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世界幸福度ランキングで8年連続第1位! 世界一幸福な国の「幸せ」とは?――ラウラ・コピロウ『フィンランド発 幸せが見つかるライフスタイル』

記事:WAVE出版

ラウラ・コピロウ 著『フィンランド発 幸せが見つかるライフスタイル』(WAVE出版)書影
ラウラ・コピロウ 著『フィンランド発 幸せが見つかるライフスタイル』(WAVE出版)書影

毎日の小さな幸せを何層にも重ねる

フィンランドに行くと、意外とみんな笑顔がないな、と感じるかもしれません。冬が長くて寒いからか、無表情で無口な人が多いので、嬉しいのか悲しいのかよくわからないこともあります。一見して、少し不機嫌そうな人も多いです。でも世界幸福度ランキングでは8年連続世界一です。なぜでしょう?

 フィンランドが世界幸福度ランキングで1位になった時に、小さい時から何でもとりあえず疑問に思うように育ってきたからか、私のまわりでは「そのランキングは間違っているのではないか」というリアクションも多かったです。

フィンランド人のフィンランド人像

 フィンランド人自身がもつ「フィンランド人像」というのは、シャイでたくさんしゃべらない、マイナーコードの音楽を聴いていて(ヘヴィ・メタル・バンドの数は人口1人あたり世界一!*)、他のヨーロッパ諸国の人と比べるとちょっと変わりものの森の国の人、といったところでしょうか。知らない人にハグすることはないし、フランス人やイタリア人のようにほっぺたにキスをするあいさつなんかちょっと恥ずかしいし、アメリカ人のように「cool!(=すごい!)」などと大きなリアクションをとることもできず、そして何に関しても真面目です。その「フィンランド人像」と世界幸福度ランキングが1位だったことがあまりにもかみ合わないので、本当かなと思った人が多かったようです。

 しかし、笑顔が少なくても、幸福は感じられます。なぜならフィンランドでは、幸福と一時的な喜び、楽しさは別なことである、と考えるからです。

 フィンランド語では継続的に心の中にある「幸福」と、笑顔にあらわれるような瞬間的な心の動き「喜び、楽しさ」は、それぞれ異なるフィンランド語です。幸福は「onni(オンニ)」、そして喜び、楽しさは「ilo(イロ)」です。そしてこの世界幸福度ランキングが「ilo」かどうかのランキングだと勘違いしている人もいたようです。

フィンランド人は、毎日笑顔で世界一ハッピーな人たちではないと思います。でも、心の中でいつも静かに幸福を感じているのかもしれません。 

フィンランド人に「何に幸せを感じている?」と聞くと、驚くような答えは返ってきません。「家族」「自然」「安心」など予想と違わぬ言葉が並びます。「こんなつまらない答えでごめんね」と謝る人すらいます。

 例えば世界一周旅行ができたり、高級なディナーに行く機会があったら、その時の一瞬の喜びは大きいと思います。しかし、それに対して、太陽が出ていて、コーヒーがおいしくて、大切な人がそばにいて、今日も明日もきっと大丈夫だと思えるような毎日の小さな幸せの積み重ねこそが、大きな、持続的な幸せにつながる、フィンランド人の幸福感だと思っています。

 フィンランドは冬に行くと少し辛い時もあります。太陽がなかなか出てこなくて、みぞれや雪が降っている時もあって、防寒着を着ていないと外に出ることもできず、子どもにこれを着させるのもひと苦労。世界的にも有名になったフィンランドの困難を乗り越える頑張る力「sisu(シス)」という言葉からもわかるように、小さなことで文句を言わないのが良しとされている国です。毎日太陽が出るのも当たり前ではないので、そのことに幸せを感じます。シンプル・イズ・ベストな幸せです。

外でコーヒーが飲める幸せを感じられる屋外のカフェ。マーケット広場でコーヒーを飲みながらの打ち合わせは珍しくありません。夏が短いのでここぞとばかりに楽しみたいもの。
外でコーヒーが飲める幸せを感じられる屋外のカフェ。マーケット広場でコーヒーを飲みながらの打ち合わせは珍しくありません。夏が短いのでここぞとばかりに楽しみたいもの。

左:テーブルの花がマリメッコのテーブルクロスに映えます。右:外でアイスが食べられるのは夏限定の幸せ。
左:テーブルの花がマリメッコのテーブルクロスに映えます。右:外でアイスが食べられるのは夏限定の幸せ。

フィンランド人の幸福観

 私は心理学の専門家ではないのですが、長く日本に住んでいるフィンランド人としてフィンランドを外から見ると、つい考えてしまうのはアメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱したという欲求段階説理論です。

 マズローによると、人間の欲求はピラミッドのように、下から「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認の欲求」「自己実現の欲求」へと5つの階層になっていて、マズローの理論では低い階層の欲求が満たされると、次の段階の欲求を求めるようになるといわれていますが、これはフィンランド人にはあまり当てはまらないかもしれません。

 この理論をフィンランド人の幸福観に照らし合わせた時に、食欲や睡眠のような「生理的欲求」、心身ともに健康で、経済的に安定した暮らしができている「安全の欲求」が満たされていることにかけがえのない幸せを感じているのがフィンランド人らしい、と思うのです。マズローの理論でいう承認の欲求と自己実現の欲求が薄いのかもしれません。

 また、経済的な格差はほぼなく、仕事の肩書や上下関係、社会的なステータスなどをあまり気にする人もいないので、知名度や年収をあげたい欲求は少し薄いように思います。現状に満足していて多くを望まない。幸せを感じる基準はフィンランドデザインを同じく、シンプルです。

 では、フィンランドに住めば幸せになれるのかというと、そうとは限りません。なぜなら幸せは物理的にどこかに存在する空気のようなものでもなければ、マジックのように一瞬で何かが変わるものでもないからです。何があっても安心できる社会やシステム、セーフティネットは確かに整っています。しかし個人の心の中のマインドセットも必要です。フィンランドには、幸せになる可能性があるだけです。

マズローの欲求5段階説
マズローの欲求5段階説

Statistics Finland(フィンランド統計局)

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