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フリーランス商社マン・小林邦宏さんが語る「なぜ僕は『ケニアのバラ』を輸入したのか?」

文:小沼理 写真:有村蓮

現地の人の悩みを聞くと、それが仕事につながる

——小林さんは「フリーランス商社マン」の肩書きで、世界中を飛び回りながらグローバルにお仕事をされていますね。

 日本にいるのは年間100日ほどで、それ以外は海外で過ごしています。2020年も、1月の前半だけでイギリス、ギリシャ、ハンガリー、スロバキア、カタールなど9カ国に行きました。2月、3月もさまざまな国に行っていますよ。

——現在の働き方に至るまでにはどんな経緯があったのでしょうか。

 東京大学を卒業して、新卒で住友商事に入社し5年間勤めたあと、28歳で起業しました。

 最初に手がけたビジネスはレジ袋の販売です。ただ、当時からレジ袋は環境に悪いと言われていたので「自分のビジネスには寿命がある」と考えていました。今あるビジネスを続けながら、常に新しい分野も開拓しないといけないと感じていたんです。

 そうして業種や地域の垣根なく、チャンスがあるところにどんどん飛び込んでいくようになりました。僕には大企業のような資金力はないけれど、フットワーク軽く動けるのが強み。「現場に行く」が僕のモットーなので、まずは現場へ行って、大企業がやらないような小さかったりきつかったりする仕事を見つけることで、今の働き方につながっていきました。

——現場に行くことをモットーとしたきっかけはありますか。

 最初に手がけたレジ袋のビジネスで、「製造業って生き物なんだ」と感じたことが大きいです。レジ袋は機械で生産していますが、機械だからといって常に良いものができるわけではありません。

 従業員の体調が悪くて品質管理に影響が出ることもありますし、最初はやる気に満ちていた取引先が「十分稼いだからそんなに頑張らずに働きたい」と変化してクオリティが下がることもある。僕がよく取り引きをしているような家族経営の小さな企業ほど、こうした影響を強く受けます。刻一刻と変わる状況を把握するために、現場に行くのが大切だと考えるようになりました。

 現場に行かないと得られない情報というのもたくさんありますよね。各国の実情をライブで知っているのは武器になるし、現地に足を運ぶと、そこで暮らす人がどんな悩みを抱えているかがよくわかります。その悩みを解決しようとするとまたビジネスにつながることも多いので、ここ5、6年は世界をまわりながら人の悩み相談をしているような日々です。

 僕は自己紹介のとき、手がけているビジネスを「レジ袋などの包装資材、プラスチック、花、魚……」といろんな業種を挙げます。人によってはうさんくさいと感じるかもしれないのですが(笑)、現場で見つけたり、その国で暮らす人の悩みを聞いたりして生まれたビジネスという意味で、僕の中では全部つながっているんですよね。

世界はネット以上のスピードで変化している

——初の著書『なぜ僕は「ケニアのバラ」を輸入したのか』では、そんな小林さんのビジネス観やこれまでの軌跡が語られています。

 花の輸入は僕が手がけている中でも代表的なビジネスです。NHKの「世界はほしいモノにあふれてる」という番組で、僕がチーフバイヤーを務めるオンラインストア「世界の花屋」が特集され、多くの人に知っていただくことになりました。

 「ケニアのバラ」との出会いは偶然でした。他の仕事のためにたまたま訪れていた農業フェアで、会場の片隅に展示されていたバラが目に留まったんです。原産国を見ると「ケニア」と書いてある。バラと言ったらオランダなどヨーロッパのイメージだったので驚きました。インターネットで調べてみて、ケニアが世界有数のバラの産地だと知りました。これは面白そうだと思い、2週間も経たないうちにすぐケニアに飛びましたね。

——知ってから実際に足を運ぶまでのフットワークが本当に軽いですよね。小林さんのその行動力は何が原動力になっているのでしょうか。

 知的好奇心ですね。自分の知らない世界を知るのが本当に好きなんです。ケニアのバラにしても、バラを栽培しているのはどんな人なんだろう、飛行機で運ぶにはどんな手順があるんだろうと、やりはじめてからは夢中でした。

 僕はこれまでに110カ国ほどを訪れていますが、好奇心のために時々は知らない国を訪れるようにしています。先日は初めてブルネイを訪れたのですが、空港を出てすぐのところに「ロイズチョコレート」とフィリピンの国民的なファストフードチェーン「ジョリビー」が並んでいました。「ジョリビーがあるということはフィリピン人が多いんだな。でも、どうしてロイズチョコレートがあるんだろう……?」。そんなことを考えはじめると、楽しくて止まらなくなります(笑)。

