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上間陽子さんに「わたくし、つまりNobody賞」 沖縄が抱える暴力、貧困、基地…沈黙の声を聞く

記事:じんぶん堂企画室

「社会の一歩手前のネットワーク、見えない共同性の実存を作っていきたい」と語る上間陽子さん
「社会の一歩手前のネットワーク、見えない共同性の実存を作っていきたい」と語る上間陽子さん

 「わたくし、つまりNobody賞」は、「哲学エッセイ」を確立した文筆家・池田晶子さん(2007年逝去)の意思と業績を記念して始まった。「ジャンルを問わず、ひたすら考えること、それを言葉で表わし、結果として新たな表現形式を獲得しようとする人間の営みに至上の価値を置」き、「考える日本語の美しさ、その表現者としての姿勢と可能性を顕彰し、応援してゆこうとする」賞。

同賞主催のNPO法人わたくし、つまりNobody代表で池田晶子さんの夫でもある伊藤實さんが開会の辞を述べる
同賞主催のNPO法人わたくし、つまりNobody代表で池田晶子さんの夫でもある伊藤實さんが開会の辞を述べる

 今回受賞した上間さんは、1972年、沖縄県生まれ。沖縄で未成年の少女の支援・調査に携わり、2016年に起きた元海兵隊員・軍属による殺人事件をきっかけに、沖縄の夜の街で働く少女たちの聞き取り調査をまとめた『裸足で逃げる』(太田出版)を書き、虐待、レイプ、暴力にさらされながら生きる少女たちの声を伝えた。昨年刊行した2冊目の単著『海をあげる』(筑摩書房)では、沖縄で幼い娘を育てる日々の中で感じる絶望や理不尽さ、沖縄での生活が政治によっていかに壊されているかを描いた。同書は沖縄県内の書店員が読んでほしい本を選ぶ「第7回沖縄書店大賞」の沖縄部門大賞にも選ばれている。

 正賞「メビウスの帯」と副賞100万円を授与された上間さんは「もらっていいのかな、という気持ちだが、こんな明るい場所でみなさんに祝ってもらえることを今は喜びたい」と述べた。

正賞「メビウスの帯」が授与された
正賞「メビウスの帯」が授与された

「沈黙の声を聞く」と題して記念講演

 「沈黙の声を聞く」と題した記念講演で上間さんは、これまで出会った少年少女たちを通して、沖縄で生まれ育ちながらも知らなかったすぐそばにある暴力の存在を知ったこと、キャバクラで働く少女同士から“本人が何かを決めるのをそばで待つ”という身の処し方を学んだことなどを振り返った。

 現在沖縄で行っている10代で出産した女性たちへの聞き取り調査では、幼少時に性虐待を受けた女性たちはその体験が“記憶の穴”になっていて、その体験を表す言葉を持たない重層的な沈黙がそこにあることなどを語った。

『海をあげる』(筑摩書房)
『海をあげる』(筑摩書房)

 また、人はケアを欠いては生きていけないのに、これほどにケアを欠いた人たちがいることは政治の問題であること、『海をあげる』では生活すること、ケアをすることを真ん中に置いた日々のことを綴ったと語った。そして、ケアを受けずに生きる子どもたちの問題に自分にできることから取り組んでいく、と、講演を締めくくった。

「沈黙の声を聞く」と題した授賞記念講演を行う上間さん。右はリモート参加して対談した伊藤亜紗さん
「沈黙の声を聞く」と題した授賞記念講演を行う上間さん。右はリモート参加して対談した伊藤亜紗さん

 前回受賞者の伊藤亜紗さん(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)もリモートで出席し、祝辞を述べ、上間さんとの対談も行われた。

 伊藤さんは、上間さんの文章は「沈黙やまなざし、たちのぼる香りのようなものまで聞き取る描写は、心が洗われるような瑞々しさと、胸を引き裂かれるような苦しさと、両方をともなって読者に迫り」、「わたしたちを安心した観察者の位置からひきずりおろし、沖縄や東京のような街で起こっている出来事の当事者として巻き込む力を持つ」と賛辞を贈った。

(じんぶん堂企画室 伏貫淳子)

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