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アフリカの語り部たちの声を世界の子どもたちへ――ネルソン・マンデラが手がけたアフリカ民話集『マディバ・マジック』

記事:平凡社

『マディバ・マジック』の編者、ノーベル平和賞受賞者で第8代南アフリカ共和国大統領のネルソン・マンデラ氏(1918-2013)
『マディバ・マジック』の編者、ノーベル平和賞受賞者で第8代南アフリカ共和国大統領のネルソン・マンデラ氏(1918-2013)

アフリカと世界の子どもたちへ、マディバより愛を込めて

『マディバ・マジック――ネルソン・マンデラが選んだ 子どもたちのためのアフリカ民話』(ネルソン・マンデラ編、和爾桃子訳、平凡社刊)
『マディバ・マジック――ネルソン・マンデラが選んだ 子どもたちのためのアフリカ民話』(ネルソン・マンデラ編、和爾桃子訳、平凡社刊)

思わないよね 思わないよね
これから始まるお話を 本当だとは思わないよね

 これはアシャンティ人の語り部たちが最初に唱える決まり文句ですが、本書のような民話集のご紹介にはふさわしいかもしれません。何世紀もかけてずいぶん変わってしまったお話が、この本にはとてもたくさんあるのですから。人から人へ、民族から民族へと伝わるうちにいろんな尾ひれがついたり、一部が欠けてしまう場合もありました。

 だって、お話はお話です。想像をふくらませて語ってもいいし、語り手の生い立ちや環境に沿って語ってもいい。お話にさらに翼が生えたり、他の人がなにかをつけ足したりしても止めだてはできません。そうしていつかお話が戻ってきてみれば、見知らぬ人々の声で飾られていることでしょう。アシャンティの語り部たちがお話をしめくくる決まり文句は、そうした昔話ならではの特徴をうまく言い表しています。

今のはわたしが語ったわたしのお話、すてきであろうとなかろうと。よそへ行ってしまうのも、また戻ってくるのもありだよ

「約束は約束よ、母さん。だからちゃんとわたしをヘビさんにあげなくては」と、片手を出して灰緑色の頭をなでた。 西アフリカ、ズールーランドのお話「ヘビの族長」より(p.40) 絵/ババ・アフリカ
「約束は約束よ、母さん。だからちゃんとわたしをヘビさんにあげなくては」と、片手を出して灰緑色の頭をなでた。 西アフリカ、ズールーランドのお話「ヘビの族長」より(p.40) 絵/ババ・アフリカ

 この本では、うんと遠くまで何百年も旅してきたアフリカ最古のお話たちが新しい語りをまとって、世界の子どもたちにお目見えすることになりました。豊かで不屈なアフリカ魂を備えていながら世界に通用する要素の多い、人々や動物たちや怪物たちのお話の定番をいくつかお目にかけようと思っています。

「ちゃんと見てよ、このマディペツァーネを。とても小柄で弱いけど、あたしはあいつより賢いんだからね」と口答えする。 レソトのお話「マディペツァーネ」より(p.71) 絵/リン・ギルバート
「ちゃんと見てよ、このマディペツァーネを。とても小柄で弱いけど、あたしはあいつより賢いんだからね」と口答えする。 レソトのお話「マディペツァーネ」より(p.71) 絵/リン・ギルバート

 アフリカ民話お得意のテーマを本書で再発見する子も、初めて触れる子もいそうですね。悪知恵にたけた生き物は、はるかに強い敵を片っぱしからだますんですよ。ズールー人やコサ人のウラカニヤナですとか、ヴェンダ人のサンクハンビもそうです。ウサギは小ずるくて悪いやつだし、ずる賢いジャッカルはいたずら者の役回りがほとんどです。負け犬役はハイエナ(オオカミと組むこともあります)、動物たちにプレゼントを配るのは王さまライオン。ヘビはこわいですが癒しも司り、水の力と結びつくことも多い。魔法の呪文は死や解放をもたらし、人々や動物が変身するお話や、大人や子どもに怖がられる恐ろしい人食いの話もあります。

姫がその羽でウサギに触れたとたん、どこの王子かというほどの美青年に変身し、その場で姫に結婚を申し込んだんだよ。 エスワティニのお話「雲間の姫」より(p.154) 絵/ピート・グロブラー
姫がその羽でウサギに触れたとたん、どこの王子かというほどの美青年に変身し、その場で姫に結婚を申し込んだんだよ。 エスワティニのお話「雲間の姫」より(p.154) 絵/ピート・グロブラー

 そういった古くからの宝物である定番のお話に加えて、南アフリカやアフリカ大陸各地の新しいお話も本書に足しておきました。

 この一冊でアフリカの語り部の声を未来へ引き継ぐとともに、世界の子どもたちがすばらしい読書体験を味わい、お話の魔法で自分の世界を広げる力を失わずにいてほしいと願ってやみません。

(文゠ネルソン・マンデラ、訳゠和爾桃子

『マディバ・マジック——ネルソン・マンデラが選んだ 子どもたちのためのアフリカ民話』目次

編者まえがき ネルソン・マンデラ

魔鳥の歌[タンザニア]
猫が人間の家に住みついたわけ[ジンバブエ]
この世に水がなかったころ[サン]
王さまライオンの贈おくり物もの[コイ]
お月さまの使者[ナミビア]
ヘビの族長[西アフリカ/ズールーランド]
怪物をだました男[ングニ]
サンクハンビの言葉は蜜のよう[ヴェンダ]
ムムルタとフィリ[ボツワナ]
ライオンとウサギとハイエナ[ケニア]
マディペツァーネ[レソト]
川のカミヨ[コサ]
クモとカラスとワニ[ナイジェリア]
ナティキ[ナマクアランド]
ウサギと木の精霊[コサ]
カマキリとお月さま[サン]
七つ頭の大蛇[コサ]
ウサギの仕返し[ザンビア]
お妃きさきオオカミさま[ケープタウン・マレー居留地]
ヴァン・ハンクスと悪魔[ケープタウン・オランダ居留地]
オオカミとジャッカルと樽いっぱいのバター[ケープタウン・オランダ居留地]
雲間の姫[エスワティニ]
水場のぬし[中央アフリカ/ズールーランド]
スルタンの姫君[ケープタウン・マレー居留地]
王さまの指環[伝説のアフリカ古王国]
りこうな蛇使い[モロッコ]
悪魔の壜詰め[ケープタウン・イギリス居留地]
美青年の嫁選び[ジンバブエ]
土になったお母さん[マラウイ]
モトロピーの木がくれたもの[ボツワナ]
フェシート、市場へ行く[ウガンダ]
サニー・ラングタンドのお客さん[ケープタウン・イギリス居留地]

この本の編者ネルソン・マンデラについて
物語を集めた人たち
挿絵を描いた人たち
初出一覧
アフリカのみんなのお話 訳者あとがき

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