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ロシアを知る 東ヨーロッパを知る 〜情勢を考えるために

記事:朝倉書店

私たちの知らない東ヨーロッパ・ロシアの姿はまだ多くある。
私たちの知らない東ヨーロッパ・ロシアの姿はまだ多くある。

揺らぐ東ヨーロッパ・ロシア地域

 1989年の東ヨーロッパ諸国の改革と1991年のソ連邦崩壊は、第二次世界大戦後の決定的ともいわれた東西対立の構図をあっけなく終わらせた。その結果、東西に分断されていたヨーロッパが1つになる大きな契機が生まれた一方で、それまで社会主義のイデオロギーに封じ込められていた民族ナショナリズムの熱狂を呼びさまし、新たに独立を宣言する国家が相次ぐ結果をもたらした。

 この点でこれらの地域は今、統合と分化という互いに相反するモメントが交錯するきわめて流動性に富んだ状況にあるといえよう。

変化する東ヨーロッパの姿勢

 こうした変動しつつある東ヨーロッパとロシアについて、当然のことながらわれわれの視点も変わらざるを得なくなった。かつてユーラシア大陸の大半を制していた巨大国家ソ連邦に脅威と好奇の目を向け、その傘下におかれた東ヨーロッパを「衛星国」としてとらえる視点はもはや完全に過去のものになった。

 ユーゴスラヴィアの解体とチェコスロヴァキアの分裂など不安定な政治情勢が露呈した一方で、東ヨーロッパ諸国は、それまでの旧ソ連邦、ロシア寄りの体制をやめ、西ヨーロッパ、EUとの関係に強い関心を向けるようになり、2004年にはポーランドなど8カ国がEUに加盟、さらに2007年にはルーマニアとブルガリアが加盟するなど、急速にヨーロッパ統合への道を歩んでいる。

CISとロシア

 一方、旧ソ連邦の地域では新たに15の独立した国家が生まれ、EU加盟を果たしたバルト3国を除く12の主権国家は「独立国家共同体(CIS)」という緩やかな組織を形成した。CISは、ソ連邦解体を「文明的な離婚」(プーチン現大統領)とするための遺産分割手続きなど、歴史的使命をほぼ終了した。世界政治・経済への発言力を取り戻しつつあるロシアがある一方で、依然としてロシアに依存せずにはやっていけない国々と、西側への傾斜を鮮明にしつつある国々があり、CISは事実上空中分解の岐路に立っている。

CISの旗。こうした過去を踏まえて、現在のロシア・ウクライナ情勢を考えてみたい。
CISの旗。こうした過去を踏まえて、現在のロシア・ウクライナ情勢を考えてみたい。

東ヨーロッパとロシアをともに描く意味

 本書はさまざまな専門分野に取り組む総勢39名の執筆陣を擁し、東ヨーロッパとロシアの姿をできるだけ克明に描き出すことを目標にして編集された。専門の異なる研究者を起用することによって1つの専門分野では取り上げきれない内容を盛り込める利点があると判断されたからであるが、その反面、これによって記述の連続性に欠け、1冊の本としてまとまりのないものになる危険性をはらむことになる。

 にもかかわらずこれを敢行したのは、多様な執筆者による自由な記述があってこそ、不均一で異なる方向を模索するこれらの地域の特色が描きえると考えたからであり、それこそが東ヨーロッパとロシアをまとめて1冊の本として刊行する理由の1つだととらえている。(後略)

Ⅰ 東ヨーロッパ

第1章東ヨーロッパの諸特性
 1.1 東ヨーロッパの地域性
 1.2 多様な自然環境
 1.3 地域の歴史へのまなざし
第2章改革後の新しい変化
 2.1 人口の変化,人々の移動
 2.2 農村地域の変化
 2.3 都市の変化
 2.4 観光地域の発達と観光行動の変化
 2.5 経済の変化
 2.6 環境の変化
 2.7 教育の変化
 2.8 民族集団と文化
 2.9 伝統文化とその変化
 2.10 少数民族ロマの文化
第3章新しいEU 加盟諸国と加盟予定諸国
 3.1 ポーランド―移民とバザールの社会地理―
 3.2 チェコ
 3.3 スロヴァキア
 3.4 ハンガリー
 3.5 スロヴェニア
 3.6 ルーマニア―農業と農村の変化―
 3.7 ブルガリア
第4章EU 統合と東ヨーロッパ
 4.1 強化される地域間関係
 4.2 変貌を遂げる国際関係
 4.3 変わりゆく東ヨーロッパの地域性

Ⅱ ロシア

第5章ロシアという空間
 5.1 ロシア連邦の地理的概観
 5.2 二大都市―モスクワとサンクトペテルブルグ―
第6章人口
 6.1 ロシアの人口
 6.2 1990年代の人口減少問題
第7章歴史と民族
 7.1 森と草原の国から「帝国」へ―ロシア国家膨張の歩み―
 7.2 ソ連時代の70年間
 7.3 ソ連邦の解体
 7.4 独立国家共同体(CIS )の現状
 7.5 ロシア連邦制―中央と地方との関係―
 7.6 北カフカス地方
 7.7 民族紛争
第8章産業と環境
 8.1 鉱工業
 8.2 ロシアの農業
 8.3 シベリア鉄道
 8.4 貿易
 8.5 軍需産業と兵器輸出
 8.6 シベリア,サハリンのエネルギー資源
 8.7 カスピ海油田開発
 8.8 自然災害と京都議定書の鍵を握るロシア
 8.9 核(関連)兵器の解体
 8.10 ロシア極東の環境問題―サハリン・北方四島―
 8.11 ロシア極東の漁業
第9章文化と社会
 9.1 ロシア正教
 9.2 イスラム教
 9.3 ジェンダーの視点―ロシアの女性―
第10章国際関係
 10.1 政治,外交,軍事
 10.2 中ロ国境
 10.2.1 中ロ国境の画定
 10.2.2 中ロ国境地帯
 10.3 クリミア半島
 10.4 北方領土問題
 10.5 ロシアと日本
第11章ヨーロッパ部のCIS
 11.1 ウクライナ
 11.2 ベラルーシ
 11.3 モルドヴァ

参考文献
索引 朝倉世界地理講座 10 『東ヨーロッパ・ロシア』目次

『朝倉世界地理講座10 東ヨーロッパ・ロシア』
『朝倉世界地理講座10 東ヨーロッパ・ロシア』

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