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山のリスクとどう向き合うか 山岳遭難の「今」と対処の仕方

記事:平凡社

東日本大震災以降に、登山のあり方はどう変わり、なぜ山の遭難が増えたのかを検証しつつ、身の安全をどう確保すればいいかを考える。(著者撮影)
東日本大震災以降に、登山のあり方はどう変わり、なぜ山の遭難が増えたのかを検証しつつ、身の安全をどう確保すればいいかを考える。(著者撮影)

1月13日刊行、平凡社新書『山のリスクとどう向き合うか 山岳遭難の「今」と対処の仕方』(羽根田治著)
1月13日刊行、平凡社新書『山のリスクとどう向き合うか 山岳遭難の「今」と対処の仕方』(羽根田治著)

決して、「自分には起こりえない他人事」ではない

 本書では、前書の刊行以降に起きたおもな遭難事故を振り返るとともに、ここ10年ほどの登山事情について検証している。その間には東日本大震災、そして新型コロナウイルスの感染拡大という、我々の生活を根底から覆す大きな厄災があった。御嶽山の噴火でも、自然災害の脅威をまざまざと見せつけられた。そういう意味では、この10年というのは、登山者および山岳界にも大きな影響を及ぼした災禍の連続であったように思う。

 また、山岳遭難事故だけにフォーカスしてみれば、2012年GWの北アルプスでの連続気象遭難や、2017年の那須岳雪崩事故など、いくつかの記憶に残る事故が起きたが、世間を賑わすような大規模な遭難事故は、以前と比べるとだいぶ減ってきている印象がある。逆に目に付くようになっているのが、疲労や体調不良、病気などを要因とする、軽微な(といっては語弊があるかもしれないが)遭難である。

 たとえば、長野県警山岳安全対策課がまとめたデータによると、過去10年間の全遭難者数に占める無事救出者の割合は、2012年の25パーセントから年々増え続け、2021年には40パーセントにまで増加している。ここでいう「無事救出者」とは、ケガもなく救助された遭難者のことを指し、おもな要因としては道迷い、疲労、体調不良、装備不足(アイゼンやヘッドランプなどを持っておらず行動不能となる)、技量不足(急峻な岩場などを、怖くて下りられなくなる)などを挙げている。

著者撮影
著者撮影

 このような傾向について、同課は「“無事救助”といえば聞こえはいいかもしれないが、もうちょっとしっかり準備や下調べなどをしていれば、遭難せずにすんだのではないか、と感じる事例が少なくない」と評す。

 たしかに昨今報じられる遭難事故のニュースは、「なんでそんなことで遭難してしまうの?」と感じるものも少なくない。とくにコロナ禍となってからは、軽微な遭難が急増しているように感じる。そしてこのタイプの遭難者に共通しているのは、「登山に対する“認識の甘さ”があること」だと、山岳安全対策課は指摘する。

 本文でも述べたし、ほかの媒体でも何度か触れてきたが、登山というのは体に非常に大きな負荷のかかる、常に危険と背中合わせの行為である。同課もこう注意喚起をしている。「登山はただのアウトドアレジャーではない。スポーツであり、リスクを伴う冒険である。その意識を持って、臨んでもらいたい」と。

 山の遭難事故を、「自分には起こりえない他人事」と思い込んでいる人の意識を変えるのは、なかなか難しい。しかし、少しずつでも変えていかないと、事故はこれからも増え続けていくだろう。登山がレジャーの延長線上にあるものと思っている人に、どのようにして「登山=リスクを伴う冒険」だという意識を持ってもらうか、行政やメディアだけではなく、登山者ひとりひとりが考えていかなければならない、今の時代の大きな課題である。

『山のリスクとどう向き合うか』目次

はじめに
第1章 2010年以降に起きたおもな遭難事故
第2章 自然災害と山登り
第3章 進化する遭難対策
第4章 登山の自己責任について
第5章 コロナ禍で登山が変わった
あとがき

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