なぜ、あなたの職場で自閉症のある人を雇用すべきなのか?
記事:明石書店
記事:明石書店
平成17年(2005年)に、発達障害者支援法が施行されてSLD(限局性学習症)、ADHD(注意欠如多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)の理解が進み、学校教育においては個別の指導計画・支援計画の作成、校内委員会の設置、特別支援教育コーディネーターの配置など改革が進みました。しかしながら、就労においては、就労支援者の理解は進んだものの、企業側に十分に浸透しているとは言えない現状です。
また、「発達障害」といってもSLD、ADHD、ASDの特性は異なる側面があり、ひとくくりにすべきではありません。なぜなら、発達障害の人の離職理由として表1のような内容が示されていることからもうかがえます。
表1から、対人関係の問題が多いことがわかります。職業リハビリテーションの用語にハードスキルとソフトスキルという能力がありますが、ハ-ドスキルというのは仕事そのものの能力のことを示し、具体的には「外国語の能力」「学歴や資格の取得」「ワープロのタイピングのスピード」「機械操作」「コンピューターのプログラミング」などが該当します。
一方で、ソフトスキルとは、数量化するのは困難なスキルであり、一般に「People Skills」として知られています。たとえば、「遅刻をせずに職場に行く」「身だしなみを整える」「職場のルールやマナーを守る」「適切に昼休みの余暇を過ごせる」「金銭管理ができる」「適切な対人関係ができる」などの仕事そのものではないものの、職業生活に影響を与える「職業生活遂行能力」とでもいえるものでしょう。
実は、発達障害の人たちは、このようなソフトスキルに困難性を示すことが多いのです。身だしなみでは、「職場に合った服装ではない」「髪の毛が伸びている」「お風呂に入らないため体臭がする」「髭剃りや爪切りができていない」、時間管理では、「遅刻をする」「昼休みに1時までに戻ってこない」、余暇では、「昼食時間に奇妙な行動をする」「仕事が終わった後や土・日に適切な過ごし方ができていない」、日常的な家事労働においても「炊事、洗濯、掃除、買い物ができない」、とりわけ対人関係では、「挨拶、お礼、ミスをした際の報告ができない」、さらに金銭管理においては、「無駄遣いをする」「サラ金で借金をする」「高額な物を無計画に購入する」などが報告されています。
さらに、発達障害者を雇用した企業は後にどのような問題が生じたかについて質問したところ、表2のような内容となっています。
表2には、SLDの特性である「読み、書き、計算ができない」とかADHDの特性である「多動、衝動性がある」などの問題はなく、ほぼASD(自閉スペクトラム症)の特性となっていることがわかります。
つまり、発達障害といって就労において困難性を示すのはASD(自閉スペクトラム症)なのです。
そのASDの発症率について、米国のCDC(Centers for Disease Control and Prevention)が1972年出した報告書によると10,000人に4人~5人の割合だとのことでしたが、2002年には150人に1人、2006年には110人に1人、2008年には88人に1人、2010年には 68人に1人と増加傾向にあり、2018 年の報告では44人に1人の割合となりました。これは、10,000人に換算すると227人となり、1972年から比較すると何と約50倍に増加しています。
また、Shattuck博士(2015)の研究報告によると、通常の高校卒業したASD者の3分の2が卒業後2年間は仕事に就けておらず、20代になってもASD者の就職率は58%となっており、知的障害者が74%、言語障害と情緒障害が91%、SLD者が95%であるのに比べ、極めて低いことが示されています。
その原因は、やはり「職場における人とのかかわり」が難しいこと、実行機能といわれる先の見通しを立てる、優先順位を付けるといった「仕事の遂行力」に限界があること、そして視覚刺激や聴覚刺激、嗅覚刺激などに過敏に反応してしまう「感覚の問題」などがあげられます。
本書では、このような就労上の困難性を示しているものの、一方で「能力の未開な貯水池」と呼ばれる素晴らしい才能を持っているASD者を雇用するメリットについて、企業主およびASD者とともに働く同僚上司の人たちにも理解しやすい合理的配慮の方法がふんだんに示されています。
ASD生徒の進路指導をされている学校の先生、ハローワークや就労支援機関で障害者の就労支援をされているジョブコーチや障害者職業カウンセラー、そしてASD者を受け入れる企業側にとってASD者を雇用するマネージメントとして有効なマニュアルとなるものと考えます。
本書によって働きたいという意識があり、また働ける能力のあるASD者が適切な職務に就いて、企業の戦力になることを強く願っています。