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「変動する大学入試」書評 思い込み改革の失敗防ぐために

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2020年11月14日
変動する大学入試 資格か選抜かヨーロッパと日本 著者:伊藤 実歩子 出版社:大修館書店 ジャンル:教育・学習参考書

ISBN: 9784469222722
発売⽇: 2020/08/25
サイズ: 22cm/278p

ヨーロッパ各国の入試制度の特徴や課題を詳らかにし、かつ日本とも比較することをとおして、これからの入試のあり方を考察する。コロナ流行下における各国の入試動向も取り上げるほか…

変動する大学入試 資格か選抜かヨーロッパと日本 [著]伊藤実歩子

 いま自分が生きている社会のあり方を、人は自明視しがちだ。それは現状を変えられない状態を生み出したり、あるいは逆に思い込みだけにもとづいた改革が導入されて失敗したりもする。それらを防ぐためには、他の社会について知ることが常に役立つ。
 そして本書のテーマは「大学入試」である。周知のように、日本の共通テストにおける記述式問題と英語外部試験の導入は、あまりに杜撰(ずさん)な制度設計により、いずれも頓挫した。その背後で、相変わらず「1点刻み」の一般入試と、多様な基準を用いる推薦入試やAO入試が並立している。本書で詳述される、ヨーロッパ8カ国の大学入試のあり方は、そうした日本の状況とは大きく異なる。
 編者は彼我の違いを、「大学が学生を選ぶ」日本と、「学生が大学を選ぶ」欧州、という形で集約している。それは、「入学」試験か、「卒業」資格か、という違いでもある。フランスのバカロレア、ドイツのアビトゥアなど欧州の試験は、主に中等教育の修了を確認するためのものである。そのため、実施や採点を中等教育の教員が担う場合が多い。
 また、試験自体が教育の一環としての意味をもち、多くの国では口述試験が実施される。しかし現場任せではなく、作問や採点に関する細かい基準や点検により、信頼性が担保されている。中等教育の職業コースや社会人に高等教育機会を開く工夫もなされている。
 ただしどの国も、大学進学率上昇の中で、大学側が行う選抜の部分的導入や「コンピテンス」(活用や処理の能力)の重視など、苦しみながら改革を試みており、いくつかの国では生徒たちの大規模な反対運動も引き起こしている。
 教育機会の拡大、不平等の克服、適正な水準の確保、さらにはコロナ禍という山積する難題に、どの国も直面している。日本の「改革」がいかにも卑小に見えたとすれば、本書から多くを学べたことになるだろう。
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いとう・みほこ 1974年生まれ。立教大教授(教育方法学、カリキュラム論)。『戦間期オーストリアの学校改革』など。