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『避難生活』を考える 〜自らの問題として避難生活の実態に関心をもつことから

記事:朝倉書店

避難生活支援の改善を図るには、まさに避難生活の実態に関心をもつことから始まる。避難生活を他人事として捉えるのではなく、自分自身が避難生活を送るとしたらどのような生活を送りたいのかについての議論をもとに、避難生活支援についての国民的コンセンサスの形成がなされなければならない。私たちは戦後の避難生活観から脱却し、現代にふさわしい避難生活を獲得することができるのだろうか。
避難生活支援の改善を図るには、まさに避難生活の実態に関心をもつことから始まる。避難生活を他人事として捉えるのではなく、自分自身が避難生活を送るとしたらどのような生活を送りたいのかについての議論をもとに、避難生活支援についての国民的コンセンサスの形成がなされなければならない。私たちは戦後の避難生活観から脱却し、現代にふさわしい避難生活を獲得することができるのだろうか。

避難生活

(1)避難生活と法:災害対策基本法

 災害によって自らの家屋等が被災をすると、「難」を「避」けるために一時的な居所で生活をすることを余儀なくされる。これが「避難生活」であり、安定した居所を確保するまで継続することになる。ここではまず、避難生活における支援のあり方について、法制度からアプローチを試みていきたい。
 まず、避難生活ひいては被災者支援のあり方を示してくれる法制度として災害対策基本法(以下、災対法)がある1)。
 災対法2条の2 には基本理念が書かれている。

 2条の2 第4号
 災害の発生直後その他必要な情報を収集することが困難なときであつても、できる限り的確に災害の状況を把握し、これに基づき人材、物資その他の必要な資源を適切に配分することにより、人の生命及び身体を最も優先して保護すること。

 第4号は、災害関連死の防止義務を規定したものであるといえるが、避難生活においては劣悪な生活環境にさらされるリスクが高く、人命の最優先保護という当たり前のような事柄が実現されていない現実を知っておかなければならない。

 2条の2 第5号
 被災者による主体的な取組を阻害することのないよう配慮しつつ、被災者の年齢、性別、障害の有無その他の被災者の事情を踏まえ、その時期に応じて適切に被災者を援護すること。

 第5号は、被災者がそれぞれに有している主体性・属性に応じた支援を求めている。被災者支援とは災害時における福祉であり、避難生活においても福祉的配慮・支援が求められる。
 8条2項を見てみると、国や自治体が実施に努めるべきことが規定されている。
 「被災者の心身の健康の確保、居住の場所の確保その他被災者の保護」(14号)について、「心身の健康の確保」というのは2条の2第4号における災害関連死の防止義務を受けた規定であるといえる。「居住の場所の確保」は、災害時における劣悪な生活環境から迅速な脱却を要請しているといえる。
 「高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(以下、「要配慮者」という。)に対する防災上必要な措置」(15号)は、2条の2第5号を受けた福祉的な配慮を特に要する人に関する規定であるといえる。
 「被災者に対する的確な情報提供及び被災者からの相談に関する事項」(17号)も重要な規定で、被災者支援が単にモノやカネの提供だけではないことを示している。避難生活においても、情報提供や相談対応は欠かせない。
 災害発生した後は、市町村長などの災害応急対策責任者は、避難所を提供するとともに、避難所ないし避難所外に滞在している被災者の生活環境の整備に必要な措置を講ずることになっている(86条の6~7)。避難所・避難所外双方を含めた避難生活のあり方について規定しているといえる。ここでのポイントは、避難所はもとより、避難所外に滞在している、すなわち、テントや車中、被害を受けた住居に住み続けている被災者についても、必要な生活関連物資の配布、保健医療サービスの提供、情報の提供といった生活環境の整備に必要な支援をしなければならないということだ。
 これらの条文から、①画一的な支援ではなくて個々人のニーズに応じた支援が求められている、②避難所に逃げたらそれで終わりなのではなくて、避難生活における居所や健康への配慮も重要になっている、③モノ・カネだけではなくて、情報提供や相談業務も避難生活支援の一要素となっている、といったことが読み取れる。

