ほめるべき? 叱るべき? ー子どもの発達・成長を支えるために
記事:朝倉書店
記事:朝倉書店
心理学では、経験を通じて比較的永続的に生じる行動(および、行動を支える知識、感情、認知など)の変化を総じて学習と呼んでいる。
(1) 直接的・間接的な学習
学習は直接的な経験からのみならず、他者の観察によっても生じる。このような他者との相互作用の中で生じる学習は社会的学習と呼ばれる。
(2) 条件づけと学習
学習を支える基本的な原理として、古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)と道具的条件づけ(オペラント条件づけ)と呼ばれる2つの手法が知られている。
後者の道具的(オペラント)条件づけとは、報酬や罰という結果を与えることによって自発的な行動を促す手法である。
自己・他者の行動を変容させようとする際には、対象の行動・反応と、その前後の刺激との関係を考えてみよう。学習の原理を知ることは、行動を変えるために有効な手段を考えることに結びついている。
学習の成立には報酬と罰が重要な役割を果たしている。では、子どもの行動変容を促すためには、報酬(=ほめる)と罰(=叱る)のどちらの方法が有効だろうか?
(1) 動機づけと報酬
報酬による行動の強化は比較的緩やかに生じる。
ひとたび行動習慣が獲得されると、報酬が得られなくなっても行動習慣は消失しにくい。
(2) 動機づけと罰
罰は対象の行動習慣を素早く強力に減少させるが、その効果は一時的なものである。
また、罰を与えることをやめると、行動習慣は罰を与える前よりも増大しやすい(罰対比効果)ことが知られている。
さらに、強すぎる罰は情緒・対人関係の面で好ましくない影響を与えることがあるため、行動変容の手段に用いることは推奨されていない。
人の学習は直接的な経験だけでなく、他者の行動やその結果、あるいは評価基準などを観察することによっても生じる。
また、人は他者と良好な関係を築きながら、自律的に振る舞い、有能さを獲得しようと成長する志向性をもっている。
人がもつこうした学習の仕組みや、主体として成長しようとする志向性について理解し、学習や成長を妨げないように働きかけ、関係性を築くことが、教育に携わる者にとって大事な視点である。
本書では,教育心理学が扱う人生のさまざまな問題について、教育・保育の現場に携わる執筆者が実例をもとにコラムを書いています。
これらを参考に、読者の方々も自分なりの答えを考えてみてください。
(コラム「みんなで考えよう!」より)
第1部 若いからできること 歳を重ねるからこそ輝くこと
第1章 人生って何だろう?-生涯発達からみた「今の自分」-
1.1 人は生涯にわたって発達する
1.2 生涯にわたって発達していくために大切なこと
1.3 発達の連続性をふまえた保育・教育の担い手となるために
第2部 ひとりよりもみんなでいることのほうが幸せか?
第2章 人がともに生きるとは?-人間関係とコミュニケーションの発達-
2.1 赤ちゃんは世界とどう出会うか
2.2 アタッチメント
2.3 気質
2.4 パーソナリティ
2.5 非言語コミュニケーションと言語コミュニケーション
2.6 向社会的行動
2.7 攻撃行動
2.8 いざこざといじめ
2.9 子育て支援第3章 メディアとともに生きるとは?-メディアからの学びを考える-
3.1 子どもの育ちと「メディア」
3.2 現代の多様なメディアによる協同活動
3.3 現代社会のメディア環境における子どもの発達・学習
第3部 なぜ学校に行くの?
第4章 いっぱい遊んだ子どもは賢くなる?-非認知能力と認知能力-
4.1 遊びが大事?
4.2 遊びとは?
4.3 保育・幼児教育における遊び
4.4 非認知能力
4.5 協同的な活動
第5章 学習することで世界は変わるか?-発達に応じた学習と思考・知能の発達-
5.1 学習の理論
5.2 学習と記憶
5.3 知能と学力
5.4 非定型発達
5.5 おわりに-学習することで世界は変わるか?-
第6章 「やる気」を引き出す魔法-動機づけがもたらすもの-
6.1 子どもの育ちに大切な動機づけとは?
6.2 期待・価値と動機づけ
6.3 興味と動機づけ
6.4 自律性と動機づけ
6.5 不適応につながる動機づけ
第4部 誰よりも幸せになる方法?
第7章 幸せはすでにあなたの手の中に?-認知と感情の発達がもたらすもの-
7.1 赤ちゃんの感じる世界
7.2 「私」ってなんだろう
7.3 他者について知ることと,ともに生きる世界
第8章 「私,ほめられて成長しますので」-叱ってはいけない? 真の「ほめる」とは-
8.1 社会の中で学習する仕組み
8.2 ほめるべきか,叱るべきか
8.3 発達・成長を支える-ほめる・叱るを越えて-