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藤井聡太二冠も羽生善治九段も解いた! 伝説の詰将棋本『詰むや詰まざるや』が平凡社ライブラリー版で登場

 ここ数年、実際に将棋を指すだけではなく「観る」将棋ファンが急増していますが、そんな昨今の将棋ブームの火付け役となったのは、もちろん藤井聡太二冠。2016年、史上最年少でプロ棋士となり、今年7月には史上最年少でタイトルホルダー(棋聖)となりました。

 序盤中盤終盤と隙がない藤井二冠の将棋ですが、とくに終盤力に定評があることで有名です。その原動力となっていると言われるのが詰将棋。詰将棋解答選手権では、こちらも史上最年少の小学6年生で優勝を果たし、プロ棋士をして「とても現実とは思えない」(森下卓九段)と言わしめています。

 将棋とは究極的には相手の玉を詰ませ(逃げるところをなくし)て勝つゲームですが、玉を詰ませることに特化したパズルが「詰将棋」です。

 詰将棋には、攻方(玉を詰ませる側)が王手をかけつづけなければいけない、持ち駒を使い切らなければいけないなど、実戦の指し将棋とは異なるルールがいくつか存在し(駒の動かしかたなどは同じ)、それが詰将棋独特の美しさを作り上げています。

 そして、その美しさ=詰将棋独自の世界を確立したとされるのが本書『詰むや詰まざるや』。江戸時代の将棋の名人である伊藤宗看作の詰将棋集「将棋無双」と、宗看の弟である伊藤看寿作の「将棋図巧」各百題が収められています。

 その一部を見てみると……。

攻方の駒が持ち駒だけで盤面にない「無仕掛」作品(「将棋無双」第十二番)

「神局」の名を冠する秀作(「将棋無双」第三十番)

途中できれいに並んだ歩が、終局ではあとかたもなく消え去る美しい「朝霧」(「将棋図巧」第六番)。

最初に王1枚しかない「裸王」(「図巧」第九十八番)

全39枚の駒が最後は3枚しか残らない「煙詰」(「将棋図巧」第九十九番)

そして611手を数える超大作「寿」(「将棋図巧」第百番)

 美学薫る格調高い作品から、趣向に満ちた驚きの曲詰(駒の配置で文字や図形を描く作品)までがそろっています。

 この本の詰将棋を1問でも解ける人は、かなりの将棋の実力を持った人と言えるでしょう。逆に言えば、多くの人にとっては本書の詰将棋を解くのは至難の業です。それでもこの本がだれにでも楽しめるのは、詰将棋作家・研究の大家であった門脇芳雄さんの詳細な解説があればこそ。解説を読めば、本書の詰将棋の美しさ、作意の大胆さ、趣向のおもしろさ、演出の巧みさにためいきが出ることでしょう。現代詰将棋の第一人者であり、英文学者の若島正さんのライブラリー版解説も必読です。

 故米長邦雄永世棋聖は生前、「この本をすべて解けば四段(プロ棋士)になれる」としばしば発言していました。羽生善治九段が十代のころ、(中断も含んで)6、7年かかって全問解いたという全200題を、藤井二冠は小学校中学年で解いたそうで、その才能と根気には圧倒されます。

 最後に、若島正さんの解説のことばを引いて、この文章の〆としたいと思います。

 詰将棋は、将棋という広大な世界が潜在的に持っている可能性を抽出したものである。詰将棋がこれだけ広い世界だということは、それよりさらに広い将棋という世界にもまだまだ開発されていない可能性が多く眠っていることを表している。そういう可能性を引き出してくれるような棋士──いわば、宗看や看寿のような存在──の出現を、わたしたちは夢見てもいいのではないか。もしかすると、それは藤井聡太二冠というかたちで、すでに夢から現実になりつつあるのかもしれないが。

文/岸本洋和(平凡社編集部)

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