

『オンリー・トーク』第3話より ©一穂ミチ・志村貴子/祥伝社 on BLUE COMICS

――芸人同士の恋愛となると、真っ先にコンビのカップリングが思い浮かぶのですが、『オンリー・トーク』では別のコンビの先輩と後輩という組み合わせになっています。これには何か理由が?

一穂 コンビの2人だと関係性が濃すぎる気がするんです。結婚相手や恋人とも違う、別の濃いつながりがあるじゃないですか。嫌なところも見せ合って、喧嘩していてもコンビでいる以上、仕事はずっと一緒。それって、ある意味、恋愛を凌駕してしまった人たちなんじゃないかなと思うので、コンビ同士という組み合わせは最初から考えてなかったですね。

小峰はかわいすぎず、飯田は色っぽく

――後輩芸人・小峰と先輩芸人・飯田のキャラクターデザインに関しては、一穂さんからちょっとしたリクエストがあったとか

一穂 ただでさえ年が離れたカップリングなので、小峰をかわいすぎる顔立ちにしないでほしいとお伝えしました。小峰は内面はややこしくて無愛想ですし、側(はた)から見ていると何を考えているかわからないような人なので、第一印象は「かわいい」じゃないほうがキャラ的には合っているんじゃないかと担当編集さんとも話して、このビジュアルにしていただきました。

志村 小峰くんは、最初に描いたものは子どもっぽくなっちゃったので、「もうちょっと変えます」と言いつつ提出した記憶があります。当初はメガネをかけてなかったんですよね。子どもっぽくなりすぎず、かわいくなりすぎず、というさじ加減が難しいところはありました。でも、たくさん描いた中から選んでいただくというのではなくて、本当にインスピレーションみたいな感じで出来上がっていきましたね。

 

『オンリー・トーク』第1話より ©一穂ミチ・志村貴子/祥伝社 on BLUE COMICS

一穂 私が志村さんの作品『娘の家出』に出てくる、ちょっとだらしないけど色っぽいおじさんが好きなので、飯田のほうはそんな色気がある感じでとリクエストしました。

志村 描くのは小峰くんのほうが難しいのですが、飯田さんを色気がある感じで描けるのかという不安はありました。でも、一穂さんの頭の中にある具体的なイメージを伝えていただいたので、けだるい感じというか、飄々(ひょうひょう)とした感じはつかみやすかったです。飯田さんのキャラデザ(キャラクターデザイン)は、「こんな感じでどうですか」と、ほとんど一発描きのもので決まったような気がします。

一穂 出来上がったイラストを見て、「ふたりともすごくいい!」って思いました。元々そんなに私も具体的なイメージがあったわけではなくて。特に小峰に関しては明確なイメージがあったわけではないんですけれども、志村先生のイラストを見て自分の中でパシッとはまる感覚がちゃんとあったんですよね。もちろん、飯田さんもかっこいいですし、本当にありがたいなと思いました。

相乗効果で高まった作品 

―― 一穂さんは、最終的に小峰と飯田がくっつくという着地点だけ決めて書き始めたそうですね。小峰の片思いに始まり、飯田に認知されてふたりの距離が縮んでいき、最終的に結ばれる。その過程をどんなふうに見せるようにしようと考えていましたか。

一穂 そんな急に恋愛は始まらないわけなんですけれども、1話に一つぐらい色気があるような、湿度のあるシーンを出そうというのは決めていました。飯田が小峰にタバコを吸わせる場面や、飯田が雷に怯えて小峰に抱きついてしまうところなど、身体的な接触をちゃんと含めながら関係が深まっていくのは、やはりBLというジャンルの上でも大事なところですよね。

『オンリ-・トーク』第4話より ©一穂ミチ・志村貴子/祥伝社 on BLUE COMICS

 ――志村さんは一穂さんから上がってくるプロットを見て、いかがでしたか。

志村 私はいままで原作ありの漫画を描いたことがなかったので、他の原作ありの漫画がどんな流れで作業されているのかはわからないんですけど、そもそも絵コンテの形でくるというのがまず驚きでした。「もう漫画になってない?」と思ったので、一穂さんは何でもできるんだな、と。私がやれることって何なんだろうって思ったくらいです。

