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「学歴フィルター」福島直樹さんインタビュー 就活生の声なき声を届ける

文:志賀佳織、写真:斉藤順子

──「学歴フィルター」という言葉を、実は初めて聞きました。そういう人も多いのではないかと思うのですが。 

 そうですね。新卒採用において、企業側が大学名などでフィルターをかけて学生をふるいにかける仕組みのことですが、でも、就活生の間では2010年頃から話題になっていたんです。就活生は就職活動の第一歩として会社説明会などに申し込みます。その際に、名前や住所、大学名、学部などのプロフィールを入力するのですが、この時点で大学名によるフィルターは仕掛けられています。

 本の中にも書きましたが、ある企業の説明会にインターネット画面から中堅大学の学生が申し込んだところ、「満席」と表示されてしまった。ところが試しに「東大」の学生に扮して申し込んでみたところ、「予約可能」になったというんです。そして、この両画面がツイッターに投稿されて炎上したんですね。こういうことが何度も起こっています。でもこの仕組みを利用している企業は少なくないんです。

――企業がそれほど学歴重視に傾いているということですか。

 はい。就活は2000年代に入った頃から大きく様変わりしました。いわゆる「就職ナビ」というものの普及によって、学生は一度に複数の企業を選択してクリック1回で「一括エントリー」ができるようになったんです。そのため、就活生一人あたりのエントリー社数が激増し、異常な競争倍率が生まれてしまった。企業はその中から限られた人数を採用するにあたって、学歴フィルターを使うようになっていったんですね。

――中堅大学やそれ以下の低選抜大学の学生さんたちにしてみれば、非常にショックですよね。

 学歴差別ですからね。まあでも学歴差別というのは、過去を振り返るといつの時代もあるにはあったんです。今に始まったことではない。だけど問題は、インターネットで知らないうちに選別されているということです。「うちは学歴は関係ありませんよ」とか「学校名は気にしませんよ」と表向きは言いながら、水面下でそのような排除が行われていることに、学生たちはやはり憤りを覚えるわけです。

――確かに騙されている気がしてしまいます。でも、企業がそこまで上位校にこだわるのは、やはり上位校の学生のほうが優秀だという判断からなのでしょうか。

 そうです。それは確かに現実問題として否定できないんです。優秀な学生の出現率は、ある程度偏差値に比例すると言える。私もある人気企業の面接官をやったことがあるのですが、やはり東大や一橋の学生の答えは切れ味がよく、「おっ」と思わせる説得力があります。

 企業が彼らを雇いたがるのには、経済的合理性があることも納得できる。ただ、これは私が今回この本で最も訴えたいことでもあるのですが、そうした学力というものが、本当に彼らの努力の結果であるのかということなんです。東大や一橋の学生が低選抜大学の学生よりずっと努力したのか、低選抜大学の学生が怠けていただけなのか。就活コンサルタントとして彼らと接触を深めていけばいくほど、そこには大きな疑問を感じざるを得なくなってきました。

――というのは、何か別の背景があるということですか。

 「学歴重視」賛成派の多くは、「高学歴の人は努力して上位大学に入ったのだから、高評価やチャンスを手にするのは当然だ」と思っています。けれども、それは、すべての子どもに大学に入るまでの学習機会が均等に与えられているということを前提としての話です。しかし昨今、子どもたちを取り巻く経済環境は厳しくなっている。親の経済格差がそのまま子どもの経済格差となって、十分な学習機会を得られない子どもたちもたくさんいるんです。進学塾にも通いにくい中、成績を伸ばせなくて偏差値の低い大学に進まざるを得ないケースも少なくない。

 実際、日本学生支援機構の奨学金受給率のデータを見ると、上位5大学(東大、一橋、東工大、早稲田、慶應)の学生の奨学金受給率は、16・8%ですが、Fランクの低選抜大学のそれは、41・2%に達しているのです。私の知る学生は、やっと進学できた大学に月12万円奨学金をもらって通っています。4年間でどれだけの額になるか。そうした事情を背負って今がある学生に対しても、現在のような学歴フィルターで選別するのは、不公平じゃないのか。そのことに対する疑問が、今回この本を書いた理由のひとつです。

――昔だと「キミ、面白いね」などと個性を買われて採用となることもありましたね。今も人柄などが選考基準になることもあるんですか。

 もちろん客室乗務員やホテルなど、人柄を重視する企業もあります。でも、昔のように、勘や直感で選考するということは少なくなりました。今は、学歴フィルターをかけて選抜したうえで、ハイパフォーマーとして現在活躍する社員の行動特性や性格を分析して、それを基準に新卒採用する。そういうデータ主義が中心になってきました。

――少し息苦しい気がしますね。

 確かに日本の新卒採用って不自由な面もたくさんあるんです。でも、未経験者を受け入れてそれを育てる仕組みにはいい面もある。大事なのは、その選考の段階に平等に臨めるように、子どもの学ぶ環境を希望の持てるものにすることなんじゃないかと。関係ないと思わないで、皆さんに考えてもらえるといいなと思います。

――学歴フィルターで落とされてしまう学生がどうしたらよいのか、今後の就活における彼らへのアドバイスや、企業がとるべき解決策など、著書には希望の持てる提案もありました。

 ずっとそうした学生さんの力になりたくてこの仕事を続けてきましたので、少しでも明るい光を見つけてもらいたい。それには行政や社会学者、教育学者など専門家からの改善策も引き出していかなければいけません。これからも微力ながら、私なりの小さな働きかけをしていけたらいいなと思っています。