「国境なき医師団」(MSF)の取材を続けている作家のいとうせいこうさんが、中東で見聞きしたことを語るイベントが東京都内であった。
MSF日本主催の難民・移民の現状を伝える「エンドレスジャーニー展」の一環。いとうさんは昨年11月、パレスチナ自治区ガザ地区やヨルダンのアンマンで取材した。ガザではデモが続き、イスラエル軍の銃撃で足を狙われて負傷する市民が絶えない。「労働力が激減し、女性たちは負傷者の世話をしなくてはならず、生活がじわじわむしばまれていく」と話した。
アンマンのMSF再建外科病院には、イラクやシリア、パレスチナなど中東全域から紛争などで負傷した患者が訪れ、月200人ほど治療する。いとうさんは義手の5歳の女の子にチョコを渡す時、「義手でない手に渡してしまった。でもどっちの手に渡した方が良かったのか分からない。こうした一つ一つのことがこの先も彼女を傷つけてしまう」と感じた。「けがをしたり、傷ついたり、苦しみが何十年続くのか。子どもたちも苦しまなくてはならない」と戦争の悲惨さを訴えた。
いとうさんは2016年からMSFを取材。『「国境なき医師団」を見に行く』『「国境なき医師団」になろう!』を刊行した。(山根由起子)=朝日新聞2020年1月8日掲載