(2)避難生活と法:憲法

 このように、災対法では避難生活のあり方について結構いいことを書いているのであるが、これらの要請というのは実は、憲法の条文から端を発している。
 憲法13条にいう、①生命・身体の保護からは、生命の最優先保護(2条の2第4号)が、②個人の尊重からは、被災者の個別的な事情への配慮(2条の2第5号)および要配慮者への措置(8条2項第15号)が、③自己決定権からは、被災者による主体的な取組の尊重(2条の2第5号)や自己決定を促進するための情報提供や相談業務(8条2項17号)が導き出される。
 憲法14条の平等原則からは、避難生活における等しい配慮と支援(86条の7)が導き出される。
 憲法25条の生存権からは、心身の健康の確保、居住の場所の確保(8条2項の14号)や避難所の整備(86条の6)が導き出される。

(3)避難生活と法:災害救助法

 災害発生後の避難生活を支援する法制度として、災害救助法(以下、救助法)がある。4条1項には、以下のような支援メニューが規定されている。
 ①避難所、応急仮設住宅の供与、②炊き出しその他による食品および飲料水の供給、③被服、寝具その他生活必需品の給与または貸与、④医療および助産、⑤災害にかかった者の救出、⑥災害にかかった住宅の応急修理、⑦生業に必要な資金、器具または資料の給与または貸与、⑧学用品の給与、⑨埋葬、⑩死体の捜索および処理、⑪災害によって住居またはその周辺に運ばれた土石、竹木等で日常に著しい支障を及ぼしているものの除去。
 救助の程度、方法および期間はあらかじめ「一般基準」(正式名称:「災害救助法による救助の程度、方法及び期間並びに実費弁償の基準」)が設けられている。しかし、それはあくまでも最低限の基準であって、一般基準によっては救助の適切な実施が困難な場合には、内閣総理大臣に協議することで、一般基準を上回る「特別基準」を設定することもできる。特別基準の設定によって、たとえば、避難所においてプライバシーを守るためのパーティション、冷暖房、仮設洗濯場・風呂・シャワー・トイレを設置するとか、高齢者・病弱者に対する配慮がなされた食事の提供などが可能となる。これらは、安全な避難生活を送るためには必要不可欠な措置である。災害発生前から特別基準について熟知しておき、災害直後から柔軟に対応していくことが望ましい。災害関連死の防止は救助法の柔軟な対応にかかっているといっても過言ではない2)。
 今後の課題としては、特別基準を積極的に活用するためのデータベース構築を図るとともに、医療についても予防的な措置も救助法の対象とする、医療に加えて福祉サービスも救助法の対象とする、法的には可能であるが運用としては実施されていない金銭支給の実施(現在は現物支給しか認められていない)等、現代のニーズに応じた支援メニューの拡大が求められる。

(4)避難生活の拠点:災害直後

 災害直後における避難拠点としては、第1に避難所を挙げることができる。避難所としては、まず体育館などの公共施設が考えられるが、民間施設や応急に設置したテント等も避難所になる場合がある。他方、公共施設・民間施設でも避難所として認定されていない施設もありうるが、必要に応じた配慮・支援がなされなければならない。基本的には素早い解消を目指すべきであるし、長期化することがないように速やかに、良好な生活環境を確保できる避難生活形態への移行を進めるべきである。
 以下に述べる避難形態は、避難所外避難として位置づけられる(ただし、避難所として扱われることもある)が、 従来の避難生活支援は、避難所-仮設住宅という、行政が提供してきた居所をベースに展開されてきたので、行政の設けた支援のスキームから外れた避難所外避難者に対しては支援がなされないことがあったし、現在においても支援がなされない(=忘れ去られやすい)リスクを負っている3)。
 在宅避難は、家屋に損傷がなくてもそこでの居住に不便が生じる場合には、なんらかの配慮や支援が必要となる。損傷がある場合でも、適切な応急修理が行われればそれなりの居住空間が確保されるケースもあり、何より自宅のほうが精神的にも落ち着くことから、有力な避難生活スタイルである。親戚・知人宅も、オーソドックスな避難形態である。
 ホテル・旅館等の宿泊施設は安定した居住環境が提供される。災害救助法による借上げ・供与が認められており、積極的に活用することが求められる。
 テント・ビニールハウスは、簡単に設置できる、避難生活の拠点として挙げることができる。短期間であれば、テントであればプライバシーが確保された避難生活を営むことができるし、ビニールハウスを避難所(支援物資の配給先)として機能させる方途もありうる。
 自家用車が避難生活の拠点になることもある。プライバシー性が確保されるという点において有力な避難生活スタイルである。エコノミークラス症候群になるリスクを伴うので配慮が必要となる。キャンピングカーやトレーラーハウスは、そこでの宿泊を想定している車両であり、一時的な避難生活先として優れている。
 野宿・洞窟・洞穴等は、現代において考えにくい形態であるが、なんの設備もなく、あるいは簡単な設備で済ませることができる避難形態である。被災地において、施設等がまったくないあるいは不足している場合にはこのような選択肢も検討しなければならない。帰宅困難者対策を考えると、公園での野宿は現実的な選択肢であって、そこで野宿をせざるをえない人たちに対する配慮・支援について真正面から検討すべきであろう。
 避難所避難者と同じく居住空間の安全性と快適性が確保された上で、必要な配慮・支援を受け取ることができるのであれば、救助法で避難所として供与されている場所かどうかの違いに過ぎない(要するに、支援メニューの①以外は必要に応じて受けることができる)。そうすると、避難所以外での避難生活というのは、被災者にとってはさまざまな選択肢を与えてくれるとともに、場合によっては、避難所よりもプライバシー性や快適性を提供してくれるポジティブな存在であるともいえる。いずれの避難形態にせよ、避難生活者に対してきちんとした配慮・支援ができるよう、避難生活時においても途切れることのない災害ケースマネジメントの展開が求められる。

