混迷の時代にあって存在感を増していく、総合商社を知る
記事:平凡社
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そんなことは分かっていると言われそうですが、日本は伸び悩んでいます。1990年にバブル経済が終わりを告げてから、失われた30年と呼ばれる時間を過ごしてきました。
その間、わが国の賃金はほとんど増えていません。1人当たり名目GDP(国内総生産、ドル換算)も、20年くらい前までは世界トップクラスでしたが、その後凋落を続けて、いまは30位に近いところまで沈んでいます。東京証券取引所の日経平均株価(終値)も、バブル経済の終わりの年とされる1989年末に最高値38,915円87銭を付けてからは下がり始め、現在に至るまでそのレベルに達していません。
また、企業の時価総額ランキングを見ると、わが国の上位企業の顔ぶれは、トヨタ自動車やソニー(現ソニーグループ)、NTTなどが常連です。しかし、世界の上位企業はかつての製造企業・エネルギー企業などを中心とする顔ぶれから、現在はグーグル(現アルファベット)やアマゾンに代表されるITサービス関連企業を中心とするものに入れ替わっています。世界の企業の中では、厳しい新陳代謝が起こっているのです。これら米国のITサービス関連企業の多くは、20~30年くらい前に創立された、ベンチャー企業が発展したものです。
実はここに問題がある、そう考えています。わが国では、新しくてグローバル市場に通用する大きなビジネスがほとんど出てきていないのです。そのことが、伸び悩みの根本原因なのではないでしょうか。
つまり、これから日本が社会・経済を変革して復活を目指すためには、グローバルに通用する新しい巨大なビジネスを生み出すことが必要だと思っています。そしてそこでは、個人がガレージで起業して成功するイメージが強い米国のようなパターンよりも、組織の力を使いこなしつつ個人的な力を発揮してビジネスを創造するパターンの方が、日本人に合っているはずです。
最近も、世界的に著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイが、2020年に投資した総合商社の株式を買い増したことが話題になりました。また世界的な社会・経済情勢の激変の中で、資源価格高騰や円安によって、各総合商社の業績は好調を維持しています。三菱商事の2022年度(2023年3月期)決算の連結純利益予想は、総合商社として初めて1兆円を超えました。
しかし、超有名大企業ばかりであるにもかかわらず、この総合商社という存在がなにをしているのかということについては、一般社会に十分理解されていないように見えるのです。
本書で新しい理論的な枠組みを用いて解説しますが、総合商社とは、独自の機能と巨大な組織力によって、パートナーと一体になりビジネスを創り出す企業なのです。総合商社の機能の本質は、ビジネスを創造することなのです。
この数年で、世界の社会・経済が大きく変わってしまいました。新型コロナの流行から経済再開の動きを受けて需要が拡大し供給が追いつかなくなっていたところに、2022年2月、突然始まったロシアによるウクライナ侵攻の影響があり、諸物価が急上昇しています。
ロシアに対する西側諸国の制裁やアメリカと中国との対立の激化を受けて、モノの流れにも変化が起きています。これまで安く生産できる場所を求めて世界中に広がっていたモノの生産・物流の流れが変わりました。こうしたことも物価上昇につながっています。
そして世界中がインフレ傾向となったことから、アメリカのFRB(連邦準備理事会)やECB(欧州中央銀行)などが政策金利を引き上げて、金融緩和政策を転換しました。世界的なカネ余りの時代が終わりに向かうのではないか、リアルなビジネスが生む価値が注目度を増すのではないか、そう推測しています。
このような背景の中で、グローバルにビジネスを展開する現場を持っている総合商社は、その組織力を発揮しパートナーと一体になって、ますます強力に新しいビジネスを創造していくでしょう。その働きこそが、伸び悩む日本を救い、復活に向けて起動させるために必要なのです。
こうした理解の上に立って、若者たちに、総合商社やそのグループ企業で働いたり、共にビジネスを創り出したりする場で活躍してもらいたい、そう願っています。
序章 総合商社とその魅力
第一章 総合商社の歴史といま
第二章 総合商社七社の概要
第三章 そもそも総合商社とはなんなのか
第四章 総合商社の機能の本質
第五章 これからこそ総合商社の時代
終章 若者よ、総合商社を目指せ