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柚月裕子さん「暴虎の牙」インタビュー 世代超え受け継がれるイズムと熱、「孤狼の血」三部作完結

柚月裕子さん

 映画「仁義なき戦い」を彷彿(ほうふつ)とさせる容赦のない暴力団抗争や警察とのせめぎあいが繰り広げられる、柚月裕子さんの「孤狼の血」シリーズが新刊『暴虎の牙』(KADOKAWA)をもって三部作で完結した。役所広司主演で映画化もされた人気シリーズには、世代間の「継承」というテーマが貫かれている。

 2015年の第1作『孤狼の血』(日本推理作家協会賞)は、2人の刑事の出会いから始まった。

 「わしらの役目はのう、ヤクザが堅気に迷惑かけんよう、目を光らしとることじゃ。あとは――やりすぎた外道を潰すだけでええ」。そううそぶくのは、表彰も訓戒処分もトップ、捜査のためには包丁で組員を脅すこともいとわない、一匹おおかみの大上章吾。大卒の新米刑事、日岡秀一は、暴力団抗争の勃発を防ぐために体を張る大上の矜持(きょうじ)を、受け継ぐことを決めた。

 18年の2作目『凶犬の眼』で日岡は悩みつつ、極道者との自分なりの関係をつくっていく。今年の山本周五郎賞候補になっている『暴虎の牙』では、極道をも恐れぬ愚連隊の男を刑務所に追い込む大上と、その20年後、出所した男に立ち向かう日岡が描かれる。

 物語のなかの20年の間に、暴力団対策法が施行され、警察と暴力団の関係に対する世間の目は厳しくなった。そこに世代間のギャップと継承を書き込んだ。「大上のように自由には動けない中で、大上のイズムを、日岡がどのように受け継いでいくのか。悩みを踏み越え、目指すべき場所を見つけた姿が『暴虎の牙』にはある。当初よりだいぶきなくさい男になりました」

 「仁義なき戦い」を想起させるのは、飛び交う方言が癖になり、男たちの熱気が渦巻く広島が舞台だから。取材で現地に通って感じたのは、原爆投下から復興したその熱量だった。「なんにもない、復興できないと言われていた中、あそこまでつくりあげたパワーを肌で感じた」

 『検事の本懐』の佐方貞人シリーズなど、硬派な人間ドラマに定評があるが、自作にそれほど目新しい題材はないと話す。「このシリーズも、悪徳警官と暴力団というオーソドックスな組み合わせ。お好み焼きでいうならシンプルな具材しか使っていない。私なりの焼き方をそれぞれに楽しんでいただきたいという感じです」(興野優平)=朝日新聞2020年5月13日掲載