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16歳の少年がアインシュタインに挑む! 相対性理論をめぐる思索の冒険

記事:筑摩書房

「相対性理論」と呼ばれることになる世界の捉え方とは?
「相対性理論」と呼ばれることになる世界の捉え方とは?

光の速さで光と並走したら光は止まって見えるだろうか?

 光の速さで光と並走したら光は止まって見えるだろうか?

 『16歳からの相対性理論』の主人公、16歳の数馬が最初に出会う問い掛けです。そしてこれは、同じく16歳のアインシュタイン少年が夢中になった問題でもあります。少年期特有の鋭敏な感性と共に向き合ったこの問いは、10年の時を経て「相対性理論」を生み出すことになるのですが、それはもう少し先のお話。まだ何者でもないひとりの少年にとっては、ただただ青春の一ページです。

 この問いの本質は「世界の姿は観る人によって違うのだろうか?」です。私たちは普段、特に意識することなく、光と音で同じ世界を「観て」います。後ろから車の音が聞こえてきて振り返ると、必ず音の方向に車がいますね。これがずれていたら怖くてたまりません。ですがこれは、普段の私たちが狭い空間で起こる現象に意識を向けているからです。例えば、夏の夜空を彩る花火は、最初に夜空に大輪の華が咲き、しばらくしてから特大の和太鼓のような振動が腹の底に響きます。音が遅れて届いたわけです。花火が上がるくらいの広い空間では、光と音の速さの違いが無視できなくなるために起こる現象です。この違いは動く事でさらに顕著になります。極端な話、あなたが花火と逆方向に音の速さで飛び続けていたら花火の音は永遠に聞こえません。もしも世界を知る手段が音しかなかったら、あなたの世界から花火が消えてしまうことになります。音だけの世界はとても不安定なのです。

人々が光に近いスピードで動き回ったら…?

 その点、光は特別です。なにしろ光の速さは秒速約30万キロメートル。音の速さの実に88万倍です。私たち人間が出せる速さは、戦闘機に乗ったとしても精々音速程度ですから、光が作る風景に影響を及ぼすには遅すぎます。私たちが皆同じ風景を見られるのは光を使って世界を認識しているからです。この世に光があるからこそ、私たちは安心して「ひとつの世界」を共有できるというわけです。

 ですが、人々が光に近いスピードで動き回ったらどうでしょう。光の速さで飛ぶ船に乗り続けているあなたの後方で花火が上がったとします。もしも光が音と同じなら、あなたが花火を見ることはありません。それどころか、花火が上がったことを確かめることすらできません。花火の光が届かない以上、単純に光が届かないだけなのか、実は花火そのものが上がらなかったのかを確かめる術がないからです。あなたの世界から「花火の情報」が丸ごと抜け落ちるということです。光が単純に「ものすごく速い音」だとしたら、世界の姿は本来的に不安定な存在ということになってしまいます。

『16歳からの相対性理論』(ちくまプリマー新書)帯画像
『16歳からの相対性理論』(ちくまプリマー新書)帯画像

相対性理論の原点、アインシュタイン少年の瑞々しい感性

 アインシュタイン少年の瑞々しい感性はこれが許せなかったのです。彼が思い描く「世界」とは確固たる存在です。原理的にみえないものなど存在していないのと同じです。この確固たる世界で花火が本当に上がったなら、その事実はどんな立場の人からでも確認できなければおかしいのです。

 こうして辿り着くのが冒頭の問い掛けです。もし光の速さで光を追いかけたときに光が止まってしまったら、世界は確固たる存在ではなくなってしまう。確固たる世界を信じるアインシュタイン少年からしたら、世界が世界であるために、光が音と同じように振る舞うとは思えなかったのです。

『16歳からの相対性理論』(ちくまプリマー新書)書影
『16歳からの相対性理論』(ちくまプリマー新書)書影

 この暴論とも思える感性こそが相対性理論の原点です。どんな時代でも、新しい世界を生み出すのは知識ではなく想像力です。数馬は、ミステリアスな美少女シュレに導かれながら、癖の強い友人知人たちに翻弄されながら、そして、物理学者の父親宗士郎と対話を重ねながら、将来「相対性理論」と呼ばれることになる世界の捉え方をその身に刻んでいきます。数馬と一緒に青春の一ページを駆け抜けたとき、宗士郎はきっとこう言ってくれるはずです。

 「あぁ、おまえはもう相対性理論を理解してる」

 120年の時を経て色褪せない思索の冒険を楽しんで下さい。

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