感染症のいまを考える。 〜「内科学」の観点からみる感染症の新しい展開
記事:朝倉書店
記事:朝倉書店
人類の歴史は感染症との戦いの歴史ともいえるほど、感染症はこれまで繰り返し人類に大きな脅威を与え、人類もそれに対峙し乗り越えながら現在に至っている。天然痘、ペスト、コレラ、インフルエンザ、AIDSなどさまざまな感染症が世界的に流行し、これまで多くの人々が亡くなっているが、人類が撲滅できた感染症は天然痘のみで、それ以外の感染症はいまだに存在し続けている。ただし、先人達の努力によってほとんどの感染症の病原体は特定され、さらに主要な感染症に対しては、診断法や治療法、およびワクチンも開発されるなど、感染症の脅威は忘れ去られることが多くなっていた。しかし、今回、感染症に対する認識を大きく変えたのが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による感染拡大である。
2019年12 月頃に中国の武漢で発生した新型コロナウイルス感染症はその後、急激に世界に広がり、世界の感染者数は2021年9月に累計で約2億3千万人、死者数は約450万人に達している。日本は累計の感染者数が約170万人、死者数は約1万7千人に達し、繰り返す流行に伴い医療体制の逼迫が生じた。
新型コロナウイルス感染症が世界に与えたダメージは大きく、世界経済は悪化し、社会のあり方や人々の行動まで大きく様変わりしてしまった。従来存在していなかった病原体が現れて、新興感染症として猛威を振るう可能性はこれまでも指摘されていたが、 新たなコロナウイルスがこれほどの規模のパンデミックを起こすことは予想外で、我々は不意を突かれたともいえる。急激な感染症の拡大に伴い、マスクや消毒薬が不足して 社会問題となり、リモートによる仕事や授業が積極的に導入され、海外との人の行き来は制限され、我々は感染を常に意識しながら新しい様式の生活を行わざるを得ない状況に陥った。
それでも人類はこの感染症に立ち向かい、PCR 検査などの診断法を早期に立ち上げ、 治療薬やワクチンの開発に着手した。残念ながら特効薬と位置づけられるような有効性の高い治療薬はまだ承認されていないが、多くの候補薬が現在、検討段階に入っている。また、ワクチン開発にも多くの企業が参入し、1 年も経たない段階で実用化され全世界的に接種が進められている。ただし、ワクチン接種が出遅れている国では集団免疫の成立まで時間を要するとともに、感染力が高く、免疫逃避などの特徴を有する変異ウイルスの出現によって、今後の収束の見通しはまだ不透明である。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大は世界のあり方を一変させたが、危機管理として感染症に備えることの重要性を新たに認識した出来事でもあった。今後、この感染症が収束したとしても、新たな感染症が発生しないとも限らない。また、新興感染症に注目が集まりがちであるが、従来から問題となっている感染症についても引き続き対策を講じていくべきである。特に薬剤耐性(antimicrobial resistance: AMR)など今後さらに深刻になることが予想されている問題については、新規抗菌薬の開発やAMR 対策アクションプランの継続など、今後も、積極的に対策に取り組む必要がある。
〔松本哲哉〕
現在こちらから、本『内科学 12版』のデジタル化商品『デジタル内科学』を期間限定で無料お試し利用いただけます。ぜひご覧ください。