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賢く活用しなければ損をする「自由貿易」の最新ルール 『FTAの基礎と実践』

記事:白水社

2020年代の国際ビジネス環境の羅針盤! 『FTAの基礎と実践 賢く活用するための手引き』(白水社刊)は、FTAの意義や歴史的変遷をおさえ、市場アクセスとビジネス・ルールの両面から協定の活用方法や制度実態を解説するガイドブック。
2020年代の国際ビジネス環境の羅針盤! 『FTAの基礎と実践 賢く活用するための手引き』(白水社刊)は、FTAの意義や歴史的変遷をおさえ、市場アクセスとビジネス・ルールの両面から協定の活用方法や制度実態を解説するガイドブック。

新たなFTAの発効/拡大するFTA

 自由貿易の拡大とともに発展を遂げてきた世界経済の秩序は、近年、かつてない試練に直面している。2008年の世界金融危機の発生以来、長期の停滞が続いていた世界貿易は、米中間の貿易紛争や保護貿易主義の高まりにより、不確実性が増大していた。そして2020年、瞬く間に全世界を覆った新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は、世界貿易を混乱の渦に陥れ、パンデミックに対するグローバル経済の脆弱性を浮き彫りにした。さらに、コロナ禍における貿易制限の広がり、そして先鋭化の様相をみせる米中間の対立構造は、世界貿易の先行きの不透明性をさらに高めるリスク要因となっている。

 一方で、国際貿易をめぐる環境が未曾有の混乱に陥った2020年以降も、世界全体では、地域の枠を超えた数多くの自由貿易協定(FTA)が相次いで発効している[「自由貿易協定:FTA」は、物品貿易以外の幅広い対象分野をカバーする経済連携協定(EPA)を含めたものとしている]。2020年1月から2021年6月末までの1年半で新たに発効したFTAは48件にのぼる。北米自由貿易協定(NAFTA)の改訂版である米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA、2020年7月発効)や、EUベトナムFTA(2020年8月発効)に加え、2021年1月にはアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の運用が開始されるなど、経済的インパクトが大きく、かつ企業の関心の高いFTAが数多く始動した。

NAFTA(北米自由貿易協定:North American Free Trade Agreement)は改訂され、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定:the United States-Mexico-Canada Agreement)という新たなFTAとして発効している。
NAFTA(北米自由貿易協定:North American Free Trade Agreement)は改訂され、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定:the United States-Mexico-Canada Agreement)という新たなFTAとして発効している。

 そのなかで、近年の我が国の通商関係も着実な進展をみせている。とりわけ、2018年12月の「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」の発効、および2019年2月の「日EU経済連携協定」の発効は、我が国企業のグローバルビジネスを新たなステージに引き上げる契機となった。

 2020年11月には、「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」が日本を含む15か国で署名された。RCEPは、加盟15か国で世界全体の約3割を占める巨大経済圏を形成すると同時に、日本にとって、最大の貿易相手国である中国ならびに第3位の相手国である韓国との間での初めてのFTAの発足と位置づけられる。

 この大型FTAの発効により、日本の貿易総額に占めるFTA発効相手国との貿易額の割合は約7割まで高まることになる。つまり、これからの日本企業には、FTAを所与の条件とし、それをいかに効果的・効率的に活用するかが問われることになる。FTAを利用する企業だけが優位に立つ時代は終焉し、「賢く活用しなければ損をする」FTA成熟期の到来である。

RCEP(アールセップ)は、Regional Comprehensive Economic Partnershipの略称。東南アジア諸国連合(ASEAN)の10か国と、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの計16か国からなる世界最大級のメガFTA。「東アジア地域包括的経済連携」。
RCEP(アールセップ)は、Regional Comprehensive Economic Partnershipの略称。東南アジア諸国連合(ASEAN)の10か国と、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの計16か国からなる世界最大級のメガFTA。「東アジア地域包括的経済連携」。

 

