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丸山桂里奈さん『丸山式「謎手紙」のススメ』に学ぶ、自分らしい手紙の書き方って?

文:田中春香、写真:中央公論新社写真部

学生のころから何も書かなかった日が一度もない

――今日、丸山さんに取材するにあたって、実際に付箋でお手紙書いてみたんです。ただ、丸山さんのように面白く書こうとするとすべっているような気がして……。

 ぜんぜん! すべるとかないです。なんでもいいんですよ。何書いたって伝わるもんです。

撮影:田中春香

――大人になり手紙を書くということも減ってしまって、いざ書こうとすると構えてしまうことに気づきました。

 それって、超寂しくないですか? 私は学生のころからずっと一度も何も書かなかった日というのがないから、逆に「書くな」って言われたら地獄だなって思います。仕事がない日もその日会う友だちに書いたり、日記とまではいかないけどノートに何か書いたり、絵を描くこともあるので。ペンを持たない日はないです。

川島さま
いつもTVのドラム管を通じて横目で見てます★
梅雨なので食パンにしました!
背後は大丈夫ですか?  丸山 

――改めて書いてみると、何を書こうとか、丸山さんの文章の真似になってしまって……思ったより大変でした。自分らしい個性を出して書くコツってありますか?

 上手く書こうと思わないで、今、感じたことや目に飛び込んできたものを素直に書くのが良いと思います。たとえば今も、雨が“ドア”に貼りついてるじゃないですか(本当は「窓」)。そういうことをどんどん書いていくと、自分らしさが出ると思います。

――ちなみに付箋のお手紙1枚書くのに、どれぐらい時間をかけているんですか?

 15秒くらいですね。あまり考えすぎないで、思いついたことをパッと書きます。収録現場に入って、メイクを済ませてから本番までの空き時間に書くことが多いですかね。渡す相手を思い浮かべた時に書きたいことはたくさん出てくるんですけど、その中の一つを引っ張ってきて書く感じです。

――どんな共演者の方も同じ条件で書くんですか? たとえば大物芸能人の方には気合を入れて時間をかけたり……。

 そういうことはないですね。アッコさん(和田アキ子さん)とかでも、本番前の時間に楽屋で普通に書きます。

長田様
本日も!ですねー
じわりじわり ですねー  丸山

――マネージャーさんが横で話しかけていても書けちゃうそうですね。集中できなくなることはないですか?

 一応、左で(マネージャーさんが)喋ってる時は左で聞いています。ただ、両耳で聞いているかと言ったら、“大間違い”です!

――プロサッカー選手の頃は「駄菓子&手紙」を必ず毎回みんなに渡していたというわけではなく、タレントに転身してからこの習慣をはじめたそうですね。

 サッカーの時はピッチの上で動きまわったりするので、味方は私の正面に立たないじゃないですか。でも、収録ってお仕事相手が正面にくる。そうなると私としては「人間と人間の誠意」として、ご挨拶の時に手土産を渡したいという思いになって、やりはじめました。

――「人間と人間の誠意」ですか。

 共演するにあたって、一歩踏み込むというか……、手紙とお菓子を渡すことで距離を近くさせていただいている感じです。

――普通の「よろしくおねがいします」という挨拶では物足りないということでしょうか?

 自分がご挨拶に行くにあたって、手ぶらで伺うというのがあんまりしっくりいかなくて。サッカーでいうと、準備をせず試合に臨むような感じなんです。手紙とお菓子をお渡しできると、安心してお仕事でご一緒できる。仕事に向けてのルーティーンのようなものになってきています。

――書籍内のインタビューで「昔から手紙を書くのは好きだった、先祖も手紙を書く人に違いない」とおっしゃっています。昔の友達や、恋人にはたとえばどんなことを書いていたんですか?

 友達には「あの人かっこいいよね」みたいな恋愛の話が多かったような気がします。恋人には「好きだよ」とか思いを伝えるようなことをたくさん。あとは季節の話をよく書いていたように思います。雨の時には雨のことを考えて書いたり。

――とっても素敵です。さきほども、雨のことを「窓に貼りつく」というすごく詩的な表現をされていました。丸山さんは、普段読書はよくするのですか?

 昔はすごくお母さんに本を読むように言われてましたね。小さい時は読んでたけど、サッカーが忙しくなってきてからは全然。

――なにか記憶に残っている本はありますか?

 カフカ……『海辺のカフカ』ですかね。すっごく分厚くて、上下巻の。でも、内容も覚えていないので、影響を受けたとかではないです。

――村上春樹の『海辺のカフカ』、感想はいかがでしたか?

 主人公がひとりいますよね。「なんかそういう人もいるんだなぁ」って思いました。本は結構淡々と読んでるような気がします。心にひっかかったりすることってあまりないですね。とにかくお母さんに「本を読め」と言われていて、本屋さんで目をつぶって本を選んだりしてみたこともありました。

――目をつぶって!?

