みんな「才能」を誤解している
――大ヒット作『科学的に証明された すごい習慣大百科』をはじめ、科学的知見にもとづく実践書を数多く手がけてきた堀田さんが、最新作で「才能」というテーマに向き合ったきっかけは何でしたか。
『すごい習慣大百科』を書いたことで、「才能と習慣は、実は非常に密接に関わり合っているものである」という確信を得たことです。
才能とは特別な人だけのもの、生まれつき備わっているもの、才能があるなら勝手にやる気も出てくるはず……。多くの人が思い込んでいるこれらの言説は、すべて幻想に過ぎません。
地道に継続できることもひとつの才能です。この観点から、科学的エビデンスを軸に実践的なアクションを盛り込んだのが『5日で自分の才能が見つかる本』です。
大学で教えていると実感しますが、いまの若い世代は「新しいことを始める」「がんばって続ける」ということに、昭和の頃ほど大きな価値を見いださない風潮があります。努力している人が「意識高い系」と馬鹿にされたり、がんばっている人がちょっとダサく見えてしまったりする。そうした風潮への抵抗も、執筆の動機のひとつになっています。
「自分を変えたい」「何かを始めたい」と行動に移した人が、途中で「やっぱりだめだ」と撤退するときの言い訳として持ち出すのが、「才能」なんです。
――「自分には才能がない」という思い込みは、諦める理由になりやすい?
そうです。若い頃の僕がまさしくそうでしたが、「才能」や「センス」という言葉は、「諦めるための理由」として非常に使い勝手がいいんですね。でも実際は必ずしもそうとは限らない。
僕はこれまで何万人もの学生を見てきましたが、結局は「やるか、やらないか」であって、そこから習慣化しなければ才能は伸びていきません。
そもそも才能とは、すべてに優れている特殊能力ではなく、「ある特定の場面や分野で、自分の持っている特徴が上手く働いている状態」のこと。その状態に気づけるかどうかが大きい。「才能」の定義を捉え直し、自分の才能を知り、それを活かせる場所を見つけられるようにすること。それが本書の目的です。
無理なくスッと動けることが才能である
――では、あらためて本書で定義する「才能」とは?
才能とは、「自分の中で、ほかの領域より少し動きやすい場所」です。たとえば、この作業をしているときは時間を忘れて没頭できる、「説明がわかりやすいね」と褒められた、この分野であれば苦もなくがんばれる……。そういった「ほんの少しの動きやすさ」や「手応え」があるところを起点にすると、自分の才能の形が見えてきます。「持ち味」と言い換えてもいいでしょう。
無理なくスッと動ける感じがある。それこそが、その人の才能の最初のサインです。
一方、自分の「持ち味」を知って、眺めているだけでは、意味がありません。普段から意識的にその才能を使えてこそ、意味が生まれる。自分の持ち味、強みを普段から活かせる環境にある人は、自己肯定感や日々の幸福度が上向きになるということが、最新の研究でも証明されています。
――「才能」は主観的に語られやすいテーマでもありますが、一貫して科学的研究の知見から分析・活用しているところが本書の特色です。
僕は普段から「エビデンス職人」を自称していまして(笑)、本書でもさまざまな最新の科学的研究を根拠として紹介しています。
「才能は遺伝か、それとも経験や努力か」という、よくある問いの答えは、「両方」です。その分野において素質のある人ほど練習を続けやすく、練習を続けやすい人は上達しやすい、ということが研究でわかっています。
どの世界にも圧倒的な天賦の才を感じさせる、いわゆる天才がいることも事実です。僕がシカゴの大学院に留学していたときも、一度聴けばどんなに難しい曲でも楽譜を見ずに完璧に弾きこなせる台湾人や、講義中はほぼ寝ているのにたまに発言すると鋭い内容で周囲を驚かせる同級生がいましたから。図書館にこもって必死に勉強していた自分は「これはかなわない」と思いましたね。
――圧倒的な才能を目の当たりにして、心が折れませんでしたか。
そこはもう「自分とは違うんだ」と。自分は天才ではないのだから地道に努力していくしかないな、と。あの領域には届かなくても、自分なりに行けるところまで行ってみよう、という思考になりましたね。
僕、学生時代に47種類ぐらいアルバイトをしてきたんですよ。厨房でキッチンスタッフをやったこともあれば、ブルドーザーやユンボの免許も持っていますし、壁紙貼りや外壁工事をやったこともあります。もともとは音楽好きのロックンローラーでしたから、「そんな仕事は絶対に自分に合わない」という思い込みもあったのですが、試しにやってみたら意外とできることが多かった。
もちろん最初はどれも下手くそで怒られることもありましたが、続けていくと「昨日の自分」「3日前の自分」より着実に上手くなっているんですね。才能ってほとんど筋肉と同じなんです。鍛えれば誰でも一定のラインまでは行けますから。
心が病むときのパターンとは
――他人と比べるのではなく、「才能」を捉え直していく。そのほうが人生によりよく効く?
