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戦国大名論の到達点! 黒田基樹『増補 戦国大名――政策・統治・戦争』(平凡社ライブラリー)

記事:平凡社

伊達政宗甲冑像(狩野探幽筆、仙台市博物館蔵)
伊達政宗甲冑像(狩野探幽筆、仙台市博物館蔵)

2023年4月10日刊、平凡社ライブラリー『増補 戦国大名 政策・統治・戦争』(黒田基樹著)
2023年4月10日刊、平凡社ライブラリー『増補 戦国大名 政策・統治・戦争』(黒田基樹著)

 日本史好きのみなさんは、「戦国大名といえば?」という質問に対して、どんな人物を思い浮かべるでしょうか? 最近始まったNHK大河ドラマに関連して、徳川家康が挙がるでしょうか。あるいは武田信玄や上杉謙信、今川義元、北条早雲などなど……、戦国時代に活躍した有名な大名たちの名前がすぐに頭に浮かんでくることでしょう。では、「戦国大名って何?」と聞かれたら、どうでしょうか? 「戦国大名とは、〇○である!」と答えることはなかなかに難しいのではないでしょうか。

 本書『増補 戦国大名』は、1980年代以降、質・量ともに急速に進展した研究の成果を取り入れ、新しい戦国大名像を示す概説書として、2014年に平凡社新書として刊行されたものに、著者が論を展開するための前提となる2つの論文を増補した、現代における戦国大名論の決定版といえる1冊です。

 「戦国大名とは何か」という問いに対して、本書では、「領国を支配する「家」権力」であるとし、

「戦国大名」はある特定の個人を指すような概念ではない。一般的には、戦国大名家の当主をそのまま「戦国大名」と考えがちになるが、理屈からいうと決してそうではない。大名家当主は、「家」権力の統括者という立場であり、権力体としての「戦国大名」は、大名家当主を頂点に、その家族、家臣などの構成員を含めた組織であり、いわば経営体ととらえるのが適当である

と、個人ではなく総体として成立するものであるとまとめています。

 こうした戦国大名の権力構造については、権力基盤としての家臣団と支配基盤としての村から成り立つものとして、今川氏や武田氏、北条氏が残した具体的な記録のみられる史料を挙げながら、家臣団のあり方や村を支配するための手段としての税制にかんして概説しています。

 また、領国を支配する存在という点から、一個の自立的な国家としての性格をもつものであるとし、領国全体を統治するための行政機構や「平和」確立のための戦争の特徴、内外の流通・交通に対する政策を紹介するほか、領国の周縁部に存在する戦国大名よりも小規模で独立的な領国支配を展開する国衆との関係についても取り上げています。

 さらに、新しい戦国大名論として注目すべきこととして、従来の戦国大名論で評価され続けてきた「信長・秀吉の先進性」を見直し、信長や秀吉によって始められたものとして、中世と近世を分けるキーワードとなっていた「太閤検地」「石高制」「兵農分離」「楽市・楽座」などの諸政策が、すでに戦国大名らによって実施されていたことを指摘していることが挙げられます。加えて、江戸時代における近世大名との関係についても、信長・秀吉時代との分断と同様に見直しをはかり、性格の共通点と相違点を指摘しながら、さらには現代社会にもつながる視点を挙げています。こうした点については、各章の随所で言及されていますので、興味を持たれた方々には、ぜひご一読いただければ幸いです。

文=進藤倫太郎(平凡社編集部)

『増補 戦国大名 政策・統治・戦争』目次

序章 戦国大名の概念
第一章 戦国大名の家臣団構造
第二章 戦国大名の税制
第三章 戦国大名の流通政策
第四章 戦国大名の行政機構
第五章 戦国大名と国衆
第六章 戦国大名の戦争
終章 戦国大名から近世大名へ
増補 戦国大名論をより詳しく理解するために
  増補一 戦国大名の民衆動員
  増補二 戦国時代の侍と百姓

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