『「発達障害」とされる外国人の子どもたち』 日本の外国人支援政策の陥穽を問う!
記事:明石書店
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カズキくん、ケイタくん(いずれも仮名。本書の登場人物については以下も同様)はフィリピン人の母親と日本人の父親の間に生まれ、長くフィリピンで暮らしていました。母親の仕事の都合で来日し、日本の中学校に通い始めましたが、日本語はほとんどわかりません。しばらくして2人は教員たちから「発達障害」ではないかと疑われ、発達検査を経て、正式に「発達障害」と認められます。特別支援学級に編入してからも、運動系の部活動や芸術系教科で才能を発揮していましたが、進学先には特別支援学校を選びました。
2018年の夏から秋にかけて、本書の著者である金春喜さんは、きょうだい2人にかかわった保護者や教員たち、合計10人の大人たちに詳細なインタビューをおこないました。10人それぞれに尋ねたのは、「あのとき何を見て、思い、考えていたのか」。すると、単調な事実の奥に隠れた、外国ルーツの子どもの深刻な苦難の様相が浮かび上がってきました。ここでは、インタビューについての考察部分を本書から抜粋して紹介します。
10人の話を振り返ると、わかることがある。それは、カズキくんとケイタくんが「外国人としての困難」をたしかに抱えていたということ、そして、それへの対処として「障害児としての支援」があてられていたということだ。
寺田先生(カズキくんの通常学級での担任):日本語の上達というか、学力で考えてったら、まず、普通高校には進学できない可能性が高い。で、進学したとしても、ついていけない可能性が高い。それやったら、日本の制度の場合、特別支援学校の方が、職業的な学習ができる。っていう、先のことを考えて。あの子が卒業した後、っていうかハタチになった頃に、いま、日本でどうやって生きていくかっていうことをイメージして、えー、うーんと、「発達障害」かどうかということではなくて、特別支援学校に入れるために、特別支援学級に入れました。で、あの子が「発達障害」かどうかっていうのは、問題にしてないです。で、いま、日本の制度上、特別支援学校に入れるためには、療育手帳が必要。療育手帳が必要なので、療育手帳を持つためには、っていう順番かな。
では、このちぐはぐな対応は、いかにして可能になったのだろうか。それは「発達障害」の曖昧さがなせるわざだった。
寺田先生:カズキくんの場合は、「発達障害」ってなってるけども、ほんまにどうかって言ったら、微妙です。ライン的には。ただ、その「発達障害」かどうかっていう、ま、教師やから診断はできひんのですけども、その可能性を考えたときに、どうしてもやっぱ、本人とちゃんとコミュニケーションがとれへんことで、ほんまに「発達障害」かどうかってとこで、すんごく悩みました。お母さんの話を聞いたり、そこらへんから、行動的にはあり得るなっていう、超グレーな状態で特別支援学級に回した経緯はあります。
寺田先生には当初から、カズキくんを職業学科のある特別支援学校に入れたいという思いがあった。そんな思いのもとで下されたきわめて曖昧な根拠にもとづく判断をもとに、カズキくんは発達検査を受けることに決まった。
では、その発達検査はどんなものだったのだろうか。ここでは、ケイタくんが受けた発達検査についての話を振り返ってみよう。
森先生(日本語指導員):そこで(ケイタくんに)発達検査を受けてもらった。で、もう、そこで、「言語の影響もありますからね」って(結果とともに示された)。で、みんなで、「だから、言語の問題もあるだろうけど、その問題じゃないです!」っていう話をして。で、「親御さんからの成育認識からしても、来年から別に、特別支援学級の方に行っていいよ」っていう形だったので、ええと、療育手帳等々を取るために、また、その後、○○(判定機関)の発達検査も受けてもらいました。で、まぁ、自閉の部分あるなっていうふうに、言われたのかな、ケイタくん。あと、生活年齢とかの、見て、何かを真似したりとかは、上手なんですけど。やっぱり、推測するとかね、そういう部分だとかが弱くって。「ま、言葉の部分とかは、日本語に慣れてないから、なんとも言えませんけどー」とか言って。「でも、それだけじゃないんだろうなって、なんとなく感じましたけど」っていうふうには、言われましたけどね。
このように、医学的で正確だと思われている検査結果は、教員たちの介入によって結果が左右されるような、きわめて曖昧なものだった。
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「外国人としての支援」の制度が不十分な中で、苦肉の策として選ばれる「障害児としての支援」。外国ルーツの子どもが抱える困難に正面から向き合うには、政策レベルでの対応が不可欠です。本格的な「移民時代」を迎えたいま、日本人児童を前提とした教育カリキュラムを抜本的に見直す時期に差し掛かっているといえます。本書を通して、この問題をより多くの方に知っていただきたいと思います。