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村田沙耶香さん×朝井リョウさん、違和描く2人が朗読 @早稲田大学国際文学館

(右)村田沙耶香さん(左)朝井リョウさん=いずれも早稲田大学提供

「霧雨のよう」「声が作品と呼応」

 作家の村田沙耶香さんと朝井リョウさんによる朗読イベントが18日、早稲田大学国際文学館(通称・村上春樹ライブラリー)で開かれた。ライブラリーの開館記念企画「Authors Alive!~作家に会おう~」の第6回。日本文学研究者で早稲田大特命教授のロバート キャンベルさんが聞き手を務めた。

 村田さんは『コンビニ人間』『地球星人』から、朝井さんは『正欲』から自身で選んだ場面を朗読した。交流のある2人だが、互いの朗読を聞くのは初めて。『正欲』の冒頭を読んだ朝井さんに、村田さんは「普段話す声より穏やかで、しとしとと霧雨のような美しい声でした」。朝井さんも「村田さんは普段より大きな声でしたね。朗読を介すると、声が作品と呼応するのかもしれません」。

 村田さんの2作は翻訳され、海外に広がっている。キャンベルさんが竹森ジニー訳の英語版を朗読した。朝井さんは「村田さんの小説は主人公の感情が説明されないのが特徴だと思う。英語版の方は感情が伝わってくるように感じました」。感情表現が過剰になってしまうと言う朝井さんに、村田さんは「私は自分のまなざしを信じられず、主人公から見た世界にとらわれています。その人の持つ情報次第で見ている世界は変わる。そのレンズに興味があります」と続けた。

 朝井さんが朗読で選んだのは、恋愛関係にない男女が服を着たまま性行為のまねをする場面。「みんなができることができないと自分を責めていた2人が、できないから考え続けられるんだと思う瞬間です」と朝井さん。「私が300ページぐらい書いてたどり着いた反転ですが、村田さんの作品はここからスタートしている」と続けた。これに村田さんは「とても印象深いシーンでした。性行為のポーズをしているけれど、性的なしずくがまったく嗅ぎ取れない。ここにたどり着くには、読者に降り積もる言葉が必要だったと思う」。社会との違和を描く点では2人の作家は共通するが、アプローチの違いが対談から見えてくる。

 聴衆は早大生や公募の十数人というぜいたくなひととき。「朗読を聞く楽しみを契機として、語り合いやいろいろなものが生まれつつある」とキャンベルさん。この日は予定された全6回のイベントの最終回だったが、「来年もこのシリーズを続けていきます」としめくくった。(中村真理子)=朝日新聞2021年12月22日掲載