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イスラム世界の未来

記事:春秋社

イスラエル軍の攻撃による爆風で吹き飛んだテント。ガザ全域から避難してきた人たちが生活していた=2024年7月13日、パレスチナ自治区ガザ南部ハンユニス、ムハンマド・マンスール撮影(朝日新聞社)
イスラエル軍の攻撃による爆風で吹き飛んだテント。ガザ全域から避難してきた人たちが生活していた=2024年7月13日、パレスチナ自治区ガザ南部ハンユニス、ムハンマド・マンスール撮影(朝日新聞社)

 あとがきを利用して、現在のガザ紛争に触れておく。周知のように、今中東では、ハマスのイスラエルへの奇襲から始まった抗争が数か月続いている。イスラエルとパレスチナの戦いは今に始まったことではないが、今回は常なる衝突を上回る戦闘に発展し、その先が見えにくい。

 その一方、当事者たるハマスとイスラエルには目標を同じくするところがあり、その裏面では手を握っていたとの報告が寄せられている。つまり、両者は共に二国分割案(パレスチナ国家樹立による二国並立)に反対する一点でつながっていたというのである。それによると、イランから流れる資金がイスラエルを経てハマスに渡っていたとされる。中東は何でもありの地域なので、その報告もまんざら嘘ではなさそうだが、仮にそうでも今回の衝突で、すべては無に帰したと思われる。

 では、その結末はどうなるのか。私はどちらも勝者になりえないと思っている。軍事的には、イスラエルが圧倒的な力を持つ故ハマスを制圧する形で終息を見るであろうが、問題はその後のことで、仮にハマスを倒しても紛争は継続する。

 となれば、どうなるか。一方が音を上げなければ、両者ともヘトヘトになるまで戦い続け、その限界に達したところで痛み分けになるであろう。それは、イスラエルと周辺アラブ(エジプトやシリアなど)の抗争を見ればよく分かる。イスラエル建国を発端に四半世紀にわたり四度もの大戦と無数の小競り合いが戦われ、ようやく矛が収められることになった。その二の舞を、今度は国家に代わって民兵組織(ハマスやヒズボラなど)がやっているのだ。その紛争の着地点はパレスチナ建国による二国分割になるしかないが、この場合人の持つ常なるさがは理性的な判断を避けるのが常であるため、多大な犠牲を払うまで戦いは終わらない。今は矛を収めても、双方の納得が行くまで戦いは続いてゆく。右の国家間戦争では、第四次中東戦争でエジプト・シリアが善戦し、一応の納得がいったところで終息した。おそらく、今回も同じ道をたどるであろう。

 したがって、今国際社会(とりわけ周辺諸国)がやるべきことは、この衝突が拡大し中東全土に波及しないよう封じ込めることである。具体的には、イラン・イスラエル戦争を防止することである。もともとイランは、革命前のシャーの時代、イスラエルと良好な関係を保っていた。だが、革命政府になってからそれが一変してしまい、とりわけイランが核開発を進めるに及び決定的に破綻した。それが今回のガザ紛争で、さらに深刻度を増している。これはきわめて危険な状態で、紛争を止められぬまでも、それが拡大しないようガザ地区のみに封じ込める必要が生じている。したがって現在は、それが実現できるか否かが最大の課題となっている。日本は、その解決に寄与する力をわずかしか持たないが、石油を当地に全面依存していることを鑑みれば、可能な限り努力する必要があるだろう。

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