磯野波平54歳の衝撃――『還暦後の40年 データで読み解く、ほんとうの「これから」』
記事:平凡社
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人生100年時代と言われる中、高齢化社会の不安に関する情報が雑誌、書籍、ネット情報、政府の白書などに溢れている。テレビショッピングや新聞広告は高齢者向けサプリが多くなった。ニュースでは老人の起こす交通事故が問題視され、一人暮らし老人が孤独死して何日も発見されなかったと嘆いている。
でも、何かが違う気がしていた。
自分の周囲には元気で活躍する90歳代の人が増えている。二人にひとりはがんになると聞くが、がんで亡くなる人は身近では多くない。認知症患者は急増して1000万人を超えると白書は書いたが、それから10年近く経っても徘徊老人が増えたとは聞かない。何より、喪中欠礼はがきに記載されている享年が上がり続けていて90代は珍しくなくなった。
そんな実感を裏付けることはできないだろうか。
そう考えて本書を作成していた2022年夏、ある月曜日のTwitterトレンドに「波平54歳」が突如出現した。前日のサザエさんで波平の年齢が明らかになったらしい。ネットの反応は素早い。波平と福山雅治さん(その時点で53歳)やB’zの稲葉浩志さん(同57歳)の画像を並べた投稿が相次いだ。
それを見て、ああ、日本人は長生きになっただけでなく、若返っているのだ、間違いないと確信した。そして、そのことを私たち誰もが実は知っている。それを整理して見せてくれる人がいないだけだ。自分がやろうとしているのはそれかもしれない。
『還暦後の40年』では、そのような思いを頭の片隅に置きながら、一方では可能な限り客観的に日本人の長寿の実態をデータで読み解こうとした。
本書では60歳人口が半減する年齢に着目した。60歳の同い年の人たちの半分が亡くなる年齢、逆に言えば60歳に達した人の半数が到達する年齢である。「還暦者死亡年齢中央値」とでも呼ぶべき指標だが、ここでは、簡単に「H60」と呼ぶ。つまり、H60が80歳なら、還暦の人の半数が80歳を無事に迎えることができるということだ。このH60の長期的な動向を、生命表の時系列分析で見ることができる。それをグラフにしたのが、次の2図だ。
見れば明らかなように、60歳に到達した人数が半減する年齢は、図1の女性のH60は、1947年の76歳から2020年の91歳まで、直線的に伸びてきている。図2の男性のH60も、1947年の73歳から2020年の86歳まで、これも5~6年で1歳ずつ上昇していて、その上昇率も直線的だ。
これは、じつに驚くべきことだ。H60は、年齢を表す指標なので、無限に単調に増えていくことはありえない。そもそも、その動向を直線で近似することも、本来は正しくない。しかし、昭和22年から令和2年までのデータはきれいに直線上に乗ってしまう。しかも、近似直線との適合度合いを表す相関係数が男性0.985、女性0.988ときわめて高い。いずれは減速するにせよ、当面はこの上昇傾向が継続すると思われる。
「人生100年時代」は始まっており、いま還暦の世代は、男女とも半数が90歳を超えて生きる可能性がきわめて高いことが、以上の推計から示唆されている。
これからの還暦後は、体力も知力もそんなに衰えないだろうこともデータで確認した。まだまだやりたいことがやれる時間が30年ある。
(文=長澤光太郎)
イントロダクション
はじめに
第一部 還暦後を読み解く七つの視点
疑問(1) 私たちは平均寿命でこの世を去るのか?
疑問(2) 2人に1人はがんになるのか?
疑問(3) 健康寿命を過ぎたら寝たきりの生活が待っているのか?
疑問(4) 身体は衰える一方なのか?
疑問(5) 身体の不調を抱えながら生きていくのか?
疑問(6) 5人に1人が認知症になるのか?
疑問(7) 知能がどんどん衰えてしまうのではないか?
第一部のまとめ 健康長寿の条件
第二部 「還暦後」への新たな視点
1 60歳からの30年を健康面から展望してみる
2 新しい世界への切替えができるか
3 90年の人生を30年で区分してみる
4 今後の30年間で気になるいくつかの事柄
つながり
時間(の使い方)
お金
住まい
COLUMN 還暦世代がこれから目撃すること
おわりに
図表出典
参考文献