人が心を病むときのパターンの多くは、「他人の軸に合わせてしまった」ことから生じる苦しさによるものです。だから「自分軸」に戻って、過去の自分との戦いにすればいい。人間はがんばって続けた分だけ伸びますから。そこと比べるほうが健全ですよね。
「いまの職場に合わない」と感じている人は、「自分がダメだから」じゃなくて、「自分の持ち味といまの職場がかみ合っていないのかもしれない」と、見方を変えてみるのも有効です。
――才能を固定化せず、捉え直す本書のスタンスは、能力主義に対する一種のアンチテーゼのようにも感じられます。
能力主義に走ってしまうと、自分を「敗者側」だと思い込んだ人は絶望しか得られません。でも能力はどこでも通用する万能のものではないし、使い方次第で無駄遣いになることもある。逆に、自分ではしょうもないと思っていた持ち味が、思いがけず役立つことだって社会ではあるわけですから。それならば自分の持ち味をどう役立てていくかを考えるほうがずっと建設的です。
才能を発揮できているときって、いろんな感情が混ざり合っている状態でもあるんです。誰かを喜ばせたい、社会をよくしたい、人にひけらかしたい……。どんな動機であれ、自己肯定感や人生の意味に直結してくるのは、「誰かの役に立つこと」なんですね。周囲の人や所属している組織などの役に立って喜ばれることで、自分もうれしくなれる。自分の才能を活かすことは、ウェルビーイングを向上させるという側面からも有効なんです。
自分を知る手がかり 才能の5つのプロトタイプ
――本書では才能を知るための手がかりとして、「才能の5つのプロトタイプ」が提示されています。
ベースにしているのは世界中の心理学者が共通の指標として用いている「ビッグファイブ」と呼ばれる5因子モデルです。誠実性、外向性、協調性、開放性など5つのものさしで人格を解きほぐす手法です。「5つの大陸(因子)があって、その下にも島々(因子)がある」とイメージしてもらうほうがより正確です。
人は誰でも「強い島」と「弱い島」を組み合わせて持っています。本書ではこの考え方を凝縮し、「才能の5つのプロトタイプ」として、読者が自己診断できるようにしました。
自己診断方式にしたのは、人間は良くも悪くも「自分はこういうタイプだ」と枠が決まると、その通りに動いていく傾向があるからです。自分の特性がわかったほうが動きやすいし、「この因子は確かに自分らしい」と思えたら、そっちの方向でがんばっていけます。
人間はひとつのタイプだけで完結しているわけではありませんが、あくまで自分はどんな因子が強く出るのか、どういうことが向いているのかを知るための手がかりにしてもらえたらと思います。
――診断でわかった才能タイプと、やりたいことがズレているときは、どうすればよいのでしょうか。
自分のタイプとやりたいことが合わないからといって、不幸になるとは限りません。たとえば、いまの仕事が才能タイプと噛み合わなくても、人間関係、給料、成長のチャンスなど、いくつもの要素で満足度は変わってきます。
いまの仕事の中で、自分のタイプが活きる場面を増やすこともできるはず。自分が得意そうだと思う役回りを積極的に引き受けたり、弱みをカバーする仕組みをつくったりすることで、毎日の手応えは変えられます。
自分を追い込む仕組みを意識的に設計することで、自然と行動に移せるようにもなります。たとえば、僕はコツコツ努力することが苦手で、家にいる時間の9割はソファーに座っています(笑)。でも、ソファーの横に仕事道具をすべて置いて、2秒で稼働できるようにしている。これは設計の工夫です。
言葉で自分をコントロールするのも有効です。目標を立てる、それを人に話す、SNSで「やります」と宣言する……。ダイエットもそのほうが意識的に取り組めるし、効果が出ることが明らかになっています。
AIとどうつきあっていくか
――最近は、AIの進化で、「自分の才能の使いどころがなくなってしまうのでは」と不安を持つ人もいそうです。
僕はAIを、世界にたくさんいる「他者」のひとりだと考えています。人間は誰かとつながることによってできることがどんどん広がっていきますよね。自分ができることと、相手ができることを組み合わせると、新しい可能性が生まれてくる。
AIも同じで、自分の力とAIの力を混ぜれば、これまで以上のことができる。AIの発展によって自分の才能を見つけやすい時代になってきたように思います。
――研究の現場でも、そうした使い方をされているのでしょうか。
もちろんです。今年5月に国際学会で脳波実験の発表をしてきました。仮説を立てて実証していくのが仕事ですから、「きっとこうなるだろう」という予測を前提として、データを見ていくんですね。
ところが、その脳波のデータをAIに解析させたら、「ここを見逃していませんか」と教えてくれたんですよ。指摘されて初めてそこが重要なポイントだと気づけたし、その指摘を反映させた箇所が、学会でのウケも格別によかった。AIが助けてくれなければ無難な発表で終わっていたでしょう。
まず、1でも2でもいいから自分でポイントを見つける。そこからAIの力を借りて5を10に伸ばしていくというのがいまの時代だと思います。
――AIが情報を要約してくれる時代に、あえて本という形でメッセージを伝えることの意味は、どこにあるとお考えですか。
フェイク情報を含め、情報が氾濫している時代だからこそ、お金を払って研究者が書いた本を読む、ということに価値が見いだされている一面もあるのではないかと思います。僕ら研究者は、日々努力を重ね、信頼を担保していくしかない。
「才能」って必ずしも100点満点の80点レベルばかりではないんですよ。たとえば60点であっても、別の分野の60点と組み合わせれば、そこに独自の価値が生まれる。自分に足りないところは他者やAIが補い、伸ばしてくれる。それを上手に活用して生きていくのが、これからの時代なのかなと思います。