FTAの戦略的活用

 このような環境のもと、日本企業の間では、FTAを戦略的に活用するための情報ニーズが急速に高まっている。主要貿易相手国を網羅的にカバーするFTAネットワークのなかから自社に最適なFTAをいかに把握・選択するか、相手国ごとに異なる複数のFTAをどう効果的に使い分けるか、といった経営課題に対する意欲的な取り組みといえる。

 なお、ここでの「FTAの戦略的な活用」とは、関税削減を目的としたFTA特恵税率の利用にとどまらない。FTAの多くは、関税以外の分野でも、貿易円滑化やサービス、投資など、企業のグローバル事業活動に深く関わる幅広いルールを規定している。一例として、FTAを通じ、相手国のサービス市場の参入障壁が低下すれば、国境を越えたサービス提供の競争力強化や、より有利な条件での現地サービス拠点の設置が可能になる。またFTAの存在により、締約相手国への投資の際に、現地での投資財産の保護や送金の自由、雇用義務をはじめとする要求の免除が保証される場合もある。つまり、FTAによる締約国間の約束が新たなルールをつくり、そのルールにもとづく新たな国際経済法規が整備される結果、国際ビジネスの予見性と法的安定性を高めることが可能となるのである。

 前出のCPTPPや日EU協定では、サービスや投資などの分野に加え、デジタル、知的財産、環境といった非伝統的な貿易分野においてもWTO枠外の分野における規律が先行して成立している。これらの規律は、いずれも海外事業を進めるうえで考慮すべき事項であり、これらのFTA上の規律を把握しておくことがビジネス上の利益につながる。もしくはそれらを見落とすことがビジネス上のリスクとなる可能性もある。

 また、企業がグローバル・バリューチェーン構築を考える際には、日本が締結している協定のみならず、第三国間のFTAの存在も重要である。たとえば、日本企業の主戦場である東南アジアでは、ASEAN経済共同体(AEC)の構築による域内での物品・サービス・投資・ヒト・資本の移動の自由化が進展している。さらに、ASEANを核とした域外パートナー国とのASEANプラスワンFTAネットワークが形成され、各国に進出する日本企業による活用が年々拡大している。また、前出のUSMCAや、EU・ベトナムFTA、さらには近い将来の発効が見込まれるEU・メルコスールFTAなどの大型協定でも、それぞれの締約国・地域に進出する日系企業が多いことから、原産地規則や関税率によって域内における調達先や生産地を再考すべきケースがある。さらに、協定の内容によっては、締約国間での投資・サービス分野の市場アクセスが改善されるため、従来の現地子会社への出資比率や出資ルートの見直しも検討に値する。

ASEAN(アセアン)は、Association of Southeast Asian Nationsの略称。インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジアの10か国による「東南アジア諸国連合」。
ASEAN(アセアン)は、Association of Southeast Asian Nationsの略称。インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジアの10か国による「東南アジア諸国連合」。

 

本書の構成

 上述の視点にもとづき、本書[『FTAの基礎と実践 賢く活用するための手引き』]では、日本および世界のFTAの最新のトレンドを、近年の相次ぐ大型FTAの発足も踏まえて整理するとともに、その経済効果や企業活動にもたらす影響をさまざまな視点から分析している。乱立するFTAを効果的かつ戦略的に活用する企業の視点に立ち、FTAの意義や歴史的変遷といった国際経済法上の基礎的理解を深めたうえで、市場アクセスとビジネス・ルールの両面から、協定の有効な活用方法や事例、現地における制度の運用実態を解説する。

 本書は大きく3部で構成され、導入となる第Ⅰ部(1章〜4章)では、世界と日本のFTAを概観する。まず、世界のFTAに関しては、90年代後半以降の多角的自由貿易体制を担ってきた WTOとFTAとの補完関係や、急激に変化する国際通商環境のもとでの新たなFTAの役割について考察する(第1章)。また、世界のFTAの発効状況を年代別に類型化し、近年の大きな潮流として、CPTPPやRCEPに代表される広域化や、対象分野の広範化が進展している実態を示す(第2章)。一方、日本のFTAに関しても、過去20年間のFTA戦略をレビューし、市場アクセや運用手続きの改善、ルール面でのアップグレードがどのように進展し、それが日本企業のビジネスにいかなるメリットをもたらすかを分析している(第3章)。くわえて、直近2〜3年間の数千社を対象とする大規模なアンケート結果にもとづき、日本企業のFTA活用実態や運用上の課題について明らかにしている(第4章)。

