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ヒグマに対する異常なまでの執着 安島薮太「クマ撃ちの女」(第108回)

 ジビエの季節到来ということで今回は狩猟マンガ、中でも生命の危険がある「クマ猟マンガ」を取り上げたい。

 古いところでは巨匠・矢口高雄の『マタギ』が真っ先に思い浮かぶ。1973年から「週刊漫画アクション」(双葉社)で連載が始まり、76年には日本漫画家協会賞大賞にも輝いた。「野いちご落しの三四郎」はじめ、クマを専門に狙う秋田県阿仁や仙北のマタギたちを描いた名作だ。最近の狩猟ブームもあってか、2017年秋にヤマケイ文庫から復刻されるとたちまち重版され、「本の雑誌が選ぶ2017年度文庫ベスト10」でも第3位に選ばれた。
 三四郎たちマタギは尺貫法や村田銃を使い、村の若い娘まで和服を着ているため明治・大正の物語にも見えるが、一方でオートバイも出てくるので70年代の現代劇という設定なのだろう。60年代の秋田県では毎年50頭余りのクマが捕獲されていたという秋田県林政課の調査結果(1967年)も紹介されており、当時はまだマタギが現役で活躍していたことがわかる。仲間たちの前でペニスを勃起させて一人前のマタギと認められる儀式「クライドリ」など、民俗学的に興味深い描写も多い。

 現在連載中の作品では、今年1月からウェブマンガサイト「くらげバンチ」(新潮社)で始まり、7月に第1巻が発売された『クマ撃ちの女』(安島薮太)がある。
 主人公・小坂チアキは31歳の女性兼業猟師。昨年、単身でヒグマを仕留めたことで注目され、フリーになったばかりのライター・伊藤カズキに同行取材を申し込まれる。埼玉県の猟銃専門店「豊和精機製作所」の佐藤一博社長が監修していることもあり、狩猟や銃に関する描写は極めてリアルだ。撃ち殺したエゾシカやヒグマを解体し、料理する様子も細かく描かれる。
『マタギ』の三四郎は「百五十尺(約45メートル)先の野いちごの実を撃ち落す」射撃の名手だったが、チアキはそんな超人的な腕は持っていない。愛銃は「ウィンチェスターM70プレ64」という知る人ぞ知るボルト式ライフル。日本では散弾銃を10年所持しないとライフルは持てず、散弾銃も20歳にならないと所持できないため、20代でライフルを持つことはできない。女性主人公が30代というのは珍しいが、「ライフルを持った若い女性猟師」として31歳はギリギリの年齢ということになる。

 特筆すべきはヒグマに対するチアキの異常なまでの執着だろう。「伊藤さんが死んでもいいからクマが撃ちたい」と言い放ち、実際に伊藤をオトリにしてクマを撃っている。その執着はどこから来るのか? 単行本未収録の第16~18話で一応の理由が語られているが、それだけではなさそうだ。
 それにしても「ライターの伊藤カズキ」、なぜか他人とは思えません!