「北欧の夏至祭」とひとことで言っても、こんなに違う! 地域色豊かな文化とそれにまつわることば
記事:白水社

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夏が短い北欧では、1年で最も日が長くなる夏至の到来をここぞとばかりにお祝いします。近年話題を呼んだホラー映画『ミッドサマー』(2019)を機に、日本でもその「夏至祭」の認知度は高まっているのではないでしょうか。もちろん、フォークホラー的な要素は映画の中だけのお話で、夜になっても明るい空のもと、家族や友人が集まる大切な一日です。
【『ミッドサマー』ティザー動画】
しかし、「北欧の夏至祭」とひとことに言っても、国や地域によって祝い方はさまざま。また、各地の言語を通してみると、面白い相違点も見えてくるのです。日本ではまだあまり知られていない夏至祭の実態をひもといてみましょう。
スウェーデン語で「夏至祭」は midsommarと言います。「真ん中」を意味するmidと「夏」sommarからなる語です。日本では、6月などまだ夏の入り口という感じですが、向こうではまさに夏の半ばという認識なのですね。
映画『ミッドサマー』(2019)の舞台となったのは、スウェーデンの夏至祭でしたので、日本で「夏至祭」というとスウェーデンのものを思い浮かべる方も多いかもしれません。ダーラナ地方では、majstång「夏至柱」を立てて民族衣装をまとった人々がその周りを踊るという、日本でのイメージに近い伝統的なお祝いがなされます。majstång のmajは動詞maja「花や草木で飾る」に由来し、maj「5月」ではないのでご注意を。
そして夏も終わりが近づく8月になると、スウェーデンではザリガニを食べるそうです。短い夏にお別れを言う儀式なのだとか。どちらにおいても、乾杯の掛け声は「Skål!」で。
「夏至」自体はデンマーク語ではmidsommerですが、夏至祭という意味ではSankthansという語が一般的で、6月24日にお祝いすると定められています。キリスト教化以前の夏至を祝う土着信仰が、聖ヨハネの誕生日とされる6月24日の祝祭に置き換わったのが、現在の形だと言われています。ただし、デンマークの夏至祭の本番は、前日の6月23日の夜(sankthansaften)だそうです。クリスマスも12月25日ではなく、イブの24日に祝うデンマーク。何事も一日でも早く祝いたいのでしょうか。
地域によって様々ですが、デンマークでは魔女(heks)を模した人形(案山子のようなもの)がてっぺんに乗った枯れ木や木屑の山に、火をつけて燃やすのが一般的です。燃え上る炎のことをデンマーク語ではbålと言います。
Sankthansは親族が集まってお祝いしますが、コペンハーゲンなどの都市部では規模の大きなイベントとして行うこともあり、日付が変わる頃には大晦日のように花火を打ち上げるそうです。
主にオスロを中心とした東ノルウェーでは、夏至祭のことをデンマーク語と同じようにSankthansと呼びます。一方で、山がちで地理的に断絶された地形柄、方言が非常に豊かなノルウェー語。西ノルウェーでは、Sankthansではなく、Jonsokという名称が一般的だそうです。古ノルド語の「jónsvaka」に由来し、「Jon=Johannesの徹夜」を意味します。
ノルウェーでも同様に、かがり火を灯して夏至の到来を祝うものの、実は他の北欧諸国と比べると少し盛り上がりに欠けるのだとか。ノルウェーでは、5月17日のナショナルデーが1年で一番盛り上がるお祝いの日です。あまりにも盛大に祝ってしまうがために、およそ1カ月後の夏至祭を祝う前に燃え尽きてしまうのでは、と分析する人も……。
フィンランド語で夏至祭はjuhannusと言い、光(valo)と真夏(keskikesä)の祭典(juhla)のことを表します。「真夏」という語のうちkeskiが「真ん中」、kesäが「夏」という意味なので、すでに紹介したmid+sommar (sommer)とまったく同じ組み合わせです。しかし、フィンランド語はウラル諸語に属するため、スウェーデン語など北ゲルマン諸語とはずいぶんと形が違います。
『ニューエクスプレスプラス フィンランド語[音声DL版]』ではヘルシンキ近郊のセウラサーリでの夏至祭が紹介されています。人々は民族衣装に身を包み、民族音楽・舞踊が披露されるそうです。この点で、スウェーデンでのお祝いに近いかもしれません。また、夏至祭に結婚する人も多く、事前に選ばれた新婚カップルが、かがり火をつけるのだとか。これにはついihanaa!「素敵!」と言ってしまいそうです。
以上のように、夏至祭にも、そしてそれにまつわることばにも土地や言語によってさまざまな特徴がみられます。フィンランド語を除く北欧の言語は、どれも北ゲルマン語系なので、文法や語彙の大部分が共通していますが、似ている中にも実はバラエティに富んだ部分も数多くあるかもしれません。それを探すのも言語学習の醍醐味の一つと言えるのではないでしょうか。
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(白水社編集部)