メディア不信の裏にある光と影 「ラストニュース」から「マスゴミ未満」へ(148回)

マスメディアに対する国民の不信感や不満はいよいよ強まり、インターネットで“マスゴミ”という蔑称を目にする機会も増えている。記憶に新しいところでは、中居正広の引退によって1月27日に行われたフジテレビの記者会見だろう。会見は実に10時間半に及んだが、それに見合った成果はほとんどなく、SNSでは「フジテレビもダメだが、集まった記者たちもマスゴミだった」などと批判された。
そこで今回は、「ヤングアニマルWeb」(白泉社)で昨年から連載されている問題作『マスゴミ未満』(原作・みずほ大、作画・松浦ショウゴ)を取り上げたい。
主人公の加山雄一はJBK鳥根(とりね)支局に勤める若手報道記者。10年前に自殺した新聞記者の父を尊敬し、彼のようなジャーナリストを目指してテレビ局に入社した。しかし、あこがれの報道の現場は腐りきっており、殺人事件さえもエンタメのように扱う始末。ついに加山は生放送中に「僕らがすべきことは、情報という武器で巨大な悪と戦い、当事者が知りたい真実を明らかにすることだ!」と公然と番組批判を行い、懲戒解雇処分に。そんな加山のもとに、DV事件で娘を亡くした男性から「娘は市に殺されたんです」という電話がかかってくる――。
テレビ局を舞台にジャーナリズムを描いた作品というと、1991年から「ビッグコミックオリジナル」(小学館)で連載された『ラストニュース』(原作・猪瀬直樹、作画・弘兼憲史)を思い出す。タイトルの「ラストニュース」とは、在京キー局のCBSテレビで深夜11時59分から11分間だけ放送されるニュース番組。その日のニュースからひとつだけを選んで掘り下げる。
1949年元旦生まれの日野プロデューサーは「一点突破、全面展開だ!」などと口走るバリバリの全共闘世代だ(作者たちと同世代)。「先輩より一時間早く来い」「睡眠は三時間あればよい」など、今では考えられない貼り紙もバブル期ならでは。ネットもスマホもなかった当時、マスコミはあこがれの職業であり、テレビこそは“メディアの王様”だった。テレビのない家などなく、その影響力は絶大だった。そんな時代背景の中、『ラストニュース』はヒロイックで理想的なジャーナリスト像を描いていた。
ところが令和の現代、ネットが普及し、テレビがない家や新聞を読まない人も珍しくなくなりつつある。新聞社やテレビ局も必ずしもあこがれの職場ではなくなった。『マスゴミ未満』の冒頭は「加山、正気か? 将来の夢が記者とか。やっぱ『マスゴミ』の子は『マスゴミ』ってかぁ?」という嘲笑から始まる。『ラストニュース』がメディアの“光”を描いたのに対し、『マスゴミ未満』は権力との癒着や視聴率至上主義といった“影”に焦点を当てている。読んでいると、メディアに対する不信感がますます強くなるかもしれない。
ちなみに本作の担当編集者は、かつて加山と同じ報道記者をしていたという。そのため加山が進める取材の手法やテレビ業界の様子など、ディテールがリアルで説得力があるのも魅力だ。
国民がマスコミに向ける目は変わっても、求められる姿まで変わったわけではないだろう。「この国の報道をぶち壊し、再生させる記者で す!」とテレビで叫び、第1話からフリーのジャーナリストになってしまった加山が何を見せてくれるのか? これからの行動に期待したい。