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「日本の海から魚が消える」書評 ヒトが要因 供給は永遠でない

評者: 田島木綿子 / 朝⽇新聞掲載:2026年10月24日
日本の海から魚が消える-温暖化、IUUの問題から陸上養殖の挑戦まで (中公新書 2928) 著者:矢野 勲 出版社:中央公論新社 ジャンル:ビジネス・経済

ISBN: 9784121029287
発売⽇: 2026/09/18
サイズ: 1.5×17.3cm/256p

「日本の海から魚が消える」 [著]矢野勲

 「ある人たちは、今日本の海で起きているクジラやマグロ(中略)などが消える海の異変を、単なる魚種交替あるいは自然現象の一環だと簡単にいう。しかし、事はそんなに簡単なのだろうか」。あとがきの一節に、同じ海のいきものを研究する者として賛同する。
 本書は海洋環境とそこに棲(す)むいきものの深刻な現状を、最新知見をもとに詳(つまび)らかに解説する。食卓でお馴染(なじ)みのサンマやサケ、スルメイカなどの漁獲量の急速な低下と原因の説明から始まり、具体例を挙げながら地球温暖化などの影響を示していくので理解しやすい。たとえば、日本のサケ類漁獲量が1996年の約29万トンから2023年の約6万トンに激減したのは温暖化による海面水温上昇のためで、日本で不漁のシロザケは、より北方のロシア沿岸では大漁が続いているという。
 四方を海に囲まれた島国・日本といった常套句(じょうとうく)が浸透しているが、本書は、海洋がいかに温暖化を食い止めることに貢献しているかも示している。温暖化の原因となる二酸化炭素を海洋の植物プランクトンが吸収する量は、陸上植物の7倍ほどもある。地球表面積の7割が海洋で、光合成での太陽光利用効率は海洋の植物プランクトンのほうがはるかに良いからだ。
 嬉(うれ)しいことに、クジラたちが現在の危機的状況にある海洋環境の悪化を止める役割を担っていることも紹介される。クジラの糞(ふん)が海洋生態系や植物プランクトンの生存の一助となっているのだ。私自身もその事象を、高知県の土佐湾に「定住」するヒゲクジラで調査しているところである。
 日本を含む世界の乱獲や密漁の現状も浮き彫りになる。食卓に並ぶ魚介類の減少は我々ヒトが要因を作り、供給は永遠ではないと改めて学ぶ。
 現状に落胆するだけでなく、世界における資源復活の施策や陸上養殖の試みも紹介される。対岸の火事と思わず理解すべき内容であろう。
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やの・いさお 1943年生まれ。福井県立大名誉教授(海洋動物培養学)。著書に『エビはすごい カニもすごい』など。