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「無縁社会―“無縁死”三万二千人の衝撃」書評 細る家族縁、新しい「縁」の模索も

評者: 酒井順子 / 朝⽇新聞掲載:2010年12月05日
無縁社会 “無縁死”三万二千人の衝撃 著者:NHK「無縁社会プロジェクト」取材班 出版社:文藝春秋 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784163733807
発売⽇:
サイズ: 20cm/269p

無縁社会―“無縁死”三万二千人の衝撃 [編著]NHK「無縁社会プロジェクト」取材班

流行語ともなった、無縁社会、そして無縁死。無縁問題を取り上げたNHKスペシャルを見て「他人事(ひとごと)ではない」という不安を募らせた人は多く、もちろん私もその一人です。
 本書は、番組を制作したスタッフたちが、映像に映らなかった情報や取材する側の感情も拾いあげてまとめた一冊。まず気付かされるのは、無縁状態で生きる人々は、家族がいない人たちばかりではない、ということです。
 実家があったり、結婚経験があって子供がいる人でも無縁状態に陥る人はたくさんいて、そんな人たちに共通するキーワードは「迷惑をかけたくない」というもの。迷惑をかけたくないからと、家族に頼ることなく孤独に生きる人の、何と多いことか。
 他人との接触が無くとも、とりあえず生きていくことはできる環境が整っている今、ずっと結婚せずにいた人のみならず、離職や離婚、死別といったきっかけで、人は簡単に無縁状態となるのでした。だからこそ、性別や年代、家族状況にかかわらず、「明日は我が身」と思う人は多いのではないでしょうか。 今や縁は、貴重品となったのです。家族の縁や地縁は、普通に生きていれば自然に手に入るものではなくなり、積極的に努力をしないと、持つことも保つことも難しい世の中になってきたことを痛感させられます。
 しかし本書を読んでいると、縁の形が変化しつつあることも、感じるのでした。家族縁、地縁、社縁といった旧来型の縁ばかりではなく、ネットでつながる縁、NPOやサークル活動の中でできる縁など、新しい縁を模索する人が、増えているのです。
 新しい型の縁は、今後もっと重要視されることでしょう。旧来型の縁の中で死ぬことができない人たちが、今は「不幸」「孤独」「悲惨」とされるわけですが、そろそろ視点とシステムの転換が必要なのではないか。家族にはうっとうしがられる「迷惑」も、他人であれば受けとめてくれる場合も、あるのですから。
 評・酒井順子(エッセイスト)
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 文芸春秋・1400円/NHKスペシャルやニュース報道などの取材をもとに執筆。