(5)避難生活の拠点:災害復旧期

 災害復旧期における一時的な仮の居所としては、仮設住宅を挙げることができる。在宅避難の場合も修理を行えば、長期的な避難も可能となる。
 建設型応急住宅は、立地場所や建築形態についての柔軟性が求められている。場合によっては、恒久的な居所としての転用も可能とすべきである。
 賃貸型応急住宅は、一見、①迅速な住宅供給ができる、②建設型応急住宅と比べてコストがかからず、一定の質が期待できる、③被災者が居所を選択できる、といったメリットがあるが、賃貸型に移転後に配慮・支援が途切れてしまい孤立してしまいやすいといったデメリットがある。在宅被災者同様に「忘れ去られやすい」形態であるといえる。
 公営住宅も、一時的な仮の居所・恒久的な居所として機能しうる。入居条件の緩和や家賃の特別措置をどのようにするかが課題とされる。

(6) 避難生活支援のあり方と国民的コンセンサス

 災害救助法による避難生活支援というのは応急対応的な支援である。なので、衣・食・住については現物支給が基本とされるのはうなずける(救助法上、金銭支給は可能になっている)。避難生活が長期化した場合、居所の確保は仮設住宅などで行うとしても、避難生活に必要な食料や生活財は救助法で金銭支給をするという施策が実施されていない以上は、別の制度による金銭支援を探すことになるが、避難生活そのものを支援する金銭支援制度は存在しない。
 災対法を見てみれば、結構いいことが書かれているのにもかかわらず、避難所の風景というのは戦後の風景とあまり変わらないし、避難生活そのものが確固とした制度で支援されているわけでもない現実がある。原因の一つとして取り上げるべきは、避難生活に対する国民の無関心である。体育館に避難している人たちを見て「大丈夫だ」と思った瞬間に私たちはその人たちを「見捨てている」といっても過言ではない。そこからの生活の困窮について私たちは想像をしないといけない。
 避難生活支援の改善を図るには、まさに避難生活の実態に関心をもつことから始まる。避難生活を他人事として捉えるのではなく、自分自身が避難生活を送るとしたらどのような生活を送りたいのかについての議論をもとに、避難生活支援についての国民的コンセンサスの形成がなされなければならない。私たちは戦後の避難生活観から脱却し、現代にふさわしい避難生活を獲得することができるのだろうか。   〔山崎栄一〕

『災害復興学事典』朝倉書店
『災害復興学事典』朝倉書店

文献
1) 山崎栄一(2019),避難所・避難生活に関する法制度,消防防災の科学,(135),19-22.
2) 山崎栄一(2021),東日本大震災後の災害法制と被災者支援法について―現状と課題,消費者情報―,(495),14-16.
3)山崎栄一(2022),避難所外避難者への支援と課題― 法制度からの検証―,危機管理レビュー,(13),23-33.

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