日本民俗学へのいざない 〜変わってしまったもの・変わらないものを通じて日本の文化の基層を探る
記事:朝倉書店
記事:朝倉書店
日本各地にはいろいろな風習・言い伝えがあります。
ここにスポットライトを当てたのが、柳田国男を創始者とする民俗学です。
柳田の『遠野物語』は1910年の刊行ですから、日本の民俗学の歴史は100年をこえたことになります。
100年の間に日本の民俗学の位置づけも、対象となる民俗事象も大きく変わりました。
文化人類学・民族学、歴史学、宗教学などとの交流を経て、極端にいえば日本の民俗学とは他の学問から理論を取り入れて日本の民俗事象を扱っているだけなのか、それとも100年あまりの中でつちかわれてきた日本民俗学独自の方法論があって、さらにそれを追究していくべきなのかという大きな問いがたてられています。
一方、研究対象となる各地の民俗事象も戦争や高度経済成長に伴う過疎化・伝承母体の消失によって、なくなってしまった、なくなりつつあるものも少なくありません。
以上をふまえて、今までの日本民俗学が解明したこと・解明できなかったことをまとめ、次世代へバトンを渡すのが今回の〈講座日本民俗学〉です。
朝倉書店では、和歌森太郎ほか〈日本民俗学講座〉以来となる民俗学講座となります。
『方法と課題』『不安と祈願』に続くラインナップは次のとおりです。
『生産と消費』『社会と儀礼』『行事と祭礼』『芸能と遊戯』。
2020年代に入った現在、日本の民俗学はたいへん重要な時期を迎えている。
―中略―
日本民俗学が対象とする日本の農山漁村や町場や都市の生活が、2000年代に入るころから政治や経済や国際情勢の大変動の中で、大きく変貌してきている時代だからである。2001.9.11同時多発テロから、2008.9.15リーマン・ショック2011.3.11東日本大震災と原発事故など、21世紀初頭は日本だけでなく世界的にも大きな変動の時期であった。2019.12に中国武漢で集団感染が発生し、世界に広まっている新型コロナ禍は世界中を揺るがしている。
21世紀初頭の現在は、日本の生産と消費の生活の中に外国産品の輸入が急激増してきた時期でもあり、食の安全や危険の問題、またその一方、日本社会の少子化や高齢化の問題、極端な人口減少社会へなどさまざまな問題が複雑に起こってきている。地域振興をめぐってもさまざまな議論が行なわれている。
日本民俗学がその大切なフィールドとしてきた日本各地の地域社会がその大きな変動の中にある。その実態を把握しつつ、現在の日本民俗学には何ができるのか、もちろん学問としては運動ではなく分析と思索である。講座日本民俗学 編者一同 『講座日本民俗学』刊行の主旨より
『不安と祈願』で「疱瘡(ほうそう)神踊り」が紹介されています。
疱瘡という病気をもたらす厄介者の疱瘡神には踊りが好きな一面があり、疱瘡神を踊りでもてなし気持ちよくさせて別な場所に行ってもらうという民俗事象です。
考えてみると、昨年からの新型コロナウイルス感染症とのかねあいで人気者になった“アマビエ“も民俗学の対象としてうってつけではないでしょうか。
変わってしまったもの・変わらないものを通じて日本文化の基層をさぐる役割を民俗学は担いつづけるように思われます。