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パール・オブ・アフリカを訪ねてみよう――吉田昌夫・白石壮一郎 編『ウガンダを知るための62章』

記事:明石書店

川沿いの簡易水道まで水汲みに向かう農村の子どもたち。エルゴン山カプチョルワにて。(2015年、白石撮影)
川沿いの簡易水道まで水汲みに向かう農村の子どもたち。エルゴン山カプチョルワにて。(2015年、白石撮影)

アフリカの真珠

 大学院生のときから20年以上、私は毎年のようにウガンダを訪問してきた。「ウガンダ人の典型的な人物像についてどう思うか?」と、ウガンダ人とのおしゃべりで問われることがある。私は半分本気、半分は相手からの受けねらいで「ケニア人はbusiness-drivenでフランク、ウガンダ人はhumbleでmoderateだ」と応じる。きっとウガンダ人自身が内心そう思っているにちがいない。

首都カンパラは丘が多く起伏に富む。郊外の住宅地から歩いて通勤する人びと。(2003年、白石撮影)
首都カンパラは丘が多く起伏に富む。郊外の住宅地から歩いて通勤する人びと。(2003年、白石撮影)

 ウガンダ共和国は、ケニア・タンザニアなどと並んでヴィクトリア湖を囲む東アフリカの国ぐにの一角である。生物相の豊かさや雄大な景観から、かつて英国宰相チャーチルをして「アフリカの真珠(‘Uganda is truly the Pearl of Africa’)」と言わしめたし、じつは第2次世界大戦前から日本は綿花輸入の貿易関係があった。自然環境や伝統的王国文化などは東アフリカの他の国ぐにと比べたとき、大きな特徴だ。

 1894年から1962年までイギリスの保護領だったウガンダは、ウィンストン・チャーチルがMy African Journey(1908年刊)でその自然環境を絶賛した保護領初期から現在まで、激動の歴史を重ねてきた。しかし1962年の独立後、ヨウェリ・ムセヴェニ大統領が着任する1986年までの四半世紀ほどは、軍事政権をふくむ8人の大統領が政権交代をくりかえすなど政情は安定していなかった。現在にいたるムセヴェニ政権下のウガンダは一定の経済成長を示している一方、農村部と都市部との格差は大きな課題として残されている。

ウガンダを調査する

 本書は38人の著者がそれぞれの知見から著した62章と15のコラムから編成されている。ウガンダについて考えられる限りのトピックがカバーされており、日本語で書かれたものでは唯一無二だ。学術的な理論や議論のエッセンスも随所にかくされているが、初学者でも難なく読める読み物である。

首都カンパラの中心部、ダウンタウンにあるオールド・タクシー・パーク。ここから各地へ発車する乗合いの路線タクシー。車両はほとんどが日本製の中古ワゴン車だ。(2019年、白石撮影)
首都カンパラの中心部、ダウンタウンにあるオールド・タクシー・パーク。ここから各地へ発車する乗合いの路線タクシー。車両はほとんどが日本製の中古ワゴン車だ。(2019年、白石撮影)

 本書に一貫した読みどころは三つある。まずは歴史である。上記のような保護領期から独立後現在に至るまでのウガンダの歴史変動はなぜ・どのように起こったのか。このことが解説され、現在の行政と経済の成り立ちが立体的に解き明かされる。つぎに、マクロ経済指標からはわからない人びとの生活である。都市や農村での活動と生業、文化が現地調査(フィールドワーク)にもとづいて、日常生活レベルからみえてくるように描かれている。そして、現在進行形の経済・人間開発や社会問題について。具体的には紛争後社会構築、難民、医療・公衆衛生、自然資源保全などの課題がどのように取り組まれているかが、やはり現地調査の知見から書かれている。

 こうした内容をみていくと、このウガンダという国の研究、しかも現地調査で研究している著者が日本国内に多くいるのだというメタ情報にも気付くだろう。多くは大学に所属している研究者だが、実務に従事しているかたも複数いる。インターネットで検索するとアフリカ研究を専攻できる大学院があるが、本書の著者のなまえが所属研究者のなかにみつかるかもしれない。つまり本書はウガンダ訪問への案内でもあるし、アフリカ研究への入り口でもある。

すすむインフラ整備、高学歴化

 本書は旧版にあたる『ウガンダを知るための53章』(2012年刊)の増補改訂版だ。旧版刊行後の最近12年間でウガンダはさまざまに変化した。

 スマートフォンの普及によってインターネットへの接続が容易になり、WhatsAppなどSNSによるコミュニケーションがさかんだ。国際空港と首都カンパラの中心部とは約45kmの距離があるのだが、首都と空港、首都と近郊地域をむすぶ高速道路ができたおかげで渋滞に煩わされず移動は快適になった。新たなショッピングモールもでき、首都中心部は郊外に拡大しつつある。毎年ウガンダを訪問するたびに新しいなにができたか、まちがいさがしをして私はウガンダの友人と答え合わせをする。

 教育熱は全国的に高まっている。農村部を訪問するとわかるが、小学生でも将来の大学進学希望を口にする。私自身、農村部からの大学進学というトピックでこの3年間ほど現地調査をおこなっている。両親が進学資金をぽんと用意できる家は、私のいく調査地では皆無に等しい。だから高校卒業から直接大学進学するのでなく、中学校を卒業したあと専門学校を卒業、その後に運よく農業と兼業の雇われ仕事がみつかったら給料を貯金し、数年から10年後にディプロマ取得から大学に社会人入学する、などの大学進学計画の多コース化が起きている。もっとも、農村部で雇われ仕事はほぼみつからず、そうこうしているうちに結婚し子供が2–3人も生まれると進学計画はままならなくなる。旧知の友人からそうした苦労話を聞いて、私はリアリティをともなった同時代のウガンダでの生活・人生の理解にいたるのである。

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