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うつ、不安…ストレスフルな人生を、認知療法で自分らしく幸せに 大野裕『こころが晴れるノート』

記事:創元社

気持ちは考え方に影響される

私たちは、自分なりのフィルターを通して世界を見ています。
生活をしているといろいろなことを体験しますが、そのときどきに私たちは自分なりの受け取り方、考え方をして、それが気分に影響を与えます。
例をひとつあげてみましょう。

一人で夜道を急いでいる場面を想像してください。
どうも、道に迷ったようです。
すっかり夜もふけてしまいました。
まわりには誰もいません。
疲れが全身に広がります。

どこで道を間違えたのか、そんな失敗をした自分が恨めしくなります。
「もっときちんと準備をしていたらこんなことにはならなかったのに」と考え、これまで経験したほかの失敗が頭に浮かんできます。
そのとき、あなたはどのような気持ちになっているでしょうか。
そう、憂うつになります。
そして、ますます身体が重くなってきます。
その場に座り込んで動く気にもなりません。

しかしそのとき、あなたに道を教えた人がいい加減な人で、間違った道を教えたということがわかったとします。
そうすると、「なんていい加減なやつだ」と考えて、怒りがわいてくるでしょう。
胸のあたりが熱くなってきます。
その人が目の前にいたら殴りかかるかもしれません。

そのとき、急に音がして目の前にぱっと動くものが目に入りました。
熊かもしれません。
「あっ、襲われる!」
とっさにあなたは考え、身構えました。
恐怖が全身を突き抜け、胸が張り裂けるほどに鼓動が強くなります。
身体が凍りついたようになって、身動きできません。

しかし、そのときに、「誰かいる、これで道を聞ける」と考えたとしたらどうでしょうか。
安心して、嬉しくなるでしょう。
そちらのほうへ駆け寄るでしょう。
つまり、同じ体験をしていても、それをどのようにとらえるか(認知のしかた)でそのときに感じる気持ちはずいぶん違ってきます。
身体の反応や行動も違ってきます。
このように私たちは、自分で作り出した世界を生きて一喜一憂しているところがあるのです。

この例からもわかるように、私たちはある体験をしたときに、いろいろなことを考え、それが気分や身体の状態、行動パターンに影響します。
仕事の締め切りが迫っていてあせっている状況を想像してみてください。

このように、ストレスを受けるといろいろな反応が起きてきます。しかも、気分や行動、身体に現れた変化に反応して「大変だ」と考えて、ますます気持ちが動揺するなど、思考、気分、行動、身体状態はお互いに影響しあって動揺が広がっていきます。
また、同じ体験をしても、その受け取り方によって気分や行動のパターンは違ってきます。
うつ的になると悪いことばかりに目が向いて気持ちが落ち込んでいきますし、不安なときには心配が先に立って不安が強くなるという悪循環に陥ります。

否定的な認知の3つの特徴

ストレスがたまってうつ的になっているとき、私たちは、自分、周囲、将来の3つに悲観的な目を向けています。

自分にたいして悲観的……………………………………
「集中できないし、物覚えも悪い。自分はもうダメだ」「頼まれたことをきちんとできない自分はダメな人間だ」と考えるなど、自分自身を否定するような考え方をするようになります。

周囲にたいして悲観的……………………………………
自分のまわりで起きることにたいして悲観的な受けとめ方をしています。
「自分は何の役にも立たない人間だ、こんな人間とつきあいたいと思う人なんていないだろう」と考え、まわりの人との関係がうまくいっていないと感じて疑い深くなったり引っ込み思案になりすぎたり、人を恨んだりするようになります。

将来にたいして悲観的……………………………………
将来への希望を失い、悲観的になっています。
「いまの状況はこのまま変わりようがないし、このつらい気持ちは一生つづくだろう」と考えます。
そう考えるとそれが本当に思えて、自分が周囲の人たちにも迷惑をかけつづけている、これからもそうだろう、と考えるようになり、自分で自分の命を絶つことまで考えるようになることさえあります。
このように考えると、何をしてもムダのように思えて、ますます気力がなくなってきます。
でも、そうしたときこそちょっと立ち止まって問題を見つめなおし、解決のドアを押したり引いたりしてみると、また違った解決法が見えてくるものです。
そのときに役に立つのが、ここで紹介する認知療法と呼ばれる精神療法(カウンセリング)です。

つらくなったときに頭に浮かんだ考えやイメージに注目する

認知療法では、前項であげた特徴的な認知を修正していくために、そのときどきにぱっと頭の中に浮かんでくる考えやイメージの流れに注目します。そうした考えやイメージを、専門的には「自動思考」と呼びます。
私たちの気分や行動は自動思考によって左右されています。つらくなっているとき、私たちはものごとを現実以上に悲観的に考えています。不安になっているとき、私たちは危険にたいして過度に敏感になっています。
このように強い感情がわいてきたときには、その感情を理解する手がかりとなるような自動思考が存在しています。
そのようなときに、考え方を少し変えて現実に目を向けてみれば気持ちが少し楽になることがあります。
そうすることで、もっと自分らしく生きられる可能性が出てきます。
ですから、まず自分の中の自動思考を見つけだすことが大事です。そのためには、激しい感情がわいてきたときに頭の中に浮かんでいる考えやイメージに目を向けるようにしてみましょう。なかでも、とくに強い感情を引き起こしている自動思考に注目することが大切で、これを専門的には「ホットな」思考と呼んでいます。自動思考、なかでもホットな思考に目を向けて自分らしさを取りもどすコツをこれから練習しいていきましょう。

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