まだまだ謎多き病態 ーサイトカインストーム症候群
記事:朝倉書店
記事:朝倉書店
Cron先生、Behrens先生は、世界の専門家らとともに、一次性および二次性血球貪食性リンパ組織球症(HLH)双方の背景にあるサイトカインストーム症候群(CSS)の最新知見を詳細にまとめ、このオリジナルテキスト“Cytokine Storm Syndrome”を出版された。
最新の知見を記した各章はPart I:歴史的な背景、臨床症状、検査所見の特徴、診断基準、現行の分類、Part II、 III、 VII:病態生理(遺伝、免疫、マウスモデル)、Part IV、 V、 VI:異なる潜在的な誘発因子(感染症、リウマチ性疾患、その他)、PartVIII:治療と8 章にまとめられ、極めて完成度が高く、初めから終わりまで読み切ったときの感激は格別であった。
この良書をもっと多くの日本の臨床家にも読んでいただきたいと考え、若手の意欲ある小児リウマチ医の皆さんとともにぜひ知識を共有したいと思い立ち、翻訳本作製を手掛けることとなった。
そして、今回単なる翻訳本にとどまらず、世界を席巻したCOVID-19に関する新しい章(「COVID-19感染症に関連したサイトカインストーム症候群」、「COVID-19小児関連多系統炎症性症候群(MIS-C)」)を巻末に独自に執筆いただき、本邦特有の内容を含めることができた。
CSSは、異なる誘因に対する宿主の異常な免疫反応により、サイトカイン産生経路が活性化し、稽留熱、肝脾腫、凝固異常を伴う進行性肝不全、血球減少、高フェリチン血症、さらにはしばしば中枢神経障害といった重篤な臨床像を呈する症候群である。もしこれら臨床症状の変化を見いだせず、適切な治療が即座に開始されなければ、急速に多臓器不全に進行し、さらには致死的となる。感染症は最も頻度の高い原因であるが、その他悪性疾患、リウマチ性疾患、造血幹細胞移植の治療経過中の移植片対宿主病や免疫治療薬投与により誘導された医原性のものも存在し、原因は多岐にわたる。
1990年代前半のサイトカインリリース症候群やそれに引き続くCSSの報告、そして家族性血球貪食性リンパ組織球症の乳幼児に認められたT細胞あるいはNK細胞の細胞傷害に関連した多くの遺伝子異常の発見以来、CSSの病因の解明が日々進んでいる。代謝産物の蓄積、構造的な異常、インフラマソームの調節障害によるマクロファージの活性化、リンパ球のシグナル伝達、分化、機能異常によるウイルス感染症の制御不全、インターフェロン経路の異常、オートファジー異常などについても過剰な炎症病態を惹起する原因となることが明らかになってきている。また二次性HLHに分類されるものの中には、重症複合免疫不全症、複合免疫不全症、自己免疫性リンパ増殖症候群などの原発性免疫不全症、ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症、リシン尿性蛋白不耐症などの遺伝性代謝疾患など、すでに証明された遺伝子異常を持つ症例も含まれる。このように、まだまだ謎多き病態なのである。
絶え間なき科学および医学の進歩により、この病態の複雑なからくりが解明されて、それほど遠くない未来で、CSSを治療するために真に個別化された医療アプローチが患者さんに適切に提供されることを心から願っている。この翻訳本が、そのための一助になれば幸いである。
“知識の始まりは、私たちが理解していない何かの発見である。” ~フランク・ハーバート
(監訳者の序より)