 たとえば、芸能人のエッセイとかって、みんな好きな人のを買うじゃないですか。でもそれを、目をつぶって選んでみるんです。そうすると、ラッキィ池田さんの自伝とか取っちゃうこともあるんですけど。そうやって本を選んで読んでました。

――では、手紙の詩的な表現は丸山さんご自身から生まれたものなんですね。

 なにも考えずに書いているだけなんですけどね。考えすぎちゃうと書けなくなっちゃうんですよ。「詩的」って言ってくださってますが、実際に「詩を書いて」と言われても書けないと思います。書いたものが「詩っぽい」ということはあるのかもしれないんですけど。「5・7・5」みたいなものに当てはめて書くというのも苦手です。ただ、渡した人からは、「もしかすると、雨なら雨の、鳥なら鳥の気持ちになって書いてるんじゃないか」とか言われたりします。自分では身を任せて書いているつもりかな。

――今まで、その変わった表現などを他人からつっこまれることはなかったですか?

 ありましたよ。中学生の時、友達への手紙の中で「エスパー伊東さん」の話をしていたんですけど、どうやら私が「Mr.オクレさん」って書いていたみたいで。友達から「オクレさんって、カバンの中なんか入るの?」って聞かれたりとか。でも、何回も「どういうこと?」って聞かれて、全力で説明してっていうのを繰り返していくうちに、理解してもらえるようになっていきました。

――みなさんだんだん、丸山さんの気持ちがわかっていくんですね。

 わからないっていう人もいるんですけどね。

――「わからない」っていうのも、それはそれでいいのかもしれないですね。

 いや、ダメです。ちゃんと伝わってほしいと思って毎回書いています。

――そうなんですね。ただ今回の書籍のタイトルが「謎手紙のススメ」ということで、やはり多くの人からすると丸山さんのお手紙は「謎」な部分が多いということなのかなと思いました。

 そうか……そういうことですよね……。そこはちょっと、複雑ですね。伝わってると思って書いていたので。そっか、タイトル……そういう意味か……。でも、伝わる人には伝わるし、わかってくださる方が増える日がくると信じて書き続けていきたいです。

――もちろん読んで理解してくれる方もたくさんいるとは思うのですが。

 そういえば不思議と、滝沢カレンさんや(ANZEN漫才)みやぞんさんからは一度も「これ、どういう意味?」って聞かれたことはないですね。逆に佐藤二朗さんは何回も楽屋にいらっしゃって「なんだよこれ! 意味を説明してくれよ!」って聞かれました(笑)。

――今や、「丸山桂里奈=お菓子と謎のメモ」のイメージも定着しつつありますが、ご自身はそれについてどう思っていますか?

 私自身は自分の渡したメモを共演者のみなさんがSNSで取り上げてくださっているというのをずっと知りませんでした。もちろん自分では「謎手紙」だと思って書いていなかったし、書いたことが「謎」としてじゃなくちゃんと伝わってほしいけど、でもこの手紙をきっかけにみなさんが私に興味を持ってくださるのは嬉しいです。

 この本ができたのは手紙の提供に協力してくださった共演者の方や、制作スタッフさんのおかげです。いろんなことが、大きなバネになって、それを踏んで跳んだようなイメージです。

――もう少し詳しく伺ってもいいですか? 「バネ」とは何の例えですか?

 バネは、「ハッピー」のことですね。その大きな「ハッピー」を踏んで、私が跳び上がるぐらい嬉しいという意味です。

――最後に、読者へ、(謎)メモでメッセージをお願いすることはできますか?

 実はこれ、たまにファンの方と直接お話しする機会がある時にも言われることがあるんです、「僕に手紙書いてください」って。ちょっと難しいんですよね。その方のことを知らないと私、書けないんです。だから、架空のキャラクターに宛ててとかも無理かなぁ? でも、今日、番組でサザエさんと共演したから、次(サザエさんに)会った時には書けると思う! やっぱり一回は会っておきたいんですよね。

――そんな中、無理を言ってすみません。「好書好日」という本が好きな人たちへ向けたサイトです。読者を想像して書いてもらうことはできますか?

 もちろんです! 「こうしょこうじつ」難しい字ですね。あぁ「好き・好き」なんですね。

――「目と目の握手」、これは、私たちも今日丸山さんのことを知れたし、丸山さんも今日、この「好書好日」のことを知ったよ!というような意味ですかね?

 ……。ちょっと違います。

――失礼しました。「目と目が握手をするところまでのぼりだしましたよ」のところがわからなくて……。

 目と目は握手できないんだけど、目が合った瞬間に握手してるような絆が生まれましたよっていうことです。

――読者と、丸山さんの間に絆が生まれた、ということでしょうか?

 あと、本と、字と、手紙の間に、です。

――第二弾が出る時には「謎手紙」の「謎」がとれて、みんなが丸山さんのことを理解できていますように!

 そう信じています。サッカーで言うなら、まだゴールじゃない、通過点だって思っています。