 作画としては難しさが先行していて「描けた、よっしゃー!」っていう感じがあまりなくて……。時間との戦いみたいな感じになってしまって、もっとこう描けたはずと悔いが残ってしまう部分もありましたが、描きごたえはすごくありました。特にふたりの距離が縮まっていく過程。単純に体が触れるといった物理的な距離の縮め方もですけど、何かしら動きがあるものを描くほうが難しくも描きがいがある。なので、序盤よりも、特に後半のふたりの距離が縮まっていくところはハードルが上がりつつも、作画に気合いが入る部分でした。

一穂 毎回、私のごちゃついたモノローグやセリフをみごとに交通整理していただいたうえで、絵と噛み合っているんですよね。漫画としての作劇の技法がやはりすごい。私が志村先生から上がってきた漫画ですごいなと思ったのは最終話(第6話)の冒頭です。5話でふたりが初めてキスした後の顔から始まるんですけれども、飯田の表情にちょっと戸惑いというか、焦りのようなものが見えて、そこが私はすごく好きでしたね。いつもの、余裕がある先輩じゃないところが垣間見える。すごく繊細な表情をしていて好きです。なかなかこれを文章で書けといわれても書けないんですよね。このニュアンスをやっぱり一目で見せることができるのが、漫画の武器の一つだと私は思っているので、「漫画最高!」とふるえた瞬間でした。

『オンリー・トーク』第6話より ©一穂ミチ・志村貴子/祥伝社 on BLUE COMICS

 あと、私が手フェチということもあって、指先のシーンが多いんですが、いつもニュアンスのある美しい指先で、ほんとうに最高だなと思っていました。

――手フェチ! たしかにタバコが各所でいい仕事をしていましたね。

一穂 芸人さんってタバコを吸っている方がけっこう多いので、芸人なら吸わせたいなっていうのもありましたね。

『オンリー・トーク』第2話より ©一穂ミチ・志村貴子/祥伝社 on BLUE COMICS

――志村さんも手フェチですか。

志村 そうですね。やっぱり手は難しいんですけど、ちゃんと描きたい部分でもありました。やっぱり好きなだけに、こだわりたいところではあります。

――おふたりで一つの作品を作るという作業は、振り返ってみていかがでしたか。

一穂    自分が投げた球を志村先生が打ち返してくださって、そこにはやっぱり私では出てこない表現や技術があって、勉強させてもらった部分が多々ありますね。

志村    難しさも痛感しましたけど、やはりやりがいがありました。本当に絵を描き始めたときの初期衝動のような、「見て、見て」っていう気持ち。一穂さんに漫画を見られる怖さももちろんあるんですけど、描いたものを喜んでもらえるかなといった期待もあって、そういう怖さとワクワクの両方がありましたね。私のほうこそ、一穂さんの原作で勉強させてもらうつもりで始めたことでもあったので、今後自分が描くものに何か変化が生じるといいなって思っています。

一穂    見えないところで養分になっていることを願っております・・・・・・!

――『オンリー・トーク』はいったん全6話で終わりを迎えましたが、終わってほしくないという声もSNSで多数見かけました。今後、なんのしがらみも考えずに、もしもスピンオフや続編を作れるとなったら、何を描きたいですか。

一穂    やっぱり続編、ですかね。サブキャラの人たちはビジュ的に個性的な芸人に寄っているので、スピンオフで急に小綺麗になったらそれはそれでおかしいですよね(笑)。 

志村    私の職場では、小峰の相方の里村くんが人気で、「いいやつなんだけど、絶対あまり面白くないんだよねー」と、盛り上がっていました。でも、いいやつだから幸せになってほしい。そんなふうに脇のキャラクターにも愛着がわいていったので、この人たちの視点で彼らの人生を見てみたいですね。「スピンオフを」なんて簡単に言えないですけど、一穂さんだったら、きっとそれぞれのキャラクターのいろんな側面を上手に切り取ってくれるだろうなって期待しちゃいます。