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限局性学習症(SLD)の児童はどのように見えているのか?―困難をデジタル付録で疑似体験する

記事:朝倉書店

学習の習得は個人差が大きいが、どれだけ時間をかけてもひらがなの文章をスムーズに読むことができない、漢字を含む文字の書字が綺麗に書けない/非常に時間がかかってしまうなどの特徴を示す子どもが存在している。神経発達症のなかでも学業達成に関する困難を顕著にあらわすものを限局性学習症と呼ぶ。
学習の習得は個人差が大きいが、どれだけ時間をかけてもひらがなの文章をスムーズに読むことができない、漢字を含む文字の書字が綺麗に書けない/非常に時間がかかってしまうなどの特徴を示す子どもが存在している。神経発達症のなかでも学業達成に関する困難を顕著にあらわすものを限局性学習症と呼ぶ。

小学校入学で見えてくる困難

 小学校に入学すると、子どもたちは教室での一斉授業での教科学習を初めて経験する。読み書き計算などの習得は個人差が大きく、すぐに覚える子ども、なかなか身につかない子どもなど千差万別である。そんななか、どれだけ時間をかけてもひらがなの文章をスムーズに読むことができない、漢字を含む文字の書字が綺麗に書けない/非常に時間がかかってしまうなどの特徴を示す子どもが存在している。保護者に状況を伝え生育歴を聴取しても、幼稚園・保育園などにも通っており、学習の遅れにつながるようなエピソードもない。本人や保護者の努力も感じられるのだが、明らかに学習の達成のスピードが周囲の児童よりも遅く改善される気配もない。また高校や大学などの高等教育機関では、レポートに挿入するグラフの罫線や折線が定規を使用しても真っ直ぐに引くことができず、何度も再提出を繰り返す学生が存在する。このような児童生徒の困難の基底には、認知・神経的な問題から起こる神経発達症の問題がかかわっている可能性が高い。神経発達症のなかでも学業達成に関する困難を顕著にあらわすものを限局性学習症と呼んでいる。

読字障害の文字・文章の見え方とは

 限局性学習症(specific learning disorder, SLD)(旧:学習障害)とは、特定の学業的技能(たとえば、読み書き、計算など)の習得・使用に困難を示す神経発達症群の1 つである。1963 年にアメリカの教育臨床家であるサミュエル・カーク(Kirk, Samuel A.)が、知的障害をもたない児童のなかに文章の読みにのみ困難を抱える者がいることを報告している。その後の研究から、読みだけでなく書字や計算、理論的推論などの領域で同様の困難をもつ児童が発見されていった。限局性学習症は、その児童が難しさをあらわす領域に合わせて、読字障害、書字障害、計算障害と呼ばれることもある。読字と書字の困難を併せもつ者のことは、古くから発達性読み書き障害(ディスレクシア:dyslexia)と呼ばれ報告されてきている。

◆文字や文章を読む速度が遅く、読みが不正確

 この部分は文字を読む力の障害、つまり読字障害についての小項目である。読字障害と聞くと、「文字が読めない」障害であると考えるかもしれない。しかし、ほとんどの限局性学習症者は文字が読めないのではなく「素早く・正確に」読むことが困難なのである。つまり、流暢性(fluency)の困難であると考えられている1)。読字障害の文字の見え方・とらえ方については、当事者からの語りからさまざまなエピソードとして報告されている。列挙すると、①字のパーツがくっついてしまい黒い塊のように見える、②文字を構成する線が二重・三重に見える、③文字が集まってしまいどこで区切ればよいのかわからないなどが頻繁に報告されている。読字障害の文字・文章の見え方を再現した教材をデジタル付録〈e3.1.1 に収録した。どのような困難をもつのか体験することで、限局性学習症の理解が深まるだろう。

〈e〉3.1.1 限局性学習症の読み困難を体験してみよう〔榎本拓哉・竹内康二〕(やってみよう!)
https://app.box.com/s/aqagu83b6i59e9u6awox3i9rp2jok2ff
〈e〉3.1.1 限局性学習症の読み困難を体験してみよう〔榎本拓哉・竹内康二〕(やってみよう!) https://app.box.com/s/aqagu83b6i59e9u6awox3i9rp2jok2ff

書字の困難とは

文字を正確に書くことの困難/4)文字で表現することの困難

 診断基準には明記されていないが、文字以外にもまっすぐな直線が引けない、線に沿ってなぞり書きすることができない、絵などで大きさを揃えて描くことができないといった、筆記用具を使用する際に全般的な困難を示す場合もある.書字障害児者は、不正確な字形(図1)や、文字を構成する部位のアンバランスさ(図2)、文字間の大きさの不均等(図3)などを典型例とした独特の書字の困難さを表出する。どの特徴についても、一般的な教育でおこなわれているような方法(たとえば、見本を見ながら書き写して文字を学ぶ視写、何度も書いて覚える書写)では、正確な文字の表出が身につきにくいという点は共通している。つまり、一斉授業のような画一的な指導形態ではなく、本人のもつ特性に合わせた教材や教授方法が必要となるのである。

図1)不正確な字形の例
図1)不正確な字形の例

図2)文字間の大きさの不均等
図2)文字間の大きさの不均等
 

図3)構成部位のアンバランスさ
図3)構成部位のアンバランスさ

 (中略)

 書字障害については、言語性短期記憶モデル7)で説明がされている。言語性短期記憶モデルでは、複雑な漢字を記憶する際には、視覚的分析力を含む視覚言語性短期記憶が漢字の書字に大きくかかわっていることが報告されている8)。つまり、漢字の各部分を分解・再構成し、音韻情報(音読み・訓読みを含む音情報)とマッチングすることで、私たちは複雑な文字である漢字を理解し使用することができているのである。書字障害児がもつ言語性短期記憶の難しさを体験するために、e3.1.2 に擬似体験プログラムを掲載した。

 認知モデルの検証と合わせ、限局性学習症の脳神経学的機序についても研究報告が多数なされている。近年ではfMRI NIRS など脳の活性状況を画像化するニューロイメージング技術の発展により、実際の読み書きをおこないながら脳神経活動を探ることが可能となり、研究が飛躍的に進歩してきている。ニューロイメージングの研究では、定形発達者と限局性学習症者との間に、左側頭葉にある頭頂側頭移行部(音韻処理)、側頭葉後下部(単語形態の認知)、下前頭回(発音・音韻処理の補助)に活性状況に差があることがわかっている2)。しかし、各国の言語形態(アルファベットのような半表音文字、ひらがなのような完全表音文字、漢字のような表意文字)によって使用される脳機能に違いがあることも指摘されており3)、言語形態を考慮した研究知見の蓄積が求められている。

〈e〉3.1.2 限局性学習症の書字困難を体験してみよう〔榎本拓哉・竹内康二〕(やってみよう!)
https://app.box.com/s/a3wu0tjndzbo30uyf8qkgcuklcedojes
〈e〉3.1.2 限局性学習症の書字困難を体験してみよう〔榎本拓哉・竹内康二〕(やってみよう!) https://app.box.com/s/a3wu0tjndzbo30uyf8qkgcuklcedojes

文献

1))Chard, D.J., et al. (2002). Journal of Learning Disabilities, 35, 386-406.
2)Pugh, K.R., et al. (2000). Mental Retarded Developmental Disabilities Research Review, 6, 207-213.
3)Tan, L.H., et al.(2005). Human Brain Mapp, 25, 83-91.

「手を動かしながら学ぶ 神経心理学」
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