——空港のお店から考えはじめるのは、まさに現地に足を運ぶからこそ気付けることですね。最近はインターネットに情報があふれているので行かなくても情報を得た気になってしまいますが、そうではないんだと気付かされます。

 たしかにネット上には情報があふれていますが、古いものも多いと感じます。世界はネット以上のスピードで動き、変化し続けていますから。

 ネットが普及すればするほどみんなその情報を頼りにするので、現地に行かない人が増えますよね。そうすると、結果的に現地の情報を持っている僕のような人の価値が高まります。「SNSでどんな情報でも手に入る」と言う人もいますが、全然そんなことはないんです。

実現まで3年かけた「ケニアのバラ」プロジェクト

——「ケニアのバラ」に話を戻すと、理想の生産者を見つけるまでに30以上のバラ農園に足を運んだとか。最終的には首都ナイロビから片道4時間かかるンジョロという街にあるソジャンミ農園との取り引きを決めます。本を読みながら、小林さん自身の飽くなき探究心に驚かされました。

 ヨーロッパではケニアのバラといえば、大輪かつ一つの花に複数の色が混ざった複色のバラが主流なのですが、それまでの日本では小さくて値段が安いものばかりでした。日本に「ケニアのバラといえば、大輪で複色」という価値観を根づかせ、新たな市場を作ることが当時の僕のミッションだと感じていたので、その挑戦のパートナーになる仕入れ先は時間をかけて選びました。

 日本まで48時間かかる長時間輸送に耐えられるバラを作るため、農園のスタッフとも何度もやりとりを重ねましたね。はじめてアプローチをしてから、実際にビジネスとして形にするまでには3年かかりました。

——農園スタッフをはじめ、人とのやりとりをとても大切にされています。世界中の人とビジネスの場で接するときに、意識していることはありますか。

 相手をリスペクトすることです。「我慢強く接する」と言い換えることもできるかもしれません。1を言われて10を察する能力は、日本人はとても優れていると感じます。ただ、他の国では10伝えても1しかやってもらえないこともある。それを学習能力ややる気が足りないとみるか、進歩だとみるかは人それぞれだと思いますが、僕は極力進歩だとみなしたい。相手と目線の高さを合わせ、「今回はこれができたね、次はこれにチャレンジしてみよう」と伝えながら取り組むことで、良好なビジネスができるのではないかと思います。

自分の価値観を壊し、まずは飛び出してみよう

——書籍の反響などがあれば教えてください。

 テレビやラジオなどに出演させていただくことも多いのですが、書籍を読んだ方からの反響が一番熱がこもっていますね。幅広い層から、書籍の感想などのメッセージをいただくことも多いです。

 この本は「世界で活躍したいと思っている人にエールを送りたい」という気持ちで執筆しました。実際、世界を舞台に働きたい人は多いと思いますが、皆さんどんなふうに行動していいかわからず迷っているのだと思います。

 そうした人に僕がよくアドバイスするのが、「とりあえず海外に出てみたら?」ということ。無責任に感じるかもしれませんが、多くの人が考えるほど難しいことではないと思っています。僕の経験からいっても、現地に行けば見えてくるものがたくさんあるし、海外には日本よりも、頑張っている人を見捨てないカルチャーがあると感じます。

——社会に出てしばらく働いている世代だと、「このままでいいのかな」と思う一方で仕事に慣れてスムーズに働けるようにもなり、その狭間で悶々としている人が多いように思います。

 それでも遅くないんじゃないでしょうか。僕も起業したのは28歳の時ですし、人生は一度きりだからチャレンジしたほうがいいと思います。

 起業してからは僕も日々、倒産するんじゃないかという恐怖を抱えています。ただ、どうせ恐怖があるならチャレンジすべきだと感じています。躊躇するなら行動した方が、自分自身納得できるからです。

 世界で働きたいと考えている皆さんには「あなたが持っている価値観を壊してみてください」と伝えたいです。もちろん、今の社会で築いた地位や生活が大切で、失いたくないと思うなら飛び込まないほうがいいでしょう。でも、新しい世界やチャンスは既存の価値観の延長線上にはないと僕は思っています。

 僕の会社のスタッフにもよく話すのですが、曲がり角の手前にいたら正面しか見えません。でも、そこから一歩踏み出せば新しい道が見える。勇気を出せば、それに見合った価値が得られるはずです。