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NATOを知ればウクライナ情勢がわかる!

記事:平凡社

NATO早期加盟を求める文書に署名したウクライナのゼレンスキー大統領(ウクライナ大統領府提供)
NATO早期加盟を求める文書に署名したウクライナのゼレンスキー大統領(ウクライナ大統領府提供)

11月15日発売、平凡社新書『NATO 冷戦からウクライナ戦争まで』(村上直久著)
11月15日発売、平凡社新書『NATO 冷戦からウクライナ戦争まで』(村上直久著)

最も成功した軍事同盟

 NATOは一九四九年の発足以来、域内で平和が維持され、少なくとも二〇世紀末から二一世紀にかけて世界で最も成功した軍事同盟であると言われている。NATOの加盟国は当初の一二カ国から現在では三〇カ国に増えているが、それに伴いNATOがカバーする領域、人口が大幅に増えた。その間、9・11の同時多発テロでテロリスト・グループ、アルカイダの攻撃を受け、多数の犠牲者が出たことがあるものの、国家による武力攻撃を受けたことはなく、曲がりなりにも平和が保たれてきたのは驚くべきことだ。

 これに伴いNATOはその活動範囲が大幅に拡大するとともに、地域軍事同盟から国連と連携して世界各地の紛争にも対応する軍事同盟にその性格を変えてきた。

 NATOは欧州の国であれば加盟資格がある。民主主義の諸原則や国民の自由などの価値を共有する。これに対してソ連とその承継国家ロシアはこれらの価値観を理解しようとはせず、国際政治を勢力圏の枠組みでとらえようとする傾向があるようだ。

 冷戦終結後、東欧諸国はソ連の勢力圏から抜け出て「欧州への回帰」に走った。その手段として欧州連合(EU)とNATOへの加盟を重視した。これに対してロシアは旧東側諸国のNATO加盟への動きを警戒した。

NATOとロシア、かつては蜜月も

 一方、現時点ではにわかには信じがたいが、ロシアはNATOと二〇〇〇年代にはおおむね友好的な関係を維持した時期もあった。米国が主導するNATOのミッションにロシアが参加したり、ロシアがNATOの「パートナー国」となったり、NATOロシア理事会が存在した時期もあったのである。

 こうした友好ムードが吹き飛んだのは二〇〇〇年代後半にNATO周辺国で起きた、民主化のための「カラー革命」だった。ロシアのプーチン大統領はウクライナの「オレンジ革命」やグルジア(現在はジョージア)の「バラ革命」は米国が背後で策動し、ロシアのプーチン政権もターゲットになる可能性があるとして警戒するようになった。プーチンは、NATOは米国の策動の手段であるとみなすようになったという。そして二〇二二年二月二四日に始まったロシアのウクライナへの軍事侵攻は、ロシアが「兄弟国」ともみなすウクライナがNATO加盟への希望を表明したことがきっかけの一つだったとされる。

ロシアに見抜かれた弱さ

 今回のロシアのウクライナ侵攻は、二〇〇八年のグルジア侵攻のやり方と共通点がある。反政府勢力を支援して、分離独立地域を作るやり方が特にそうだ。グルジア侵攻の際の米国や、米国が盟主のNATOの「主権の侵犯」に対する反応は鈍く、ロシアのウクライナ侵攻はこれに味をしめたきらいがある。

 二〇一一年にチュニジアやエジプトなどで始まった「アラブの春」を契機としたシリアの内戦に、ロシアは途中から介入した。シリアのアサド政権が化学兵器を使用した疑いが浮上して米オバマ政権は武力制裁をためらい、結局、ロシアに事態の収拾を頼むという展開となった。アサド政権はその後、ロシアが黙認する中で再び化学兵器を使用、犠牲者が出た。

 二〇一四年二月にはウクライナで親ロシア政権がクーデターによって倒され、その翌月、ロシアは南部クリミア半島を一方的に占領、自国領土に加えた。その二カ月後にウクライナ東部のドンバス地方で親ロシア派勢力とウクライナ政府軍の間で戦闘が始まり、前者へのロシアによる「非公然の」兵力や武器の提供もあり、戦いは泥沼化した。欧米はロシアに対して経済制裁を加えたが微温的なもので、ロシアは西側の「弱腰」を再認識したようだった。

 二〇一七年から四年間の米トランプ政権時代に、トランプ大統領はNATOを軽視する発言を繰り返し、フランスのマクロン大統領は、NATOは「脳死状態」に陥っているとさえ発言した。また、トランプ大統領は自らの「ウクライナ疑惑」に関連した有利な証拠の提供をウクライナのゼレンスキー政権が提供を渋ったことに明らかに立腹して、同国への支援を一時、躊躇したとされる。

 そして極め付きは二〇二一年八月のアフガニスタンからの米軍および欧州NATO諸国の軍隊の撤退だった。

 ロシアのプーチン大統領は、米国など西側諸国の弱腰ともとれる態度、それが引き起こす混乱をじっと見ていたに違いない。そうした中で今回のウクライナ軍事侵攻に踏み切ったとみられる。

NATOは最大の試練に

 ロシアのウクライナ侵略は、ポスト冷戦時代の世界秩序を事実上崩壊させつつある。中でも欧州の安全保障体制は大変革期を迎えている。ナチス・ドイツ時代への反省からこれまでドイツにとってタブーだった、大幅な軍備増強や外国への殺傷能力のある武器提供は瞬く間に決まった。NATOに加盟せず、軍事的に中立を保ってきたスウェーデンとフィンランドでは、世論調査でNATO加盟への賛成が過半を超えた。また、ロシアに近い、または接する旧ソ連・東欧諸国では、ポーランドとバルト三国に加えてハンガリー、スロバキア、ルーマニア、ブルガリアにもNATO軍が常駐するようになった。

 ウクライナで停戦が成立した場合、欧州では新たな安全保障の枠組み作りが模索されることになるのは確実だが、現時点では見通しがつかない。「新冷戦」の時代が到来しそうだが、①ウクライナは南北朝鮮のような分断国家となるのか、②世界は欧米と中ロの対立を軸とした二極構造になるのか、③脱グローバル化の時代が始まるのか、④核戦争、第三次世界大戦の脅威は? など、少なくとも本稿執筆時点では不確定要素に満ちている。

 いずれにしても、ウクライナ危機でNATOは創設以来、最大の試練に直面している。

『NATO 冷戦からウクライナ戦争まで』目次

プロローグ
第一章 NATOの誕生、冷戦とその終結
第二章 旧ユーゴ紛争とNATO空爆
第三章 NATOのアフガン・ミッション
第四章 NATOの拡大
第五章 NATOとEU
第六章 ウクライナ戦争とNATO
[コラム]日本とNATO
エピローグ
巻末資料
NATO年表
北大西洋条約
2022年NATO戦略概念の部分訳
歴代のNATO事務総長
ヨーロッパの安全保障構造
参考文献・資料一覧

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