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英語で学ぶ国際関係論――受験生への応援メッセージ

記事:明石書店

『国際関係論の新しい学び――英語を用いた学習者主体の授業実践』(上杉勇司・大森愛編著、明石書店)
『国際関係論の新しい学び――英語を用いた学習者主体の授業実践』(上杉勇司・大森愛編著、明石書店)

 進学先を検討している受験生や保護者だけでなく、高校や大学において国際問題を扱う教員にとっても有益な一冊となっている。国際機関、外務省、NGOで国際関係・国際協力の実務を担ってきた著者たちが、自身の実体験をもとに、英語で学ぶ国際関係論の授業を紹介し、その利点と可能性を記す。

 国際関係論を学びたいけれど、海外の大学を目指すべきなのか、それとも国内の大学のほうがよいのか。進路で迷っているかもしれない。これまで二者択一だった悩みに、日本にいながら留学の果実が得られる「国内留学」という第3の選択肢を示す。これが本書の説く「新しい学び」だ。この新しさは次の2つの側面をもつ。

① 英語で学ぶ
② 学習者主体の授業実践

英語で学ぶ

 どうして英語で国際関係論を学ぶとよいのか。いわゆるグローバルサウスの台頭により、いまや国際関係論を学ぶ者にとって欧米諸国や文化の理解だけでは不十分となった。多種多様な地域の人々と接し、意見を交換することで、国際社会の現実を把握することが、国際関係論の基礎になる。

 これまでは、日本語が話せなければ日本の大学に合格できなかった。外国人にとって日本語は難しく、これが日本の大学に外国人学生が少ない原因だった。教室に日本人学生しかいなければ、カルチャーショックや多様な視点は実感しにくい。これでは国際関係の醍醐味である異文化体験が得られない。だから海外留学が選択肢となっていたのだ。

 英語で授業を開講し、英語で開講されている授業を履修するだけで卒業できる学部やコースを設置することで外国人学生が集まりやすくなる。立命館アジア太平洋大学、早稲田大学国際教養学部、上智大学総合グローバル学部などでは、外国人学生に門戸を開き、国際関係論を学ぶうえでの基本的な条件としての多文化環境を提供する。

 たとえば、早稲田大学国際教養学部では一学年の正規生600名のうち、約3割(180名)を約50カ国から集まった外国人学生が占める。くわえて、約300名が交換留学生として在籍している。単純計算で2400名のうち840名が海外からの学生ということになる。

学習者主体の授業実践

 ただし、英語の授業を提供すれば自動的に優秀な学生を惹きつけることができるわけではない。授業の質を高めなくてはならない。そこで本書が強調するのが、アクティブ・ラーニングと呼ばれる学習者主体の授業実践だ。

 大人数向けに大教室で実施する一方的な知識詰め込み型講義の時代は過ぎた。コロナ禍を経て、世界のトップレベルの教授による最高峰の教育が、自宅にいながらオンラインで受けられる時代となった。大学の教室に集って学ぶ意義や付加価値は、どこに見いだせるのか。

 学習者が互いに学びあう場。これが現代の授業に求められる第一条件だ。正解のない問いに対して、筋道を立てて意見を述べあう。学友とともに知恵を絞る。多様な意見に触れ、自分の考えを見直す。自分の頭を使って考え、他者の意見によって触発され、自己の成長を実感できる場であることが、大学の授業に求められている。

アクティブ・ラーニングで学生が主体的に学ぶ授業風景
アクティブ・ラーニングで学生が主体的に学ぶ授業風景

チームビルディングと集団での意思決定とリーダーシップについて学んでいる場面
チームビルディングと集団での意思決定とリーダーシップについて学んでいる場面

 『国際関係論の新しい学び』では、ロールプレイなど学生が授業の主役になる方法を紹介する。教員は脇役や黒子に徹する。学生たちが学びやすい環境を用意し、自発的な学びを促すのが教員の役割だ。授業のなかで簡単に取り入れられる単発ワークショップから早稲田大学が北京大学・高麗大学校と共同で実施した夏期集中講座まで、本書の執筆者が実際に取り組んできた授業実践を準備段階から評価に至るまで包み隠さず本書では解説している。学習者主体の授業実践を目指す教員にとっても有意義な指南書となっている。

 最後に受験生の背中を押す一言。母語である日本語で国際関係論を学んだほうが、理解が深まるのではないかといった疑問を抱いているかもしれない。書籍から得られる知識に加え、世界中から集まった学友から得られる刺激や視点は、生の実体験として私たちの知的感覚を豊かしてくれる。流暢な英語を話す必要はない。他者との対話を強く求める姿勢が重要なのだ。

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