『FTAの基礎と実践 賢く活用するための手引き』(白水社)目次1
『FTAの基礎と実践 賢く活用するための手引き』(白水社)目次1

 続く第Ⅱ部では、主要なFTAのルールを読み解くとともに、FTAを通じた新たなルール形成のトレンドを解説する。まず、物品貿易の分野では、近年の主要なFTAを例に、関税削減・撤廃の方式やスケジュール、原産地規則・原産地証明手続きを重点的に解説する。あわせて税関手続きに代表される貿易円滑化措置の進展と企業活動への影響、運用上手続き上の留意点にも言及する(第5章)。サービス貿易に関しては、FTAの締約国間での約束が、WTOとの比較において、より広い対象業種、高い水準で実現している実態を示す。また日本がFTAを通じて、相手国のサービス市場の参入障壁を低下させている実例を紹介している(第6章)。投資については、企業の海外事業展開においてFTAの投資章や投資協定をどう生かすか、という視点に立ち、協定が約束する投資自由化と投資保護の意義を伝える。同時に、企業が投資受入国政府との間で抱える課題を解決する際、FTAや投資協定がどのような解決手段を提供しうるか、について具体的事案にもとづく解説を試みている(第7章)。

 さらに、近年、FTAを通じたルール形成が急速に進むデジタル貿易の分野では、電子商取引関連の規定などを中心に、FTAが設ける新たなデジタル関連の規律が、今後の国際ルールの形成や見直しを議論する土台になりつつある状況を紹介する。また、主要なFTAに盛り込まれる先進的なデジタル関連規律を比較し、それらの規律が国際ビジネスに及ぼす影響について考察している(第8章)。

 そのほか、日本企業のグローバルビジネスに大きく関わる領域として、知的財産や基準・認証、紛争解決手段なども取り上げる。主要なFTAのなかで同対象分野のルールがどのように規定され、ビジネスの予見性や透明性の確保にいかなるメリットをもたらすのか、というポイントを中心に解説している。さらには、競争や、政府調達、労働、環境といった非貿易分野においても、FTAが設ける新たな規律がビジネスに及ぼす影響を考察し、想定されるビジネス環境の変化への適切な配慮を促している(第9章)。

『FTAの基礎と実践 賢く活用するための手引き』(白水社)目次2
『FTAの基礎と実践 賢く活用するための手引き』(白水社)目次2

 第Ⅲ部では、世界の主要国・地域別のFTA戦略と動向を詳しく紹介する。アジア大洋州地域のFTAネットワークのハブとして広域FTA形成をリードするASEAN、2021年に発足した新政権の通商戦略の行方に注目が集まる米国、FTAを通じて国際ルール構築に先導的な役割を果たすことに意欲を示すEUなど、主要国・地域の動きに加え、ASEANとのプラスワンFTAを形成する中国、韓国、インド、さらには中南米、ロシア、中東、アフリカまでを網羅的にカバーしている。

『FTAの基礎と実践 賢く活用するための手引き』(白水社)目次3
『FTAの基礎と実践 賢く活用するための手引き』(白水社)目次3

 各国・地域の主要分野におけるFTA交渉のスタンスや、それぞれの国・地域が有する第三国FTAの経緯、特徴、運用上の問題点に至るまで、政策面と実務面の双方の視点から解説を試みている(第10章〜15章)。

 

【『FTAの基礎と実践 賢く活用するための手引き』(白水社)所収「はじめに」より】

 


【JETRO】海外戦略の強みに! EPA活用 ‐コスト競争力を高めるポイント‐

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