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3次元の間取り図がすごい! 登山前の必読書「それいけ避難小屋」

文:五月女菜穂、写真:有村蓮

避難用、宿泊用など避難小屋の目的はさまざま

 いびきが気になる人が使う別室「ひびき(いびき)の間」がある小屋、自転車をこいで汚物を攪拌するバイオトイレがある小屋、コンクリート打ちっ放しの壁、ソーラー発電の照明、ドアノブがないトイレ、かまどのある台所、天窓・ロフト付きの小屋……。

 『それいけ避難小屋』(山と渓谷社)では、イラストレーターで登山ガイドの橋尾歌子さんが、2013年8月から2018年6月まで、実際に訪ね歩いた51軒の個性豊かな「避難小屋」を紹介しています。

橋尾さんが最も思い出に残っているという越後駒ヶ岳の「駒の小屋」(『それいけ避難小屋』より)
橋尾さんが最も思い出に残っているという越後駒ヶ岳の「駒の小屋」(『それいけ避難小屋』より)

 避難小屋とは、全国にある山岳地帯に設置された一般に開放された山小屋の一つ。一部を除き、人のあまり来ないような、山深いところに建っています。建てた目的は、その小屋によって違います。緊急避難用に建てた文字通り避難用のもの、登山をする上で宿泊の便宜を図るために建てたもの。個人が勝手に建てたものもあれば、自治体が建てたものもあるそうです。

 多くの小屋は基本的には無人ですが、中には、繁忙期に管理人が常駐していて、食事の提供を受けることができる小屋もあります。大きな小屋では寝具やストーブなどもありますが、小さな小屋は何もありません。

「避難小屋に行ったことはあったのですが、泊まったことはなかったんです。雑誌の取材で、葛根田川を遡行し、その後で稜線に出て、秋田県と岩手県の県境にある、避難小屋の八瀬森山荘に初めて泊まりました。東北の沢の美しさや、たおやかな山脈に魅せられた充実した山行でした。

 小屋にあったノートに書かれていることを読んで、ここから先に進んだ人はどうしているだろうか? と、先人たちの残した気配のようなものを感じることができて。無人の小屋なのに、小屋の中が整理整頓されているのも驚きでした。小屋ごとにそこを管理している人の労力と情熱があるのだなと思って。それをまとめたら面白いかなと思ったのがきっかけです」

 この本の特徴は、各避難小屋の内部の見えない部分までを3次元的にカラーイラストで描いていること。もともとは雑誌の連載のために描いたイラストですが、間取りを立体的に描いているので、最初のうちは1枚のイラストを描き上げるのに1カ月近くも時間がかかってしまったそう。避難小屋滞在中に撮った写真をもとに、何度も下描きを重ねたと言います。

 「日帰りで軽いハイキングをしたり、岩登りや沢登り、岩綾登攀や藪山歩きをしたりと、登山には様々なスタイルがあります。この本をきっかけに、避難小屋に泊まってみるのもいいですし、こんな避難小屋があるんだということを知っていただけたら嬉しいです」

橋尾さんによるイラストの原画
橋尾さんによるイラストの原画

気づけば登山が生活の一部に

 橋尾さんは中学生の頃、ヨーロッパ三大北壁の登攀や、日本人初の冬季エベレスト登頂に成功した登山家の加藤保男さん(1949-1982)のことを知り、漠然と登山をしてみたいと思っていました。

 「私が生まれ、高校生まで育ったのは、兵庫県の加西市というところで、駅はなく、当時は車にも乗れないし、自転車で動けるところが全世界でした。登山をしたくても実際にどう始めたら良いか分からなかった。美大の受験に失敗し、東京の予備校に通っている時、講師の一人が奥武蔵の伊豆ヶ岳に連れていってくれました。低山ですが鎖場のある楽しい山でした」

 大学で山岳部に入り、本格的な登山を始めます。

 「山岳部の活動はやっていて楽しかったのですが、一方で絵描きになろうとも思っていました。このまま山にはまってしまったら、絵が描けなくなると思って、一時期活動をやめたこともあります。でも、気がつけばまた山に登り始めていて、今はもう生活の一部になっていますね。

 クライミングでも、沢登りでも、歩きでも、山は楽しいです。綺麗な景色が見えると感動します。もちろん急な天候の変化に怖い思いをしたこともあるし、クライミングで失敗して顔面骨骨折という大怪我をしたこともあります。けれど、その時もまた山に行きたいと思ったし、周りの仲間が支えてくれたおかげで、今も山に登っています」

充実した山行の思い出になった「駒の小屋」

 本の中で紹介されている避難小屋で、特に思い出に残る小屋を聞きました。すると、橋尾さんは「そこに至るまでにどれほど充実した山行が出来たか、仲間や家族と楽しい時間を過ごせたか、ということに大きく左右されることが多いので、主観的になってしまうけれど」と前置きした上で、今一番印象に残っている小屋として、越後駒ヶ岳(2003m)の「駒の小屋」を挙げてくれました。

 「ここに到着するまでに、金山沢奥壁の第4スラブを登攀し、そこから縦走して小屋に到着しました。この金山沢奥壁には10年ほど前から登りたかったのですが、機会がなく、やっと登ることができて。久しぶりのスケールの大きな充実した山行の際に、この小屋に泊まることができました。当初まる予定ではなかったけれど、小屋の中は快適でぐっすり眠り、休養することができました。そんな訳で、今一番印象に残っています」

 最後にこれから登山を始める人へのアドバイスを聞きました。

 「最初はどうやって始めたら良いのだろうかと迷うと思います。雑誌や本を見て、行きたいなと思ったら、とにかくよく調べるといいですよ。装備は最初はお金がかかりますが、一般的なものを揃えていきましょう。それから、ルートや体力面で無理はしないこと。よく調べすぎると怖くなって山に行けなくなるので、知っている人に聞くこともいいことです。いい仲間ができると、より登山が楽しくなりますよ」

【避難小屋に泊まるためのマナー&ルール】

  • 地域や山域で使用条件が違うので下調べをすること
  • 食糧、寝具は用意されていないのが普通なので持って行きましょう
  • 協力金などは指定の場所にお金を入れましょう
  • 火の取り扱いに注意しましょう
  • トイレの使用方法を守りましょう。トイレがない場合は携帯トイレを使いましょう
  • 他の利用者と譲り合いながら、利用しましょう
  • 消灯時間は特にありませんが、常識の範囲内で行動しましょう
  • 後片付けと清掃は義務です。余った食料は持ち帰りましょう