
阿部暁子『カフネ』あらすじ
『カフネ』は2024年5月刊行。弟を亡くした野宮薫子が、弟の元恋人・小野寺せつなが勤める家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝いながら、「食」を通じてせつなとの絆を深めていく物語です。
法務局に勤める野宮薫子は、溺愛していた弟が急死して悲嘆にくれていた。弟が遺した遺言書から弟の元恋人・小野寺せつなに会い、やがて彼女が勤める家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝うことに。弟を亡くした薫子と弟の元恋人せつな。食べることを通じて、二人の距離は次第に縮まっていく。『カフネ』(阿部 暁子)|講談社
著者の阿部暁子さんはこんな人
阿部暁子さんは岩手県出身。『屋上ボーイズ』(応募時タイトルは「いつまでも」、集英社コバルト文庫)で第17回ロマン大賞を受賞し2008年にデビュー。『パラ・スター〈Side 百花〉』『パラ・スター〈Side 宝良〉』(以上、集英社文庫)は《本の雑誌》が選ぶ2020年度文庫ベスト10第1位に。その他の著書に「鎌倉香房メモリーズ」シリーズ(集英社オレンジ文庫)、『金環日蝕』(東京創元社)、『カラフル』(集英社)などがあります。
デビュー以来、集英社を中心に作品を発表してきた阿部さんが、『カフネ』は初めて講談社から出版した作品でした。
『カフネ』プロはこう読んだ
書評家の吉田伸子さんは、「好書好日」に掲載された朝日新聞書評で「雨に濡れた人への、傘のような一冊」と評しました。
プロの料理人であるせつなと、掃除が得意な薫子がペアとなって訪れる家庭は、様々な問題を抱えていた。個々の家庭の事情をくみとり、最適な料理を提供するせつな。美味(おい)しいものを食べることは、心身の安らぎにつながるのだ。とりわけ、せつなが作る「卵味噌(みそ)」(我が故郷青森のソウルフード!)に、胸がいっぱいになった。
物語の後半、春彦の心にも、せつなの心にも雨が降っていたことが明かされる。せつなの雨はまだ降り続いていることも。誰にもSOSを出せず、出さずに生きてきたせつな。その華奢(きゃしゃ)な背中に薫子の手は届くのか。
「カフネ」とはポルトガル語で「愛する人の髪にそっと指を通す仕草(しぐさ)」のこと。そのタイトルに呼応するラストシーンは、奇跡のように美しく、優しい。雨に濡(ぬ)れた人への、傘のような一冊だ。
「カフネ」書評 濡れた心に差し出す優しさの傘

本屋大賞受賞「頂いた大きな贈り物に報えるように」
『カフネ』は2025年本屋大賞(第22回)を受賞しました。発表会で阿部さんは、「頂いた大きな贈り物に報えるように、いい小説家になっていきたい」とスピーチしました。
「2004年に大学生協の書店で、博士の愛した数式という本を、帯に書いてある『第1回本屋大賞』という文字に惹かれて手に取りました。数字の織りなす美しさと愛に満ちあふれた美しい物語でした。あれから長い時間がたって、今ここに自分が立っていることを光栄に思います。『カフネ』という作品は、思いがけず多くの方に手に取って頂きました。たくさんの人の尽力があって起きた奇跡のようなことでした。全国の書店さんにも、一般の読者さんにも、それだけ本を愛する人がいることは、書き手にとって救いです。私たち書き手がいい物語を書き得たなら、これだけたくさんの人たちが応援してくれることが希望です。頂いた大きな贈り物に報えるように、いい小説家になっていきたい」本屋大賞に「カフネ」 阿部暁子さん「頂いた大きな贈り物に報えるように」【発表会詳報】
